第63話 水龍の刀
なんか、気が抜けてしまった。
おそらく途中で、いずれかの勇者が居る国に立ち寄り、一騒動あり一冒険あり などと考えていたんですけど。
もう着いたって・・・・。
「もう着いたのー?早いねー。」
「ノアさん、凄いですね。見直しました。」
「すっごく早かったもんねー!」
皆、口々にノアを誉めている。確かに凄いよ。認めよう。気持ちを切り替えよう。
折角来たんだ。落ち込んでられないな。
「さっき見えたのが、王都かな?かなり大きな町だったな。一旦、馬車から降りて昼飯にして予定を立てようか。」
高空から見えていた町があったが、今は着地しているので見えてはいない。
向こうからも見えないだろうから、食事をして落ち着いてから再スタートだ。
「町も大きそうだから、馬車で皆で行こうと思うんだが、まだ冒険者ギルドには寄らないでおこうと思ってるんだ。」
「それは何故ですか?」
「私達はSカードだから、ギルマスに絶対呼ばれると思うんだよな。面倒じゃないか?」
「確かにそうですが、冒険者ギルドの情報もあった方がいいんではないですか?」
「それはいいんだが、その情報に行くまでにいくつか依頼をこなさなければならないだろ?」
「それは、私達がやります。今は10人居ますから、手分けしてやればすぐに終わりますよ。」
皆ウンウンと頷いている。
「頼もしいなぁ、お前達。でも、まずは町の見物をしながら情報収集しよう。折角来たんだからな。冒険者ギルドはその後だ。」
皆ニコニコ顔だった。
食事も終わり、町へ向かった。
門には入門の為の列ができており、それが幸いして列の少し手前で目立たず馬車を収納できた。
皆、軽装で武器も持っていない。ノアなんて、最近踊り子風の服になってるし。しかも徒歩で、装備しているのはララとロロだけ。ララも今は槍を収納しているので、武器が出ているのはロロの長剣だけだった。
ララとロロもメタル系装備だから、守備力は半端なく高いが、見た目は鉄の胸当てが目立つ程度の軽装備だからね。武器の熟練度が6を超えたからもうメタル系を渡している。
メタル系の色だが、鉄に似て非なるものだった。色自体は鉄に似ているのだが、艶消しの様な感じだが、くすんでいる感じは無く、逆にいつまでも新品の様な輝きがある。嫌味な輝きではなく、優雅な艶があるという感じだった。
艶消しの様な感じなのに艶がある。表現するのが難しい感じだが、鉄だとは誤魔化せそうだ。インナーの最強の鎖帷子は少ししか見えてないし大丈夫だろ。
この辺りの魔物のレベルは分からないが、列に並んでいる人からは不思議そうに見られた。
30分程度並んだだけで、入門で出来た。アラハンに聞いた通り冒険者カードは共通だった。途中、私とアトムだけ列を抜けて、目立たない所に魔法陣を作り、短刀で転送ポイントも登録しておいた。
マーメライという町で、マーメライメントという国の城下町だった。
城は一番海側で、門から一番遠い所に建っていた。
まずは拠点の為の宿探し。
宿は海の見える所を選んだ。オーシャンビューってやつだ。
海を眺めているだけでも気持ちが良かった。
一泊二食付きで一人銀貨50枚だったが、お金はあるので問題ない。
それより、通貨が違ったので、換金所に先に行って来なければならなかった。
貨幣価値は同じだったが、貨幣の大きさとデザインが違った。金貨1000枚を換金して来た。
宿には、1週間分払っておいた。観光もしたいしね。
皆、収納しているから荷物も無いが、一度部屋に入り服装を、この町の人に合わせるように変身させてから町に出た。
皆バラバラに情報収集を兼ねた観光に町を回った。
私にはココアが付いて来た。ララとロロにはアゲハとイロハが付いていた。
分かってはいたが、ソラは町の外へ、ノアは酒場情報探しだった。ブレないね、この2人は。ミルキーとショーンも単独行動だった。
夕食には集合だと言って、一人金貨50枚ずつ渡した。
今までの分も皆ほとんど使わず持っていたが、貨幣が違うし物の値段がわからないので念のためだ。皆が稼いでくれたお金だからね、こういう観光気分の時こそ還元もしないとね。
私とココアは城の方へ行ってみた。
城に近づくにつれて、だんだん周りの家も大きくなっていく。
人通りも少なくなって行くので、何も得るものはなく城門を見ただけで戻って来た。
帰りは別の道を通った。海から遠い道を選んだ。
家がそんなに大きくなくなって来て、店も増えて来た。もうしばらく行くとギルドがあった。鍛治ギルドだった。
中に入ってみると、美しい青系の色の刀が飾られていた。
歴代最高得点『水龍の刀』とあった。
隣には、4年前のグランプリの盾が飾られてあったが、水龍の刀に比べると かなり見劣りする出来栄えだった。
【鑑定】
名称:水龍の刀
種類:刀
攻撃力:600
守備力:0
付加効果:水中呼吸
なるほどぉ、確かに美しいし、龍素材の剣より攻撃力はあるな。
何より、ロンレーンの町の鍛冶屋の作った剣などよりも美しい。それは刀だからかもしれないが、流れる様な反りと柄巻に使われている皮の素材と巻き方がより美しさを引き上げていた。
受付の人に手に取らせてもらえないかと頼んだが、断られた。
少し粘って頼んでいると、奥から少し上役の男が出て来た。
鍛治ギルドのAランクカードを持っていることを思い出し、提示すると手に持たせてくれた。
解析完了。
これは拾い物だったな。これだけでも、この町に来た甲斐があったというものだ。
付加効果 水中呼吸も、同時に解析できた。
作者についても尋ねてみると、この町で店を出していると言う。店の場所も聞いたので、後で尋ねてみることにした。ついでに4年前のグランプリ作品も手にも持たせてもらえたので解析出来た。この町での開催は4年前だったのだろう。
展示物を一通り見て回ったが、他に目ぼしい作品は無かった。
鍛治ギルドを後にし、教えてもらった鍛冶屋に来てみた。
鍛冶屋にしては大き目の店なのだろうか、ロンレーンの町の鍛冶屋の3倍の大きさはあった。
入ってみると、武器はいくつか置いてあるものの、大した出来栄えの武器・防具が無い。
見た目は確かに美しく仕上がっているが、攻撃力100を超える武器が無かった。
しかも刀が無かった。
奥に隠しているのかと思って、聞いてみた。
「武器はこれだけ?」
「はい、これだけです。」
「鍛治ギルドで聞いて来たんだが。」
「ああ、水龍の刀ですね。あれは、うちの師匠の傑作です。」
「素晴らしい刀だった。この店には置いて無いのか?」
「はい、刀は師匠しか打てませんし、素材も最近では碌な物しか入って来なくて。」
「師匠はいないのか?」
「はい、師匠は素材を求めて旅に出ました。今はどこにいるのかも、いつ帰って来るのかもわかりません。」
「それは残念だな。素材があれば良い武器や防具が作れるのか?特に、水系の魔物と戦うには水に入るしかないから、水の中でも不利にならないような付加効果が望める防具とか作れないか?」
「それにはやはり水系魔物の素材が必要になります。最近では水系の魔物があまり入って来なくて。」
「それはなぜ?魔王とかの影響?」
「そうなんです。ここ10年、魔物の活発化が収まらなくて、冒険者が海に出なくなりました。たまに出ても、ほとんどの冒険者は帰って来ませんし、帰ってきても素材は取り合いになって、うちには滅多に入って来ません。」
「活発化だったら、魔物も増えるから獲れる魔物も増えるんじゃないのか?確かに魔物のレベルも上がるが、そこまで素材不足になることもないんじゃないのか?」
「入り江の入り口に棲みついた水龍が問題なのです。冒険者だけでなく、軍も何度も討伐に向かっていますが、水龍の周りにはサメ系のシャーガーやクジラ系のホエーラーなどの魔物も周りを固めているため、軍も何度も討伐に出ましたが、すべて失敗に終わりました。」
折角ここまで来ているのに残念だなぁ。何とかならないものか。一度様子を見に行ってみるか?
「そこまで船を出せる奴はいないのか?」
「今は誰も出さなくなりました。」
「素材があれば、あんたにも作れるのか?」
「はい、刀以外でしたら一通り師匠よりお墨付きは貰っています。特に防具は誉めていただきました。」
「じゃあ、素材を持って来たら作ってくれな。水系の物が欲しいんだ。」
「素材はうちとしても喉から手が出る程欲しいのです。こちらこそお願いしたいくらいです。」
「わかった。約束だぞ?ココア、ちょっと見に行ってみるか?」
「はい、行きましょう。」




