第48話 受け入れ先
「タロウさん!遅いです。待ちくたびれましたよ。」
アラハンが、私を見つけるなり怒ってきた。
「すまない、これでも急いだんだけどな。それで、今どうなってる?」
「レムンドン伯爵は今、領主の所へ行っています。この町の子供はほとんどいませんから、保護するのは当然として、滞在する場所と送り返す方法を相談に行ってます。それより、伯爵の庭がボロボロになっています。もう少し大人しくするように言ってください。」
確かに。
「仕方が無いんじゃないか?攫われて暗いダンジョンで捕らわれてたんだぞ?少しぐらい多めに見てやろう。」
アラハンは、はぁと溜息を吐き諦めていた。
「アラハンさん、話すことがまだまだあるんだ。」
思いっきり拒否された。今日は無理です。だって。
そうも言ってられないんだけどなぁ。時間こそが勝負なんだけどねぇ。
でも、一つだけ聞いておこう。
「南の勇者って知ってるか?」
「南の勇者って言ったら、ここから馬車で2か月の距離にあるエンダーク王国の勇者の事ですね。この大陸の一番南にある国です。何十年かに一度勇者召喚をすることで有名な国です。」
「勇者召喚?」
「異世界の人間を呼び出すんです。呼び出された人間は非常に強く、不思議な力も持っています。魔王を倒すために呼び出されるのですが、最近では、戦争のために呼び出されることもあるようです。謎の多い国の一つです。」
このままの流れでダンジョンについても話そうか。イヤ、今日は辞めといてやろう。
「南の勇者って言うぐらいだから本家の勇者なんかもあるのか?」
「ありますよ。中央に位置するヴァンブレアム帝国。ここには勇者が必ずいます。勇者が死ぬか、引退するかすると、次の勇者召喚が行われます。この国の勇者は魔王を倒したものはいないと言われております。周りの国への牽制だけのためですね。軍事力は強力なんですが、周りを他国に囲まれていますからね。」
そんなの勇者じゃねーじゃん。魔物と戦えよ!
「それで魔王を倒すために召喚されるのが、南の勇者か北の勇者なんです。」
北にもいんのかよ。
「あれ?西と東は?」
「西と東にはいません。」
そうなんだ。
レムンドン伯爵が戻ってきた。
「お帰りなさいませ。如何でしたか?レムンドン伯。」
真っ先にアラハンが駆け寄り声を掛けた。
「おぉ、アラハン。ただいま。上々だ。」
「それは何よりです。その上々の内容をお伺いしてもよろしいですか?」
「ああ、いいとも。この件の元になった冒険者にも一緒に説明したいのだが。」
私も呼ばれ、屋敷に一緒に入った。
中に入ると流石に伯爵邸。豪華な装飾品が飾られている。ただ、豪華なのはわかるが嫌味が無く、伯爵の性格がそのまま出ているような感じだ。
私達は応接室に通され、説明を受けた。
出された紅茶に似た飲み物も、非常に薫り高く美味しかった。ホッと落ち着く感じになれた。
「領主様との話は上々だった。」
伯爵が話し始める。
「まず、子供達だが3つのグループに別れることになる。城とこの屋敷とカリファーン男爵の屋敷に分けることになった。城には貴族の子供達。この屋敷には一般の子供達。カリファーン男爵の屋敷には獣人の子供達に分かれる。」
確かに獣人もいたなぁ。フードを被ってわからないようにしていたが、尻尾が出て居た奴がいたなぁ。初めの頃のソラを思い出すよ。
「割り振りとしては、城に7人。この屋敷に61人。カリファーン男爵の屋敷に2人。」
「2人だけ・・・ですか?」
「んん。儂もそう言ったのだがな。2人だけなら構わないと。だが、伯爵邸に獣人を泊めるなんてと、たまたま居合わせた男爵に強く言われてなぁ。領主様からも同じことを言われたから、こちらからはそれ以上言う訳にも行かずな。」
この国では獣人は、奴隷にされたりかなり差別をされて迫害されているそうだ。
でも、これってフラグってやつじゃね?チェックだな。
フラグっていうものじゃ無いかも知れない。でも中身は50。若者の真似をしたいんです。
「ほとんどはノーライザの町周辺の子供じゃないかと思われるが、身元確認もあるし、相手側の受け入れの確認もある。出発は、2週間後ぐらいになるのではないかと予想している。」
「一度に纏めて移動するんですか?」
「大半の子供についてはそうなるであろうな、騎士団の護衛も付くだろう。貴族の子供は家の者が迎えに来るとは思うが、一般の子供はこちらから送り届けることになるだろう。」
「私共、冒険者ギルドも協力できることがあれば、参加させていただきます。」
「そうか、何かあれば頼むこともあるだろうな。それより・・・・。」
伯爵は私の方を向く。
「初めが大変だったのだぞ!説明のしようも無い話だからな。本当の事を言うと、頭がおかしくなったと思われてしまう。」
横でアラハンがウンウンと同調している。
「私も隠してもらったようで安心している。目立ちたくないからな。」
「儂に見せたように、領主様だけにでも証明してもらうと助かるんだが。」
「それは断る。面倒なことになるだけのような気もするし、このまま私の事は隠して貰えるとありがたい。」
「そうは言うが、門も通らずに70人の攫われた子供が居ることは隠しようが無いぞ。下手をすれば私が犯人に関わっている者と勘違いされてしまう。」
「そこは何とかしてくれ。私はここにいるアラハンさんから受けた依頼を完了して、イヤまだ完了とは言えないが、そこにいた子供達をダンジョン内に放っても置けなかったから連れて来ただけだ。本当に犯人にされそうになったら、その時は仕方が無いから見せてもいい。」
「仕方が無いって・・・」ダンジョン内から?連れて来ただけ?依頼?まだ完了ではない?
伯爵とアラハンから 質問と罵声をいっぱい浴びた。
「貴方が証明すれば、褒賞はもちろん、もしかすると勲章も貰えるかもしれんのだぞ?」
「そういうのが面倒なんだ。私にはまだまだ遣らないといけないことがあるんだ。」
そうそう、東の森の後始末もあるし、簡易家も回収しないといけない。仲間作りもして、もしかしたら村ができるぐらいになるかもしれないし、武器も作りたい。元の世界や東の国への戻り方も探さないといけないしな。世界もまだまだ広いようだし、情報を集めたい。
勇者の事は、ちょっとだけ気になる。
「まだ完了ではないと聞こえましたが、どういうことでしょうか?」
アラハンが尋ねて来る。
「3番目の依頼って、東の森の調査と討伐だったよな。あっこれ、ここで言っても良かったか?」
「ええ、伯爵なら構いません。この町の冒険者ギルドの一番の後ろ盾をしていただいている方ですから。3番目の依頼の内容は合ってますよ。」
そうだったのね。冒険者ギルドの後ろ盾ね。だからここを頼った訳か。
「その原因はわかったが、解決するには至っていない。まだ途中って感じだな。
全部ここで言ってもいいか?」
「ええ、お願いします。」
お、ラッキーだ。明日にするのも面倒だと思ってたから。
「順番としてはこうだ。」
私は、順を追って説明した。
火竜の件とケルベロスの件から派生したレッドワイバーンの話。
ロンレーンの町での人攫いの件を解決した時に、アジトの本部が東の森のダンジョン内にあるのが分かった話。
ダンジョン内の最深部にアジトがあり、無力化はしたがまだ悪者共が残っている話。
そして、今回の森の魔物が活発になった原因としては、ダンジョン内の異変での魔素の大量放出と悪魔が3体放たれたままになっていることであるということ。
その悪魔を何とかしないと解決には至らないと予想している事をすべて説明した。
元勇者ケンジについては黙っていた。
だって元とは言え、勇者討伐してしまったんだぜー。魔王扱いされそうで言えねーよ。
伯爵もアラハンも 黙り込んでしまった。まずは理解をするところからやっているんだろう。時間が掛かりそうだし、待っていても当分は話すこともできなさそうだから、一旦外の空気を吸ってくると言って、庭に出た。
ちょっと足しました。




