第43話 ケンジ
大きな家だった。
これならノアが竜に戻っても5人分は十分入れるぐらい大きな家だった。
ここに来るまでは、他の家からは誰も出て来なかった。まったく邪魔も無く、ボスの家に入れた。ダンジョンの割にはこのフロアは少し光があるのか、薄暗い程度だった。家には明かりも点いている。
普通、ここまで来る部外者もいないだろうから無警戒なんだろうか?
見張りもいたし、安心しているんだろう。
「サーチ」家の中をサーチする。範囲が狭いからいつもより詳しくわかる。
バラバラにいるな。大きな赤い点が2つ。中が1つ、小が2つか。大きいのはレッドワイバーンとオーガロードだろう。中が凄腕剣士で小がケンジともう一人いるな。
動きが無いところを見ると、気付いて無い可能性は高そうだ。
そうなると、気付いて逃げられる方が困るなぁ。
各個撃破で行ってみるか。
レッドワイバーンにはノアもミルキーも罪を被せられてるし、この感じなら
「レッドワイバーンとオーガロードはノアとミルキーとソラに任せる。凄腕剣士はココアに頼んでいいか?」
「わかったわぁ。」「了解しました。」「りょーかいー」「かしこまりました。」
「私はボスのケンジのところへ行ってくる。生かす必要は無いからな。」
もう一人ケンジの近くにいるが、サーチ結果からするとケンジより小さいから雑魚だろう。
それぞれの場所を教え、私はケンジと思われる小の点の場所に向かう。
案内させた男には、入り口に待機させ来るものがいても入らせないように命令をしておく。
ケンジと思われる者がいるの部屋の前に着いた。
部屋の扉の鍵は掛かって無かったので、そのまま開けて中に入る。
リビングのようだったが、誰もいない。
更に奥の扉が開いていて、そこで何やら研究中のようだった。
都合の良いことに、背中を向けていたから今のうちに鑑定しておこう。
【鑑定】
名前: ケンジ
年齢: 16
種族: 人族
加護: なし
状態: 混乱(魅了)
性別: 男
レベル:13
HP:314/314 MP:410/410
攻撃力:167 防御力:157 素早さ:131
魔法: 火(2)・水(2)・土(1)・風(2)・氷・雷・闇・光・召喚(5)
技能: 剣(3)・槍(1)・弓(1)・錬成(9)・研究(7)・採集(1)・解体(1)・回避(2)・遮断(2)
耐性: 熱・風・木・水・雷・
スキル:【収納BOX】6【鑑定】2【勧誘】Max【再生】2
ユニークスキル:【盗む】
称号: 南の元勇者
従者: ゴーレム ゴブリンキング オークキング リザードキング オーガロード レッドワイバーン ダグロス
ケンジで間違いないようだが、混乱(魅了)って・・・南の元勇者って・・・。
しかも弱すぎるだろ?勇者?? いたね・・・。勇者なのに【盗む】って
突っ込みどころ 満載すぎるー。
レッドワイバーンも従者になってるし勧誘Maxって、真っ黒じゃん!
でも、勇者ってレベルが低くても各ステータスが高かったりするのがチートの世界だけどな。でもレベル13ならこんなもんか。その辺の騎士よりは十分強そうに思えるが。
HP・MPが見れるようになっているが、油断は禁物だな。一応、勇者って入ってるしね。
「ダグロス、入る時は声を掛けろといつも言ってるだろ?なぁ。・・・・誰?」
ケンジは、こちらに振り向き身構えて警戒する。
ダグロスというのは凄腕剣士のことだろうか?
この家で人間と思われるのは3人だけだからそのうちの一人だろう。
もう一人は同じ部屋にいるはずだが。
私は排除か、捕獲か、仲間にするか、放置か。
すごく迷っていた。勇者だし、混乱してるし、弱そうだし。
どれでもできるから、まずは捕獲して事情を聞いてみるか。
「何か言えよ!」
ずっと黙っている私にケンジは声を荒げる。
「やぁ、初めましてケンジ。私はタロウ、冒険者だ。」
軽い口調で声を掛けた。
「な、な、何者だ??見張りは何をしていた?」
「この家に見張りはいなかったぞ?」
「この家じゃなくて、フロアの入り口だ!いや、そうじゃなくて何者だ??なぜ俺の名前を知っている?」
「お前の子分に聞いた。」
嘘だけど、鑑定で分かったと言って警戒されたくない。
「子分? どこに居た奴だ!?」
「フロアの入り口にいたよ、今はこの家の見張りを手伝ってもらってる。」
「6人共か・・?」
「いや、一人だけさ。」
「どういうことだ!何が目的だ・・・・」
ヅガーーーン!!!ゴワーーーン!!
「「!!!!!!」」
急に大きな地震が起きた。すごく大きな揺れだったが、5秒ほどで止まる。
「なんだぁー!?」
揺れは止まったが、家が崩壊し始めている。
「主様!お怪我はありませんか!?」
ココアが走り込んできた。手には見たことも無い剣を持っていた。
「ココア?なんでいる?」家の崩壊も気になるが、お前は凄腕剣士のところだろ?見つからなかったのか?
「任務完了です、これは戦利品です。」と剣を見せる。
「へ?」変な声が出てしまった。
こっちはまだ話し中だけど・・・・。
「我が主ぃ」「タロウ様ー。」ノアとミルキーも入って来る。
「お前たちもか?」
「タロウ様!ソラさんを叱ってください!」
「そうよぉ、わらわも何もできなかったのよぉ。」
ソラがまたやらかした?
「ソラさんが、いきなり必殺技『参号』って言って、全部無くなりました。」
「それで家も半分無くなったわよぉ。」
やっちゃいましたかー
「さっきの地震の原因は・・・ソラ?」
「そうよぉ。」
「ご主人様ー! これいるよねー?」
ソラも入ってきた。手には大きな魔石を2つ持っていた。
「・・・・・・・・。」
なんとなく全部分かった。
警戒した私がバカでした。
レッドワイバーンもオーガロードも凄腕剣士も全部簡単に死んだのね。
「な、な、な、なんなんだ!?」
ケンジが叫ぶ。
次々に入って来る彼女たちに、地震に家の崩壊。
普通、付いて来れないわなぁ。
「お前の持ってるその剣!ダグロスの剣じゃないのか!?」
ココアの持ってる剣を指差す。
「ダグロスって言うんですね、先程の剣士は。もういませんけど。」
「な、な、それと、その魔石はなんなんだ!」
「これはねー、レッドワイバーンっていう子とー、オーガロードっていう子のだよー」
ソラさん、子では無いと思うんだよ、いつも。
「な、な、な、なんなんだよ!お前らはー!」
「主様、切りますか?」
「だめよぉ、今度はわらわの番よぉ。」
「いえ、タロウ様、私の順番です。」
「あなたはここに来るまでに遊べたじゃないぃ、ずるいわよぉ。」
「ちょっーと待ってくれ。ケンジにはまだ何も聞いてないんだ。魅了されてるし、誰か捕まえててくれないか?」
では、私が。と、ココアが髪の毛を抜き尻尾化させてケンジを拘束する。
すごく簡単に捕まった。これで勇者?ステータス通りではあるんだけど。
私は奥でこっちを見ている女に声を掛ける。
同時に【鑑定】も行う。
「そこの女!お前はよく事情がわかってそうだ。降参して、色々話を聞かせてくれないか?」
【鑑定】
名前: シューラッド
年齢: 31
種族: 人族
加護: なし
状態: 普通
性別: 女
レベル:13
HP:142/142 MP:321/321
攻撃力:45 防御力:32 素早さ:77
魔法: 火(2)・水(6)・土(6)・風(2)
技能: 剣(1)・槍(2)・弓(3)・錬成(6)・研究Max・採集(8)・解体(8)
耐性: 熱・風・水
スキル:【誘惑】Max
ユニークスキル:
称号: なし
従者:
誘惑を持ってる。こいつが黒幕??
「私に、何か聞きたいわけ?私は何も知らないわよ。でも、あなたが知りたいのなら知ってることは教えてあげてもいいけどー。こっちに来・・・・ゲフッ!!・・・。」
ミルキーが伸ばした槍が女の胸を貫いた。
「シューラッド―――!!シューラッド、シューラッドー!」
ケンジが叫ぶ。
「タロウ様、この女タロウ様に向けて精神支配を仕掛けておりました。出過ぎた真似かとは思いましたが、排除しました。」
「・・・・・・・・。」そうなのか?【那由多】?
――確かに、誘惑の精神攻撃を受けましたが、個体佐藤太郎には何の効果もありません。精神攻撃に対しては、【那由多】がありますので、何の効力も発揮出来ません。
そうだったの?それも初耳ですけど。
――特に必要性を感じませんでした。
はいはい、いつもの答えね。
「確かに誘惑を仕掛けてきたみたいだな。私には無効みたいだ。」
「そうでしたか、失礼しました。」
「いやミルキー、ありがとう。」
「またぁ、わらわの出番はないのぉ?」
「ノア、たぶん、あるかもしれないよ。無いかもしれないけど。」
ノアをはぐらかし、ケンジの前まで行った。
【鑑定】するが魅了は解けてない。
「お前らよくもシューラッドをーーー!」
拘束されながらも、こちらを怒鳴りつける。目は先程よりも狂気に満ちて目が血走っている。
「ノア?こいつ、魅了されてるんだが解けないか?」
「残念ながら、無理だと思います。さっきの女が死んだことによって、更に強力に魅了されています。ここまで強力になると、もう解けないかと。」
「そうか・・・・・。」
ならば、せめて私の手で・・・・。
刀を一振り!
ケンジの最期だった。
家が、人工物だからなのだろう。ケンジは吸収されない。シューラッドと呼ばれた女も吸収されてなかった。
――南の元勇者ケンジを倒したことにより、ユニークスキル【盗む】を獲得しました。
魔法: 火(2)・水(2)・土(1)・風(2)・氷・雷・闇・光・召喚(5)
技能: 剣(3)・槍(1)・弓(1)・錬成(9)・研究(7)・採集(1)・解体(1)・回避(2)・遮断(2)
も加算されます。
スキルの熟練度は、自分の熟練度に振り分けることができます。どれに振り分けますか?
え?え?え?・・・いや・・・・、後にしよう。
【那由多】、後で決定することにする。
――わかりました。




