第39話 全部否定された
「こっちも聞きたいことがあるんだ。」
「なんでしょうか?」
「一つアラハンさんの意見を聞かせてほしい。今回の2件の依頼については一つの事が原因のようだ。火竜については町は襲っていない、濡れ衣だ。ケルベロスについては赤いドラゴンに対する報復。どちらもレッドワイバーンが暴れていた事が判明している。すべて二人を仲間にしたことでわかったことだ。しかも人間まで絡んでいる。そのアジトが東の森ではないかと私は踏んでいる。ノーライザの町で起きた人攫いの本部も東の森にある。人攫いの件とレッドワイバーンの件の人物が同一人物で何かをやっていてその為に、東の森で異変が起きていると思うと辻褄が合う。その何かまではわからないが。今回の3件の依頼と人攫いの件、全部繋がっているように思える。」
しばらく沈黙が続く、アラハンの思考が付いて来ていないようだ。
ただ、思考停止しているわけではなく ブツブツ何かを呟きながら集中して考えている。
私は邪魔をせず少し待つことにする。
「タロウさんには驚かされっぱなしですが、冒険者ギルドとしてもそこまでの情報はわかっていませんでした。火竜とケルベロスから話を聞くこと何て不可能ですから。あのお二人を仲間にしているからできることですからねぇ。」
まだ少し考えながら話している。
「人攫いの本部があると思われる東の森にレッドワイバーンもいると思われている。それで東の森に行く前に準備を整えているというわけですか。」
「理解してくれたな、その通りだ。」
「しかも3番目の依頼の東の森での魔物の活動期の調査の件に、そのレッドワイバーンが絡んでいると。」
伊達にギルマスをやっているわけでは無いな。信じられないながらもしっかりと考えているようだ。
「いえいえ、今までの経験とタロウさんの非常識さを考えて、ようやく辿り着いた答えです。それでも理解しようと思っても中々理解できていないのが現状です。私の常識では、信じられないことが多すぎる。」
「非常識さって・・・、まあいい。そこで聞きたいことは東の森の石碑と祠だ。知っていることを教えてほしい。」
アラハンが持っている情報は、あまり今回の件と関係ないことばかりだった。
石碑と祠の伝説だから仕方が無い。
昔、祠から現れた勇者が魔王を倒しその記念として石碑が建てられた。
勇者は元の世界には帰らなかった。寿命を全うした勇者は、今は石碑の下で眠っているという。だが、それを証明するものは何もない。今まで、専門家が石碑と祠を調べたが 何もわからなかったそうだ。ただ、当代の王様だけに口伝で伝わっているというが、それも確かめようがなく眉唾もんだそうだ。
やっぱり勇者はいるのか?魔王まで出て来たぞ。勇者に魔王はセットなのかな。
私は勇者では無いじゃないよなぁ。そんなの面倒過ぎるし、重すぎるし。
私のパーティは私以外魔物だぞ!そんな勇者一行に魔王も倒されたくないだろ。
称号も【勇者】じゃなくて【東の国の冒険者】だし、大丈夫じゃないかな。
「勇者の伝説と国王か。今回の騒動にはあまり関係なさそうだな。」
「確かにそうですね、申し訳ありません。」
「いや、構わない。それで初めて会ったとき、祠から出てきて石碑のところで野宿した話をした時、納得していたのか。」
「その通りです。まだ少し信じられませんが、この話も知らないような人から聞ける話ではありませんから。」
確かにな。論理的・客観的に考えているようだ。今後も相談させてもらおう。
「それで、今後どうされるつもりですか?」
「準備を整えるのに、もう少し時間が掛かりそうだ。準備が整い次第、東の森に行ってみようと思っている。」
一つ忘れていた。
「あ、そうだ。強力な魔物を従えるような、術やアイテムについて情報はあるか?例えばレッドワイバーンを操れるような。」
「そんなものがあったら、こちらが聞きたいぐらいです。格下の人間や魔物に対するものはあっても、各上の今回でしたら火竜やケルベロスに効くようなものなんてありません。レッドワイバーンでもです。」
「聞いた話では、闇魔法や強力なアイテムがあるということだったが。」
昨日の話をぶつけてみる。
「例えば、闇魔法なら何人もで合成魔法をするとか、アイテムなら強力なものとか相性のいいものとかを使うことで何とかならないか?」
「なりません。どこから目線ですか?タロウさんが強いことは十分に分かっておりますが、そんな人間はおりませんよ。何人で合成魔法を組めばケルベロスクラスを操れると思っているんですか?最低30人は必要でしょう。それでも操れるかどうか・・・。しかも闇魔法の使い手は少ないですし、その術が使える上位のものはもっと少ないです。この国中探しても5人もいないでしょう。」
「その中でできそうな者は?」
「いません!」
「因みにアイテムなら?」
「それこそ現実的ではありません。魔物を操るためには、最低でも同等の強さの魔物の魔石が必要です。相性なんかもありません。火系の魔物だから水系の魔物の魔石が効くなんてことはありません。ケルベロスクラスの魔石を簡単に取れると思いますか?火竜もケルベロスもギルドではSランクの魔物に指定しています。Aランクの魔石では50個で同等と見ています。操るだけで、そんな勿体ない事をするとは思えませんし作ったからと言ってそれをどうやって付けさせるんですか?まったく現実的ではありません。」
昨日考えたことを全部否定されたなぁ。行って見てみるしかないのかぁ、また出たとこ勝負だなぁ。
「ありがたい意見だった、参考にさせてもらう。ありがとう。」
と倉庫に寄ってグリーンオーガは5匹いたので全部出してやり、ギルドを後にした。
報酬は1匹分の金貨300枚しか用意してなかったので、残りは改めて用意するとのことでアラハンと別れた。依頼達成料200+素材代100ということなので、あと素材4匹分。




