第32話 二人のチンピラ
ロンレーンより小さな町だし、目新しい魔法は無かったが、複合魔法の魔法書がいくつかあったので、購入と少しの手ほどきをココアと受けた。あと回復魔法があった。
先に回復魔法を覚えないとな。小判のセットは任せることにしているが、やはりあった方がいい。
宿に戻ると、ちょうど夕食前の時間だった。特に何時に食べないといけないというわけでは無いが、いつも19時から20時の間に食べていたので、今日は風呂を後にすることにしたから19時集合にしていた。
まだみんな帰ってない。
私たちの次に帰って来たのはノアだった。夜の酒場の情報収集をしていたそうだ。
少し遅れてソラが帰って来た。
「ご主人様ー、悪い人をやっつけたんだけどーどうしたらいい?」
「な、やっつけたって・・・相手は人か?」
「そうだよー。」
人を相手にしたらダメじゃん。ソラの力じゃ殺しちゃうじゃん。
「相手は・・・生きてる・・よな?」
恐る恐る聞いてみる。
「生きてるよー」
ホッ、生きててくれてありがとう。
「それで、その相手はどうしたんだ? 怪我は?」
「瀕死ってなってたけど生きてたよー。今は影縛りしてるー。どう?ご主人様と一緒だねー。」
確かにミルキーの時と状況は似てるけどー、人間相手にそれを真似しちゃダメでしょー
「はぁ~、回復薬はまだあるのか?」
「あるよー」
「じゃあ、そこに連れてってくれ。」
「わかったー、こっちだよー付いて来てー」
ミルキーがまだ帰ってきてないので、ノアを宿に待たせて、ココアを連れてソラの後を追った。
そこは町の外だった。2人の男が伸びていて、影縛りのための式具も確認できた。
「まずは回復薬を飲ませてやってくれ。それと影縛りはもう解いていい。」
「わかったー」
回復薬を飲ませて状態が普通になったことを確認した。
「ソラ?どうしてこうなったんだ?」
「このおじさんたちがねー、気配を消して寄って来たから目の前に出て、なぁにって聞いたのー。そしたら急に襲い掛かって来たのー、大人しく捕まりやがれーって。」
この程度の奴らではソラに指一本触れることもできないだろう。
状況と言ってることからしたら、こいつら人攫いのメンバーだろうな。間違いなく。
拷問して捌かそうか。しかし、拷問ってどうやってするんだ?やったこと無いけど・・・。
「たぶんこいつらが人攫いグループのメンバーだろうな。ソラ、もう一回影縛りしといて。」
「わかったー。」
「お待ちください主様、私もこの者共が人攫いに関係するものだと思います。私が縛りあげましょうか?」
「お、ココアできるか?」
お任せください、とココアは髪の毛を2本抜き、フッと息を吹きかけると、大きくなりながら二人の男たちを縛り上げる。縛り上げ終わると、ブレスレットに付けているのような尻尾になった。
もちろん逃げられないような大きな太い尻尾だった。
色んな芸があるんだね、うちの娘たちは。助かるよ。
私はビンタをして二人の男を起こす。
「お前ら、人攫いだろ?」
2人の男は状況がわからずキョロキョロしている。
私は1人の男へビンタを1発。
「なにするんでぇ、オレらが何やったって言うんだよ!」
おお!テレビで見たことあるー、チンピラの台詞だー。ちょっとテンション上がるー。
「お前ら、うちの娘に何か用なのか?大人しく捕まりやがれってなんだよ!」
「娘? おいおい兄さん、だれの娘だって? 兄さんとそんなに違わねぇじゃねぇか。」
バチンッ!照れ隠しにビンタを1発。
「そんなことはどっちだっていいんだよ!お前ら人攫いだろ? 正直に言えよ。」
「知らねぇよ。人攫いって誰のことだ? オレ達は何にも知らねぇぜ。」
あるある、よくあるパターンだ。でも面倒くさくなってきた。
「主様、切りますか?」
また薙刀が出てる。あ、でもいいか。殺さなきゃいいんだから、少しぐらい切ってもいいかも。人攫い確定だしな。
「そうだなぁ、少しぐらいならいいかもしれ・・・・な・い・か?」
言い終わらないうちに、ココアが一閃! 男の右腕が飛ぶ。
「まだ言い終わってないから。ちょっとだけ待ってねココアさん。」
「かしこまりました。」
容赦ねぇな、ココアって。あ、うちの連中全員そうかも。
男たちには、ココアが何をしたのか見えなかったろう。人間には見えない速さでの薙刀の一閃であった。何が起こったかもわからず2人の男は落ちた腕をジーっと見てる。
「ソラ? これってお前の薬で治るもんなの?」
「治るよー。」
「良かったね、治るらしいよ。」
と言い終わったら、切られた男の腕の付け根から血が噴水のように噴き出した。
「ソラ、出血多量になってもマズいから、先に治してやって。」
ソラは先に男に回復薬を飲ませて落ちている腕を拾い上げる。その腕を男の方に放り投げると同時に、回復薬も振りかける。全然違うところに付いたように見えた腕が、元通りに治っている。なにやったのソラさん。ホント凄すぎ。説明は・・・・いらないよ。
そこで我に返った二人。切られた方は「腕がー腕がー」って言ってるし、切られてない方はギャーギャー煩いし。あ、漏らしてるよー、あーあ。そりゃ隣の奴の血がガンガン掛かってたしなぁ。
「もう治ってるぞ! 煩いんだよ!」切られた方は、拘束していたココアの尻尾も一緒に切ったので、自由にはなっている。
切られた男は左手で、切られたはずの右腕を確認している。
「あれ?・・・・今・・・。」
「ああ、お前の腕は、そっちの娘に切られて、こっちの娘に治してもらったんだ。信じられないんならもう一回やるか?」
男は無言で首をブンブン振る。
「そっちの奴はどうなんだ?試してみるか?」
もう一人の男も首をブンブン振る。
「じゃあ、しゃべってもらおうか。お前らは人攫いグループなんだな?」
無言でウンウンしている。
「でー、うちの娘を攫おうとしたんだな?」
少し間があったが、ウンウンしている。なんだよその間はー。娘って方か?まぁいい。
「お前らを付き出すことは決定だが、その前にアジトの場所を教えてもらおう。」
2人してブンブンと首を振り、いやだと言う。
「へぇー。」とココアの方に目をやる。ココアは薙刀を右から左に握り替える。
男たちは大きな口を開けて泣いて懇願しているが声が出て無い。
「お前ら!口は縛ってないんだ、しゃべれるだろ! しゃべれよ!」
ハッと気づいた男たち。
「すいませんすいません、勘弁してください。すいませんすいません・・・・」
延々と続く。
「アジトの場所を言えば勘弁してやるよ!早く言えよ!」
まだ「すいませんすいません・・・・」が続いている。
ホント煩い。ココアが素振りを一発して奴らの顔の前で刃を止める。
「うるさい。」
やっと静かになった。2人して両腕の確認をしている。
「で、アジトの場所は どこなんだ?」
聞いてもいないことまで全部しゃべってくれた。
アジトと言ってもここは支部のようなところで、本部は東の森にあるらしい。
支部のことも本部のことも全部しゃべってくれたので、そのまま門まで連れていき、門兵に引き渡した。




