第31話 Sカード
「どこから来るのか、という情報がいるなぁ。」
「ご主人様ー、それなら町に行こうよー、うち町に行きたーい。」
「主様、私も賛成でございます。」
「わらわも久しぶりに町に行きたいわぁ。」
「タロウ様?私は町は初めてです。是非行きたいです。」
「そうだな。行ってみるか。何か情報があるかもしれないしね。」
その町の名前はノーライザという町だった。
ロンレーンの町より小さい町だったが、周辺の壁はロンレーンの壁の1.5倍は高かった。
門まで行き、入門手続きをする。
私とソラとココアは冒険者カードで問題なく入れたが、ノアとミルキーは仮入場の手続きをして、こちらも銀貨5枚で入れた。
犯罪履歴無しと出たのが不思議だったが、出ないのだから黙っておこう。
ミルキーは鉱山を襲っているし、その時に人間もやっつけているだろう。今までにだってあるだろうし、ノアだって問答無用で人間を排除しているだろうし。それは魔物として当たり前のことだから犯罪履歴にはあてはまらないのかな?あくまでも想像だが。覚醒でクリアになったのかもしれないし。
問題なく許可が下りたので問題無し。
この町にも冒険者ギルドはあるらしいので、ノアとミルキーの登録のため立ち寄った。
ここでも登録は問題無く、すぐに冒険者カードを発行してくれた。パーティ登録もされた。
ただ、なぜかマスタールームに呼ばれ、今この町のギルドマスターの前にいる。
「ボンダールです。」と自己紹介をした男は、小太りのギルドマスターだった。50歳ぐらいに見える。私の同僚にも似たような奴がいたなぁ、と思いながら見ていた。
ギルマスは、すごくにやけた感じでノアとミルキーを見ている。
確かに綺麗だけどな。にやけ過ぎだ。ノアもミルキーも知らん振りだったけど。
「ようこそいらっしゃいました、タロウさん。お呼び立てしてしまって申し訳ありませんでしたな。少しお話がしたかったのですが、よろしいですかな。」
「何の話だ?」
町にいる時の口調に変える。以外にこの口調はしんどい。まだ慣れないが、いつも通りにしゃべると舐められる気がするから仕方が無い。たぶん間違ってないと思う。
まあ立ち話もなんですからと、全員に椅子が用意された。
やはりこちらでも秘書が飲み物を用意してくれる。
「こちらにもロンレーンのギルマスから連絡は入っていまして、タロウさんたちウルフォックスのメンバーが立ち寄ることがあったら、進行状況の確認を取ってくれとありました。それとは別にこちらから、少しお願いがありまして。そうそうロンレーンに戻ったら、マスタールームに立ち寄るようにとも伝言がありました。家が何とかとありましたが。」
げっ、やっぱり高すぎたんだな。いくらか請求されるかな?快適に過ごせてるし人数が増えて手狭になってきたから増築も考えているし、行くしかないか。完了報告もあるしな。
「まぁ、家のことは置いておいて、進行状況だが2つは解決した。」
「おお! なんと! もう解決したのか? それで2つとは? 順番から言って火竜とケルベロスのはずですな。ロンレーンを出発した日は聞いているが、まだ3日しか経っておりませんな。タロウさんがここにおるもの信じがたいが。もう解決したとは・・・。」
「そうだ。火竜とケルベロスの件は解決した。だが、そのおかげで別の問題が発生した。」
「ちょっと待ってくださいな。順を追って話を伺いたい。」
話に付いてこれないギルマスが一旦話を止める。
「順を追ってか。では、移動方法は秘密だ。火竜は仲間にした。その火竜に いや今は神龍に覚醒しているから、神龍に乗って鉱山まで行き、ケルベロスも仲間にした。そしてまた神龍に乗ってこの町までやってきた。以上。」
何言ってるんだこの人は?みたいな目でこちらを見るギルマス。
なんかあったなぁ、こんな場面。あ、ココア!と、隣に座っているココアを見ると腕を組んで冷ややかな目でギルマスを見ていた。
まぁまぁ、とココアの肩を揉んでほぐす。
ココアは少し顔を赤らめながら俯いた。なんとか危機は脱したようだ。
ギルマスに向き直り
「信じる信じないはそちらの勝手だが、別に嘘は言っていない。完了報告はロンレーンのギルマスにするだけだし。ただ、さっきも言ったように別の問題が発生した。それで情報があれば聞きたい。」
ギルマスは一気に捲くし立てる私に、まぁまぁ落ち着いてくださいと言いながら両手で私を落ち着かせる仕草をする。
「わかりました。Sカード冒険者ですからね。信じましょう。その件はロンレーンのギルマスに任せるとして、私の方は別の話があるんです。」
「ん? 私はCランクだぞ? Sカードってなんだ?」
説明もしてなかったのかあいつはーと言いながら、ギルマスが説明をしてくれる。
「まずカードを確認してください。Cの横に小さくSの文字があるでしょう。」
確認すると確かにCの横の右上あたりに小さく+Sとあった。
「そのSが付いているカードはSカードと言いまして、Aランク冒険者より上の実力を持っていることを意味します。単独で、Aランク4人以上のAランクパーティに勝てる実力者に与えられるものです。裏カードのようなものですな。見た目はCランクカードですし。」
「そんな説明は無かったぞ?たしか、町を出る直前にカードを更新した覚えはあるが・・。」
「その時に付けたんでしょうな、まだ会って数分ですが、あなたの感じからすると、受けてもらえなさそうですしな。」ハッハッハーと笑っている。
「付けたんでしょうなって。そんなことは許されるのか?」
「普通は許されませんな。しかし、もう付いてしまっている。しかもカード発行日からするに冒険者になってまだ1ケ月もなってないようですな。これだけ信じがたいことばかりだと、逆に信じるしかありませんなー。私でも同じことをするかもしれませんなー」ハッハッハーとまた笑っている。
「今回、この部屋に呼び出されたのもSだからか?」
「その通りですな。」
「今後、他の町に行っても同じように呼ばれることになるのか?」
「可能性としては高いでしょうな。それぞれの町でも、高ランク未解決案件を持っているギルマスもいるでしょうからな。私もそうですし、ロンレーンのアラハンなどもそうでしょうからタロウさんに頼ったのでしょうから。」ハッハッハー。
もういいよ。好きにしてくれ。そういえばノアとミルキーのカードはどうなってるんだ?
「ノア、ミルキー、お前たちのカードを見せてくれ。」
2人のカードを見せてもらう。普通のGランクカードでSは付いてなかった。
「この2人にも同じカードをくれないか?」
道連れだよ、お前たちだけ楽はさせない。
「実力の方は?」
「それは私が保証しよう。問題ない。」
だって神龍とケルベロスだぜ?実力に問題あるはずがないでしょうが。その辺のAランクパーティなんて一瞬で蹴散らすだろうさ。
「わかりました、カードについてはこちらで発行しましょう。それと初めに申し上げていたお願いが一つありまして・・・。」
「お願いかぁ、ギルドからのお願いで良い話はあるのか?」
「これは手厳しい、良いか悪いかは本人次第かと。」
「まぁ、こちらも聞きたいことがあるし、聞くだけでも聞いてやるから言ってみてくれ。」
お願いとは、この町では最近人攫いが頻発しているということに関する相談だった。
特に若い子供が多く攫われており、身代金の要求はなく帰ってこなくなるそうだ。
この町だけでももう10件を超えており、近隣などを合わせると100件にも上るほど頻発しているらしい。それもここ数か月でだ。なのに何も手がかりが掴めず冒険者ギルドに依頼が入ったらしい。
「そんなのは国の仕事じゃないのか?」
「確かにそうですな。だが、報酬のいい話だったので、こちらでも受けたのです。依頼は子供を攫われた貴族からでしたので、無碍に断るわけにも行かず、どのランクの冒険者を当て嵌めるか揉めておったところなんです。そこへタロウさんが現れたものですから、お願いしておるのですよ。実力は問題ありませんしなぁ。」ハッハッハー
面倒くさそうだなぁ。でも人攫いか、それも大量の。人を攫って集める。これは・・・。
「よし、受けよう。少しでも情報はあるのか?」
「おぉ!受けてもらえますか。それは助かりましたわい。情報と言う程ではないんだが、攫われるのは子供が多いということぐらいですか。5歳から16歳ぐらいでちょうどそこに座っている娘さんぐらいの子が多く攫われていますね。」とココアを指す。
「攫われた時間帯や場所についてはわからないか?」
「場所についてはバラバラですが、時間は夕暮れ時が多いと聞いております。」
「了解した。じゃあ、カードの発行と、今夜の宿を紹介してくれないか。あと、魔法屋も知っているところがあれば教えてほしい。」
「わかりました、その程度ならすぐにできます。」
と、宿と魔法屋の場所を教えてくれた。
一緒に降りるので受付まで付いて来てほしいとのことだったので、一緒に受付に行った。
カードの更新はすぐにできたので、冒険者ギルドを出て宿に向かった。
ノアとミルキーのカードもCランクに変わっており、横に小さく+Sと入っていた。
今回も部屋割りについては揉めた。ソラとココアが私と同じ部屋でと言って譲らないのだ。
ノアなんかも、わらわも皆と同じ部屋がいいわぁなどと言うもんだから、結局 大部屋を一つ借りることになった。いつもは8人ぐらいで泊まる部屋らしい。かなり広かった。
作戦会議もしないといけないから、ちょうどいいんだけどね。
別に間違いも起こらないだろう、こいつらの正体が魔物って知ってるし。
部屋に入った私たちは、今日の予定について話をした。
人攫いの件は明日からでいいだろう。
「まだ、夕食までには時間があるから私は魔法屋に行って来ようかと思ってるが、みんなどうする?」
「ソラはお外に行ってくるー」
「私は主様と共に参ります。」
「わらわは魔法には興味がないからぁ、久しぶり人の町でもブラついて来ますわぁ。」
「私は人の町が初めてなので、どこに行ったらいいのかわかりませんが、非常に興味がありますので、散策に行ってきたいですね。」
「わかった、ココア以外は全員バラバラだね。じゃあ、お小遣いを渡しておくけど無駄遣いしないように。」
多いけど残ればそのまま持っていればいいから。と言って全員に金貨5枚ずつを配る。
「ソラ、この辺りに強い魔物はいないと思うけど十分気をつけてな。ノアは羽目を外し過ぎないように。ミルキーは、しっかりしてそうだから大丈夫だとは思うけど、周りは人間だけだからケルベロスだとバレないようにね。」
夕食には集合だと告げて、私とノアは魔法屋に向かった。




