第27話 ケルベロス
みんなが寝付いて3時間は経っただろうか。
全員熟睡モードになっている時に、ドーンという大きな音がして飛び起きた。
家は揺れていない。ソラの結界も優秀だな。ただ、音は鳴りやまない。
ドーンという音は一定間隔でずっと続いている。
窓から覗いてみると大きな黒い犬のようなものが、家に向かって体当たりしている。
確認すると、頭が三つあるようだ。ケルベロスだ!
結界を体当たりで破ろうとしている。
結界が効いているので、家の中で全員集合する。と言っても真ん中に集まるだけだが。
「ノア、奴のことは知ってるか?ケルベロスのことだが。」
「詳しくは知りませんわぁ、わらわから見れば取るに足らない小物ですゆえ。」
「弱点とか対処法とか・・・。」
「やっぱり突くー?」
「私が切ります!」
「そうよねぇ、対策なんていらないわよねぇ。やっつけてしまえばいいんだものぉ。」
はい、会議終了!ノアさんも残念でしたかぁ。ココアさん、切るってさっき突いてましたよねー。もういいや。
「ケルベロスってしゃべれるのか??」
「前に一度倒したときはぁ、頭の一つが話してたような気はしますねぇ。なにせ3つもありますものぉ。」
倒したことあるんだ、ノアさん。ホント興味ないんだね。
「その時はどうやって倒したんだ?」
「もう200年ぐらいは前の話ですからねぇ、どうだったかしらぁ?ファイアブレスで消し炭になったと思いますぅ?」
え?質問された?いや、回答が欲しいんです、私は。もういいや私が勝手に決めよう。
「じゃあ言うぞ。いつも通り私が正面を担当し背後からココアが陽動。間合いを測りながらソラが攻撃という作戦だったが、この攻撃をノアが加わったので少し変える。
ソラとノアで同じサイドに回りブレスと魔法で様子を見よう。相手が逃げそうな時は逆サイドは私とココアで逃がさないようにする。」
「りょうかいー」
「かしこまりました。」
「了解しましたわぁ、でもぉ、わらわ一人でも大丈夫でございますのにぃ。」
「それを言うなら私も一人でやっつけて御覧に入れます。」
「うちもやるー。必殺技、試したーい。」
・・・・・・・。こういうのは話し合いとは言いません。作戦会議がしたいー。
もう無視して話を進めよう。
「プランAはそれでいいよ。もうそれでいい。話ができる場合はプランBだ。今回はノアが初参戦だし、ココアにも再度説明が必要だと思うので、ちゃんと聞いてくれ。」
みんなが注目しているのを確認する。ドーンという音もまだ続いている。
「まず私が相手に向けて『仲間にならないか?』と声を掛ける。
ここで返事をするようなら、しゃべれる魔物だ。今回はしゃべれる魔物だという可能性が高いがまずは尋ねる。断られた場合、仲間にするために少しずつ削っていって最終的に仲間にならないのならその時に止めを刺す。あくまでも敵対するなら殺すんだが、しゃべれる魔物は交渉が初めの手段だ。わかったか?ココア、ノア。」
「かしこまりました。」
「そういうことだったんですねぇ、わらわの時もぉ。助かりましたわぁ、本来でしたら死んでいましたものねぇ。」
「私たちは準備はいらないけど、ノアは何か準備がいるのか?」
「いいえぇ、竜の姿に戻るだけですので、準備はいりませんわぁ。」
「わかった、じゃあこのまま出るぞ!」
まずは私が出た。
ケルベロスが助走に入ったところだったので、少し距離があった。
大きさはココアのオオカミモードぐらいだろうか、3メートルぐらいあるが、ココアより首が長い分大きく感じる。
ケルベロスとは正面から向き合った状態になる。私はそのまま走り寄って真ん中の首の付け根にパンチを一発放った。
少し後ろに吹き飛ばして全員が外に出る隙を作りたかったのだ。
ケルベロスは30メートルぐらい吹き飛んで行ってズーンと音を立てて地面に叩きつけられると動かなくなった。ピクピクしている。
え?
パンチを放った格好のまま固まっていると3人が駆け寄ってくる。
「えー? もう終わったのー?」
「さすがは主様です。そのポーズも決まっていますわ。次からは私も参考にさせていただきます。」
「あらぁ?わらわの出番はありませんわねぇ。」
作戦がぁ・・・・・・・
ココアよ辞めてくれ、立ち直れなくなりそうだ。
「ご主人様ー? 生きてるよー。必殺技、試してい~い?」
いや、ダメだから。
ソラが確認に行ってくれてたようだ。全員でケルベロスに駆け寄り確認する。
確かに生きていた。
名前: なし
年齢: 480
種族: 魔獣族
加護: なし
状態: 気絶 瀕死 気絶
性別: 女(男)
レベル:35
魔法: 土(3)・回復(1)・闇(7)・空間(3)
技能: 牙(7)・
耐性: 熱・風・木・水・雷・
スキル:【変身】4【俊敏】7
ユニークスキル: 【冥界とのつながり】
称号: 地獄の番犬 サントスの森の長
頭が確かに3つあり、尻尾も3つあった。尻尾は蛇になっているが、頭が気絶しているので、尻尾の蛇も動かないようだった。
今日はもういい、考えることを放棄したい。
「ソラ、こいつに影縛りできるか?」
「大丈夫だよー」
と言って式具を投げつける。
「影縛り―!」拘束完了。
「すまん、今日はもう休みたい。明日の朝、改めようか。」
「まだ眠いもんねー」
「明日の朝、改めて削るということでございますね。」
「戦いにもならなかったわねぇ。明日でいいんじゃないかしらぁ。」
ココアさん、これ以上削れませんから。真ん中の首なんか瀕死ってなってるから。
必殺技ーってまだ言っているソラは無視して家に入った。
次の日の朝、私たちは、いつもの朝食より遅めの朝食になった。
ケルベロスのことを忘れていたわけではないが、朝食担当だった私が少し寝坊をして朝食が遅れ、さらにノアに教えながらだったらめ、朝食が大幅に遅れたのが一つ目の原因だった。もちろん、今日はさっさと作りたいので次の時から教えると言っても聞かず、それに対してココアもソラさえも当たり前です的な態度なものだから、教えながらの朝食の用意となり遅れてしまった。
二つ目は 別に死んだら死んだで構わない。
三つ目は 食べながらこれからのことについての話をしていたからだ。
「やっぱり腑に落ちない点があるんだ。ノア、お前の縄張りに もう一度戻って確かめたいことがある。お前が私に嘘をついているとは絶対の思えないんだ。ギルドの依頼内容と食い違う点が多いことは明らかなので、どこで食い違っているのかを確認したいんだ。ノア!協力してくれるかい?」
「ありがとうございますぅ、我が主。」
感動のあまり流れる涙はそのままに
「出会って間もないわらわをぉそこまで信用していただけることは他の何にも代えがたく、わらわは感無量でございますぅ。わらわが貴方様に仕えることになったことはぁ龍神様のお導きに違いありません。なんなりとぉお申し付けください。」
大げさ過ぎるよー、何も言えなくなるじゃないかー、ココアといい私の加護付になるとそうなってしまうのか?ソラを見る限り違うとは思うが・・・・。
しかも龍神様って、あなた神龍になってますよ?やっぱり龍神の方が偉いの?
何が違和感なのかもわからないから、行ってみて確認するしかない。
いつもより1時間遅れで朝食が終わり、ケルベロスのところに4人で行ってみた。
私は顔の方に回り尋ねる。
「私の仲間になる気はないか?」
「・・・・・・・。」
「目は覚めているんだろう?ならば答えろ!」少し声を荒げてみる。
「・・・すまぬ、オレにはその回答を答えることはできん。オレにはその権限が無いんだ。」
右の首が答えた。
「では、止めを刺すしかないな。」
「ま、待ってくれ!真ん中の首が本体なのだ。オレ達は本体の補助に過ぎない。左の首などは、まだ話すこともできんのだ。その真ん中の首が今は話せる状態ではないので回答ができんのだ。」
まだ瀕死だもんな。回復するまで待つしかないのか?回復魔法は誰も持って無いし。
ノアの神聖魔法って回復系っぽいけど まだ熟練度1だから瀕死からの回復は見込めないし。ホント、回復系無しで今までよくやってこれたもんだ。大怪我をしたことが無いので必要性を感じなかったからな。
「回復にはどれぐらいかかるんだ?」
「こんなダメージは初めてだし、1週間は最低でもかかると思う。いつ目覚めるかも今は見当もつかない。」
そんなには待てないなぁ。でも私のせいなんだよなぁ。でも、少し吹き飛ばそうと思ってやっただけだし、そもそもこの事態はこいつが弱すぎるのがいけないんじゃないのか?何が地獄の番犬だ!いやいや、この考えはココアやノアと同じだ。私まで脳筋になってはいけない。打開策を考えよう。待てない・放置できない・返事がもらえない・止めを刺すのを待ってほしい・回復できない・だ。影縛り状態のまま、ノアの縄張りまで行くか?いや、戻って来るのは二度手間だな。こいつも一緒に連れていくか?いや いつ目覚めるともわからないし、安静にしてやらないと悪化して死んでしまうかもしれない。途中で目覚めて反撃してくるかもしれない。うーーーーん。どうするか・・・・・。
「ご主人様ー、なんか困ってるー?」
「あー、困ってるぞー、真ん中の奴が瀕死状態でな、話ができないんだよ。」
「そーなのー? じゃあ回復するねー。」
え?
ソラが式具の先を真ん中の奴の口に入れ、何か液体のようなものを飲ませた。
「うーん・・・」
真ん中の首が意識を取り戻した。
「ソラ?」
「回復薬だよー。よく効くんだよー」
「それはどうしたんだよ?」
「作ったんだよー。」
はい? あ、【調合】か? いつの間に?
詳しくは聞くまい。聞いてもわからなくなるだけだしね。




