第24話 移動
1週間後、家も完成したようなので、引き取りに行ったその足で、またギルドマスターの部屋に来ている。
途中で何度も家造りの工房には足を運んで注文を付けていたので、結構顔馴染みになっていた。大きさも一辺が6メートルもあるかなり大きなものになってしまった。
高さも3メートルぐらいある。三角屋根にはしなかったので、見た目は大きな箱みたいだ。
簡易の家とは言い難いぐらいで普通に生活できそうだ。旅の間は快適には過ごせそうだが。
「お待ちしておりましたよ、タロウさん。調味料関係はこちらにまとめておきました。家の方はもう取りに行かれましたか?」
「ああ、ここに来る前に寄ってきた。すべて希望通りにやってくれたようで満足してるよ。」
「それは良かったです。こちらに調味料を用意しました。」
と大きな袋を用意していた。
「中に小袋で分けてありますので、確認してください。少しですが高額な調味料も奮発させていただきました。どうぞ収めてください。」
「それは助かる。ありがとう。」
「このまま出発ですか?」
「そうだな、北のヴァルカン山まで馬車で1週間ぐらいかかるんだろ?すぐにでも出た方がいいんじゃないのか?」
「確かに、早い方がこちらとしては助かります。本当に馬車はいらなかったんですか?」
「ああ、馬車は平地ではいいんだが森の中や岩山になると邪魔になるからなぁ。」
「それではよろしくお願いします。ご検討を祈っております。」
「ありがとう、では。」
「あ、出かける前に 受付に寄ってカードを更新していただけませんか?受付の方には連絡済みですから。」
「わかった、寄っていけばいいんだな?」
「お願いします。」
カードの更新はすぐに終わり、門へと向かう。
門を出て北に向かい3人で軽く走って、町が見えなくなったころで、
「そろそろ本気で走るか!ソラ!ちゃんと付いて来いよ!」
ココアは手首に巻き付いているが、ソラはそうも行かない。
「ちょ、ちょっと待ってー、ご主人様ー」
「なんだよ?」
「ご主人様の本気のスピードについていけるわけ無いよー。変身するから待ってー。」
ソラは淡く光ると、スライムに変身した。
「スライムなんて出会ったか?」いつの間にスライムに化けられるようになったんだ?
ソラの場合、変身するというより『化ける』と言った方がしっくりくる。狐だしね。
「町の近くにいたんだよー、この姿になると調合も色んなものがやり易いんだよー」
何か意味不明なことも混じっていたが、そのまま飛んで私の服の中に潜り込む。
さすがはソラ、私には理解の及ばない話だ。
「準備オッケーだよー」
「ソラ、背中の方に回ってくれると私も走りやすい。」
「りょうかいー」
「じゃあ、行くぞ!」
2人とも私が運ぶ形になったが、早いならその方がいい。
馬車で1週間の道のりを途中1回昼に食事で休憩しただけで山の麓までは1日で着いた。
「早かったねー」
「ホント早すぎです。」
「ちょっと早すぎたか、平坦な道が多かったから楽に走れたよ。」
簡易家を出し固定する。食材と昼に捕まえた魔物を解体するため出しておく。
「食事と結界は任せるよ!今日はゆっくり寝て、明日は火竜だな。」
「はーい、まかせてー」
「かしこまりました、」
家の四角に、地面に固定するための杭を打つような加工を施されているが、その杭に今回は魔法が付加されやすいようにミスリル製のを使ってもらった。
杭を打って固定したあとに、ソラが式具を杭に当てながらおまじないをすると、結界が発生する。おまじないが魔法かどうかはわからないが、ソラに説明は・・・・ね。
東の国の特有のものなのか?それとも九尾族だからなのか?式具の力なのか?わからないが、【那由多】でも回答を持っていなかった。
4か所からなので、強力な結界になるようだ。ただし、おまじないの効果時間は一晩程度ということだった。ちなみに式具を杭のように打ち込んだ場合は永遠らしい。
風呂は湯船だけにしてもらっていた。水魔法と火魔法を練り合わせ、お湯を出す。
魔法も使えば使う程、熟練度も上がるし一石二鳥というわけだ。
トイレは水魔法で流せるので問題ない。
風呂もトイレも流れる先は家の真下だが、土魔法で地下10メートル先に溜めるようにしたので問題ないだろう。もちろん出かけるときにはちゃんと埋めていく。
キッチンはコンロを2つにしてもらった。
問題の火力だが、薪と魔石の2種類があったので魔石の物にしてもらった。
薪は釜戸にに薪をくべるだけなので安かったが、魔石の方が高かった。
魔石とは中位以上の魔物から取れるそうで、魔石だけでも高価だそうだ。
魔石をセットすると石板が熱くなってくる。IHクッキングヒーターみたいだ。
火力調整も調整レバーがあるので調整し易いし、魔石も大きさにもよるが、1つで2~3年は大丈夫らしい。
中級程度の魔物なら獲ってたと思うけど気づかなかったな。
――魔石は中級以上の魔物でもレベル15以上にならないと持っていません。
【那由多】が回答をくれる。
そうなんだ。でも、それぐらいの魔物もいなかったのかなぁ?
――魔石持ちの魔物は何匹かおりましたが、解体前に売っています。
そういうことね、納得。
冒険の初歩の魔法クリーンも教えてもらっていたので清潔にも問題なかった。
魔法を覚えて良かった。本当に便利だ。
ゆっくりと風呂に入り、ココアの作ってくれた食事を摂る。
ココアの料理の腕もだいぶ上がったなぁ、調味料が増えたおかげもあるんだろうけど、いいお嫁さんになれそうで、お父さんは嬉しいいよ。
ベッドは収納式にしてもらい、上から下に扉を開くようにして出てくる。
机や椅子は必要な時に、私が出しているのも問題ない。もちろん布団もだ。
アラハンさん、請求書を見てビックリするんだろうなぁ。
追加料金を言われれば払えばいいか。どのぐらいになるかも見当もつきませんが。
次の日、朝食を終えるとサーチで大きな赤い点を確認する。
これならすぐに見つけられそうだ。そんなに遠くないな。
「火竜のイメージなんだが、火を吐く、飛ぶ、硬い、だと思うんだ。何か倒す良い案はあるか?」
「突くー?」
「切ります」
「だから硬いって。」
「硬くても切ります。」
「そー、硬くても突くー」
はいはい、作戦会議にならないね。あー、ホント話せる仲間が欲しー。
「そういえば火竜って仲間にできないかな?ドラゴンって長生きしている古竜なら話せるって聞いたことがあるぞ?」
「火竜、仲間にするのー?」
「そんなことができるのですね、さすがは主様です。」
いやいやホント話し合いになってないから。聞いているのは私だし。
「じゃあ、作戦を言うぞ。いつも通り正面は私が受け持つ。ココアは背後に回って陽動。ソラは中間距離を保って、隙があったらドンドン突きまくれ。」
「わかったー」
「了解いたしました。」
「それで、いつもと違うところだが、話せる奴なら『仲間にならないか?』って私が火竜に声を掛ける。話せない奴ならそのままやっつける。話せる奴なら少しずつダメージを与えていく。その時は絶対殺してはダメだぞ。」
「おっけー」
「了解です、肝に命じて。」
「そう言えばココアは最近、人型で戦闘するよなぁ?オオカミの姿にならなくていいのか?ソラは元から人型が多いけど。」
「はい、主様。人の姿だと主様から買っていただいた武器の薙刀が使えますし、何といっても式具は人型でないと使えませんので。」
「そういうことか、なるほどな。じゃあ、今後は人型が多いんだな?」
「左様でございます。」




