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第215話 婚約

 夜に通信水晶が光った。

 出てみるとアメーリアだった。

「アメーリア? どうしたんだ?」

「こんばんはタロウ様。今いいですか?」

「ああ、構わないが何かあったか?」

「はい、そのー・・・明日、お時間が取れますか?」

 何か言い難そうだな。なんだろう。


「忙しいと言えば忙しいんだが、何か用があるんなら構わないよ。エルの事か?」

 違うと思うが、敢えて振ってみた。

「いえ、エルちゃんは問題ありませんよ。それより、その・・・」

「言い難いのか? でも、ちゃんと言ってくれないと分からないぞ」

「そうですよね。そうですね。はい、言います」

 アメーリアはやっと踏ん切りが付いたみたいだ。


「明日・・・ですね。私と一緒に城まで来るようにと王様から連絡がありました。お願いできますか?」

 なんだ、そんな事か。もっと何か困った事があったのかと思ったよ。

「それは別に構わないが、時間が掛かるのか?」

「たぶん・・・そんなには掛からないかと思います。明日は」

「明日は? 明日以降もあるのか?」

「そ、それは分かりません。王様に伺ってください」

「ん、そうなんだな。分かった、じゃあ明日の朝に行けばいいか?」

「はい! お願いします」


 通信水晶の映像は消えた。

 何かアメーリアのテンションがおかしかったな。ま、明日になれば分かるだろ。


 次の日の朝、アメーリアの宮殿に来て見ると、もう出掛ける支度が出来ていた。

「お父様、おはようございます」

「エル、おはよう。今日はお前も一緒か?」

「いえ、私は今から世界樹の所に戻ります。今日は頑張ってください」

「ん? 何をだ?」


 慌ててアメーリアが出てくる。

「エ、エルちゃん!」

「えへへ、そうだった、内緒ですね」

 もう言ってる時点で内緒になって無い気もしないでもないが、内容を教えてもらってないので内緒ではあるな。

 でも、このままここにいれば、内容まで教えてくれそうだな。


「私に内緒なのか?」

「はい、内緒です」

「ほぉ~」

はっきり内緒と言われたので、薄目をして問い詰めようとした。

「そんな目をされても言えません。内緒です」

「エルちゃんが言わないでいい事を言っちゃうからでしょ」

「えへ、ゴメンなさい」

 アメーリアがエルを怒る振りをして助け舟を出した。


「ま、いいか。じゃあ、アメーリアだけなんだな? あそこの影で覗いてる人はいいんだな?」

 私が見てる先を2人が振り返る。

 そこには執事さんが壁の影からこっちを伺っていた。

 もうそのネタいいから。あなたは家政婦じゃないからね。

「じい! なんで、そんなとこから見てるんですか」

アメーリアに怒られた執事さんがゆっくり歩いて来る。

 なぜか涙ぐんでいる。怒られたから泣いてる・・訳じゃないよな?


「もー、じいは・・・」

 アメーリアも執事さんが涙ぐんでる訳を分かってるみたいだ。

 そんな執事さんを見てアメーリアも少し涙ぐんでるから。


「よくわからんが、もう行ってもいいのか?」

「はいタロウ様。行きましょう」

 アメーリアと屋敷を出て来ると、既に騎士団が待っていた。

 いつものバンダム騎士団長だけではなく、騎馬が20騎。しかも正装かな? 前に城で出陣式の時に着てた奴より派手だな。


「騎士団長、何か派手すぎないか?」

「いえ、いつも通りです」

 そんな訳無いじゃないか。大体いつも馬車だけで来てくれるじゃないか。

 騎士団長がアメーリアに目配せすると、アメーリアが直ぐに目を逸らして俯いて少し顔を赤くしている。

「アメーリアか。説明はしてくれないのか?」

「はい、王様がお話ししてくれますから」

 仕方が無い、何かサプライズがあるんだろうけど、乗ってやるか。


 馬車に乗り込み城を目指した。


 城に到着すると、けたたましくファンファーレが鳴り響いた。

 なんだ? やっぱり派手すぎるだろ。道中もこの馬車に向かって手を振る人が大勢いたし、騎馬も前衛と後衛に10騎ずつ配置して先導していたし・・・罠? では無いな。


 馬車を降りて城門を入ると、両サイドに兵士がズラリと並んでいる。

 騎士団長の先導で城に向かって歩いて行く。

 これは私になのか? アメーリアになのか?


 城に入ると王様が待っていた。

 ニコニコ顔だ。こんなに笑っている王様は初めて見るな。どんないい事があったんだろう。

 あっ、街道を創った功労者という事で、表彰でもしてくれるのか。

 この国も相当潤うはずだからな、そりゃ笑顔にもなるか。


「タロウ殿、いや、婿殿。この度はおめでとう。ようやく決めてくれたみたいで儂も肩の荷が下りた。いやいや喜ばしい限りだ」ふぉっほっほっほ


 なに? 婿殿? 王様の口から出た言葉は、全く予想していなかった言葉だった。

 バッと隣のアメーリアのアメーリアを見た。

 俯いて真っ赤な顔をしたアメーリアがいる。

 知ってたな、これは。でも、いいのか? アメーリアと結婚となると、アメーリアは王位継承争いから脱落する事になるんじゃないのか?


「アメーーーリアさん? なんで黙ってたの?」

「すみませんタロウ様。言おう言おうと思ってたのですが、中々言い出せなくて」

「エルも執事さんも知ってたって訳か」

 真っ赤な顔のアメーリアがすまなそうに下から見上げて来る。

 ちょっと反則だな、可愛い過ぎるよ。怒ってる訳じゃ無いけど、何も言えなくなるな。


「でも、いいのか? 今の王様の言葉はアメーリアと私の事を言ってたんだろ? いくら鈍い私でもそれぐらい分かるぞ?」

「はい、私は幸せです」

アメーリアはもう私と結婚する気満々なんだな。

 私はこの世界の人間じゃ無いから、こういうのは遠慮してたんだが、アメーリアは私がこの世界に人間じゃ無い事を知っててこう言ってくれてるんだから、これでいいのかもしれない。正解の答えがある訳じゃ無いしな。

 アメーリアの事は好きだが、愛とはまた違うんだがな。

 でも、こんな可愛い子なら、これから愛する自信はある。アメーリアは性格もいい子だし、私には勿体ないぐらいだ。

 それじゃ、私から言っておかないとな。


「アメーリア」

「はい?」

「私と結婚してくれるか?」

「!・・・・・」

口は「はい」と言ってたが声が出ていなかった。

 真っ赤な顔をして、幸せそうな嬉し涙がアメーリアの目からドンドン溢れて来る。

 アメーリアはウンウンと頷いて私の胸に顔を(うず)めて来た。


 急に大きな喝采と拍手が巻き起こった。

 あ、城の中だった。王様も目の前にいたよ、しかも大泣きしてるし。

 大臣が王様にハンカチを渡そうとして、自分の涙を拭くために使ってるよ。

 壁際で並んでいる兵士たちの中に、違和感を感じて目を向けると黒服の執事さんが大泣きしていた。

 いつからいたの? なんでそんな所に混ざってるの?


 元々、婚約披露宴をする予定で創ってあった会場に通され、そのまま婚約披露パーティとなった。


 パーティ会場には貴族はもちろん、各国の王達も来ていた。ロロもいるじゃないか、なんで私に教えてくれなかったんだ。

 エクスプレスが出来たからどの国からも1日あれば安全に来れるもんな。でも、今日、私が来なかったらどうするつもりだったんだろ。何か確信があったんだろうか。私にとってはサプライズ過ぎる出来事だったんだが、私をサプライズに掛けたのはアメーリアと執事さんとエルの3人だけだろ?

 サプライズのつもりが無くても私がNOと言ったらどうなってたんだろ。たらればだけど、怖くて考えたくも無いな。


 パーティも終盤になると、王様が私を改めて紹介した。

「こちらが我が娘アメーリアと婚約したタロウ殿だ。皆さんもご存知かと思うが、短剣の勇者でもあり、エクスプレスを各国へ開通させ、街道の下準備までしてくれた事は知っている事かと思う。これを機に儂は退位してタロウ殿に王座を譲ろうと思う。タロウ殿は短剣の勇者だ。帝王の資格を有する勇者だ。今後はこの大陸を治めてくれるものだと信じておる」

 会場中から賛成の拍手が巻き起こる。

こう来たか! これなら断れないと思ってるんだろ。しかし、私は断ってやる。


 周りを見る限り、皆笑顔で賛成のようだ。憮然とした顔や、無関係を装う者もいないようだ。満場一致で賛成なのか? 断り辛いぞ。


 進行役の大臣から紹介され、私の挨拶となる。

「タロウです。見知った顔が多いので、今更自己紹介をする事も無いと思います」

 知らない王様もいるけど、もういいだろ。


「今、王様から帝王という言葉が出ましたが、まだ私には仕事が残っております。だからまだ城に籠る訳には行かないのです。王様、まだまだ退位せず頑張ってください。アメーリアだけ貰っていきます」

会場中がシーンと静かになる。その中で、アメーリアだけが別世界にいるようだ。あ、執事さんもか。


「其方、まだそんな事を言っておるのか。その仕事というのは城にいても出来るであろう。さっさと帝王になれ」

 静寂に包まれた会場に王様の怒号が響いた。

 その言葉にエンダーク王やマーメライメント王が賛同し拍手を送っている。

 獣王国の王であるロロも拍手している。お前はどっちの味方なんだ、お前の拍手が1番大きいぞ。


「今、ちょうどやり始めた事があるんだ。エクスプレスを体験してくれた人なら分かると思うが、非常に便利な世の中にしようとやり始めた事なんだ。モデルケースとして獣人村でモニターしているところだ。今度、招待するから是非見て欲しい。私の仲間も協力してくれている、アメーリアも協力してくれるだろう。だが、秘密も多いんだ。だから城でやる事は出来ない。もう少し軌道に乗るまで待ってほしい」

 できれば、このまま有耶無耶になってくれたら最高だ。


「むー、確かに其方には人に明かせぬ秘密が多いようだ。わかった、了承しよう。その仕事が終わり次第、帝王に即位してもらう事にしよう」

ダンジョン核という秘密を知ってる王だから分かってくれたようだ。

 王様が納得した事で、他の国の王や代表も納得してくれたようだ。


 ここでロロが余計な事を言った。

「それで兄ちゃん、結婚式はいつにするの?」

 バ、バカ! 余計な事を言うんじゃない! これでお開きの流れになってただろ!

「バルダン国王よ、もう少し威厳のある話し方を勉強しなさい。しかし、今いい事を言ったな。結婚式か、いつがいいかのぅ。のぅ婿殿」

 ロロの王族とは思えぬ話し方を諫めながらも王様が結婚式の提案に乗った。


「・・・いつでもいいよ」

 もう投げやりになって言い放った。


「では今日より1か月後に式を挙げる事にする。本日参加した方々は参加で宜しいかな」

また会場中、拍手喝采だ。


 ふぅ、疲れたよ。もう好きにしてくれ。

 

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