第212話 執事は見た
それから東側にもエクスプレスを通したが、半年も掛かってしまった。
私が創るのはすぐなんだが、国同士の話し合いが長引いたようで、GOが出るまで時間が掛かったのだ。
最後まで渋っていたのがマーメライメント王国だったのが意外だった。
私が関わっていることは知っているだろうにと思っていたが、先に東の国との航路を確立してしまった為に、それを他の国に渡したくないと思ってしまった為、陸路の確立を渋っていたようだ。
「私が確立した航路だから、協力をしないようなら閉鎖してもいいんだぞ。港はどこでも創れるから」と脅してようやく首を縦に振った。
どこの国も欲深いな。通行税の分配も、全部バンブレアム帝国が絡んでるからな。
タイスランド公国から先の分はバンブレアム帝国と繋がって無いから関係ないのに、全部の区間でバンブレアム帝国に通行料の1割が入る事になっていた。
そこは国同士の力関係もあるんだろうが、バンブレアム帝国はどの国と交渉しても強い国だな。
ここまでの事が終わってもクリエイターが出て来なかったのが不気味だった。
こっちから短剣で呼び出すのもイヤだし、急に出て来られるのも困る。
名案も浮かばず、ズルズルとクリエイターの事は先延ばしにしていた。
エクスプレスは開通したが、街道の整備はまだまだ掛かりそうだ。ハーフパイプ状だから、掘るか埋めるかしないとそのままでは街道として使えないからな。
ただ、西の大陸の交通と東の国への航路と新大陸への航路を確立させ、こっちの仕事としては一段落した。
今後、更なる発展を期待したい所だ。
その為にも、一度元の世界に戻りたいんだよなぁ。
こっちでも科学を使えれば、魔法と科学の融合で、皆が今まで以上に良い生活が送れると思うんだよな。
その為にも、一度元の世界に戻って、何か役に立つ物を持ち帰って来れないかと思ってるんだ。でも、そうなるとクリエイターが出て来るんだろうなぁ。
最悪、クリエイターとバトルになるかもな。
できれば避けたいんだよな、私ならクリエイターを倒せるかもしれないが、クリエイターがいなくなってしまったらこの世界がどうなってしまうのか心配だしな。
作業完了の報告の為、バンブレアム帝国城に来た。
ん? 今日はアメーリアもいるな、珍しいな。
王の隣にアメーリアが、そしてその横には大臣がいつものように座っていた。
「王様、予定していたルートにエクスプレスの設置がすべて完了した。あとは、街道整備だけだ。それはそっちでやってくれるんだろ?」
「ご苦労であった。これでバンブレアム帝国も更なる発展と繁栄する事は間違いない、さすがは帝王であるな。儂の目に間違いは無かったぞ」わっはっはっは
王様は上機嫌だ。でもいつ、王様に評価されたんだろ? 王様の手柄になってないか?
「王様の目に間違いが無かったかどうかは別にして、街道整備は頼むぞ」
「そうだな、街道を整備しないと関所も作れんからな。安全で最短の街道、これからは他国へ行くのも簡単になるのぅ。どの国に行くにもバンブレアム帝国を経由するのだ、エクスプレスや街道の収益だけで相当な額になる。流石は帝王、この国の事を良く考えておるな」
「その通行料や乗車賃は格安にしてやってくれないか? せめて街道の通行料だけでも。エクスプレスは私の趣味で創ったが、街道はタダにしても十分利益はあるだろ? その方が頻繁に人が行き来するから国も発展するぞ」
タダという言葉で王様が難しい顔をした。
「むぅ、確かに其方の言う通りかもしれぬが、タダはのぅ。整備や警備で維持費も掛かるでの」
「じゃあ、格安で頼むよ。エクスプレスだって私が創ったからタダじゃないか。それを1人分で金貨10枚ぐらい取るんだろ? 十分賄えると思うが。人が往来する事で文化の発展があるんだよ。この西の大陸の発展を考えて欲しい」
王様は顎に手を当て少し俯き考えたが、私の方を向き答えた。
「わかった、其方の言う通りにしよう。この大陸全土の事を考えていたとはな、さすがは帝王だ。儂はバンブレアム帝国の事しか考えておらんかった。帝王になれぬ訳だ」
帝王は関係ないと思うぞ。でも、分かってくれたようで良かったよ。
「じゃあ、報告も終わったし失礼する」
「しばし待たれよ」
「ん? まだ何かあるのか?」
王様は隣に座るアメーリアに目をやりながら
「タロウ殿、そろそろ考えてくれてもいいのではないか?」
「何をだ?」
「この子のことだ。頻繁にこの子の宮殿に出入りしているとも聞き及んでおる。儂は大賛成だぞ」
王様の横でアメーリアが顔を真っ赤にして俯いている。
「い、いや、それは・・・」
確かに宮殿にはよく出入りしているが、それはエルの為なんだが・・・
王様にはエルの事は内緒にしているから、普通はそう見えるか。
「これだけの大偉業を成した其方なら誰も反対もせぬ。身分も公爵であるから問題無い。しかも短剣の勇者。歳も近いし其方さえ良ければそろそろ決めぬか?」
いや、公爵はそっちが勝手に決めただけだし、私の歳は50過ぎだぞ。
確かに、エルの父と母役だが、それとこれとは話が違うだろ。
そんなのはアメーリアが可哀相だよ。
確かに日本でも歳の差カップルはいたよ? でも相当稼いでる人で人間的にも魅力があってモテる人だ。
確かに私にはお金はあるが、モテるのは魔物にだけだ。今は勇者も獣人もアジトにいないから、今いるのは魔物だけだよ。
私がモテるとは思って無い。そこまで勘違いはしないよ。
確かに1度は結婚をして子供も出来て離婚もした。
全くモテないとは思ってはいないけど、王族に気に入られる程と自惚れてもいないからね。
ここは得意の誤魔化しだな。関西人がよくやるやつだ。
「ま、考えとくよ」
若い時にこの言葉を関西人から聞いた時に、商談成立だ! と喜んだが、いつまで経っても連絡が来ないので、上司に相談したら「それは関西ではダメだって事だ! そんな事も知らんのか!」と怒られた覚えがある。
この場はこれでいいんじゃないだろうか。
王様も「そうかそうか」とご機嫌のようだから良かったんじゃないかな?
城を出るとアメーリアも付いて来た。
仕方が無いので宮殿まで送る事にした。
宮殿まではアメーリアの希望で歩いて行く事になったが、後ろから騎士団100名がゾロゾロ付いて来る。
前の時より増えて無いか?
宮殿に着いたので、騎士団には帰るように言ったが「この国にいらっしゃる限り、護衛をするのが我々の務めです。お気になさらずにごゆっくりと楽しまれてください」と言われた。
いや、君達がいると宮殿から転移できないから帰って欲しいんだけど。
宮殿の庭に創った転送魔法陣まで来ると、後ろからアメーリアが俯き加減で私の袖を掴む。
こういう仕草って男には堪らないな。でも私には子供が父親にお願いをするような感じに見えるのは歳が離れすぎてるからなんだろうな。「ねぇねぇお父さん~、買ってほしい物があるんだけどー」みたいな?
見た目年齢としては同じぐらいなんだけどね。
「アメーリア、どうかした?」
「タロウ様がどこかに行ってしまいそうで・・・」
ギクッ! 勘が鋭い! 誰にも言って無いのに何でわかった? エクスプレスが終わったから元の世界に行ってみようと思ってたんだよ。
「う、うん、ちょっと異世界に行って来ようと思ってた」
「私もお供させて頂けませんか?」
そう言いながらも私の袖を離さない。
あれ? 今日のアメーリアは何かしおらしいな。いつもなら「私も行きます!」ぐらい言って来るのに。
「今回は私1人で行きたいと思ってたから誰にも言ってないんだ。行くまでにも危険がありそうだんで、安全だと分かったら連れて行くよ」
クリエイターが邪魔して来そうだからな。多分ややこしい事になりそうな気がするんだよ。
だってここまで大人しくしてるのが凄く不気味なんだ。
それがハッキリするまでは誰も連れて行きたくないんだ。
「危険なんですか?」
「うーん、危険かどうかは行ってみないと分からないな。相手がどう出て来るかまだ分からないんだ」
クリエイターの事は誰にも言ってはいけないって言ってたからな。知らない方がいいとも思うし。
「私・・・やっぱり付いて行きます」
「え? なんで?」
「タロウ様がこのまま帰って来ないような気がして・・・」
アメーリアはまだ袖を離さない。
「大丈夫だよ、ちゃんと戻って来るから」
そう言って宥めるが袖を離してくれそうにない。
安心させるように頭に手を置き撫でてやった。
何を勘違いしたのか、アメーリアは私に近寄り上を向いて私を見つめる。
うん、胸、当たってるよ。
頬を赤く染めながら目を閉じて行く。
これってキスしろって事か?
う~ん、非常に悩む。いいのか? 本当にいいのか?
まぁ、キスぐらいならいいか。
ん? 視線を感じるぞ?
あっ! 執事さん! なんでそんなとこで気配を殺してこっちを見てんの?
執事さんが壁の影から半分顔を出してこっちを見ていた。
それは家政婦の役だから、執事の役じゃないから。
「ゴホン! んー、執事さん、なにしてんの?」
私の言葉にアメーリアもハッとして私から離れて顔を真っ赤にして手で顔を覆い、しゃがんでしまった。
「これは失礼しました。私は失礼しますので、続きをどうぞ」
執事さんは真顔で淡々とした口調でそう言うと、その場から離れて行った。
続きをどうぞって言われても・・・
アメーリアは当分復活しそうにないし、ちょっと勿体ないとは思うけど、今の内に行ってしまうか。
私はメタルキングの指輪を填めた。異世界への『扉』の付加効果のある指輪だ。
この『扉』の効果を使うと異空間のコスモの所へ行ける。
コスモの所に行ったらクリエイターが出てきそうなんだよなぁ。
少し躊躇していると、アメーリアが気付いて私に抱きついて来た。
「いやです! 私も連れて行ったください!」
どうしたの、さっきまでしおらしかったのに、急に積極的になって。
別に連れて行っても私が守ってやればいいんだけど、今回は連れて行きたくない理由があるんだ。
元の世界に行くと魔素が無いって以前にコスモに言われた事がある。
だから仲間を連れて行くと死ぬかもしれないから辞めとけとも言われた。
アメーリアは魔物じゃ無いから大丈夫だろうけど、私は元の50歳に戻ってしまうんじゃないかと思うんだ。あくまでも予想だけど。
そしたらアメーリアの私を見る目も変わるんだろうな。
でも、その方がいいか。今回は付いて来る意志が固そうだし、逆に見せてやった方が勘違いのまま私にキスされるのも思い留まるだろう。ちょっと勿体ないけど。
でも、それには説明が必要だよな。信じてくれるかなぁ。
「わかったよアメーリア。一緒に行こう」
「はい」
アメーリアが良い顔して笑った。素敵な笑顔だよ。
「行く前に話しておかないと行けない事がある」
「はい」
「まず私はこの世界の人間じゃ無い」
「はい、知ってます」
ん? 知ってたか? 言ったことがあったかな?
「それで元の世界に行けるかどうかを確認して、行けるようなら一度行って来たいんだ」
「はい」
「だから、ちゃんと戻って来るから今回は待っててくれないかな?」
「いえ、一緒に行きます」
・・・意志は固いようだな。
「ここからは私の秘密だ。誰にも言ってはいけないという訳では無いが誰も知らない事だ」
「はい」
「実は、私は、本当は、50歳なんだ。こっちに来て3年経つから53歳だな」
「はい」
え? 信じたの? それとも嘘だと思ってる?
「え? 驚かないの?」
「はい、驚かない事に決めてますから」
あ、まだやってたのそれ。じゃあ、これならどうだ。
「私の仲間は一部を除いて全員魔物なんだ」
「はい、何度か見ました」
知ってたのね。これだけ一緒にいたらバレるよな。
これだけ覚悟があるならいいよな。
アメーリアにもメタルキングの指輪を渡した。前回使っているから使い方もわかるだろうし、この指輪なら私と逸れても帰って来れるだろうしな。
「じゃあ、行くぞ」
「はい!」
私とアメーリアはいつもコスモが迎えてくれる異空間に転移した。




