第210話 エクスプレス
次の日はリクだけを連れてバンブレアム帝国にやって来た。ココアには研究所ダンジョンの妖精に魔力弾を使う弓術を習いに行かせた。
私だけの必殺技を見つけましたので修行に行って来ます、だって。弓の才能はあるようだから上を目指す事はいいことだけどね。
次の日は獣王国にやって来た。
ロロに会い、北に港を創るように指示した。この辺りは北に行くと雪が深くなるが、北の海に浮かぶ北の魔王が棲んでいたアイスヘルを越えて更に北へ行くと暖かくなって行く。新大陸のある辺りにまで来ると常夏と思える程、暑い気候になっている。寒いのは北の魔王の棲んでいたアイスヘルを中心としたツンザンブレーン連邦の北部だけなのだ。
獣人国、元ゴーレーン国は山脈の麓にあり、金の産出国であった。
それは今でも変わらず、金山の権利は獣人国にある。
その山脈の向こう側の海に港を創ってもらうように指示したのだ。
港だけではその後どうにもならないので、港町を創れと言ってるのと同じ意味なのだが、山に向かって和弓での魔力弾でトンネルは開通させ、獣人国と行き来しやすいようにした。後は、獣人国の連中に任せよう。
港が出来たら私の船が活躍するだろう。もっとコピーして量産しないとな。
新大陸には獣人国が、東の国へはマーメライメント王国が、それぞれ航路でも取引をすればこの西の大陸ももっと栄えるんじゃないかと思ってる。
あれ? 船? あ、新大陸の港町セイケットに置いたままだ。まだ置いてくれてたらいいけどなぁ。
次にマーメライメント王国の城に行き、マーメライメント王に謁見する。
城や貴族は面倒なのは変わらないが、事前に言っておかないともっと面倒になるから仕方が無い。
「先日の件は助かった。やはり伝承通りであったな。のぅ大臣」
「は、確かにその通りでございます。あの嵐を鎮めてしまうとは流石にございます」
先日、神の部下が嵐を起こして、それを解決した事のお礼を言われた。
「いや、私の仲間が頑張ってくれたからな。それより今日は報告があるんだ」
「何であろう」
「東の国へ行けるようになったのは知ってるか?」
「先日、報告に来てくれたことは余も聞き及んでおる、のぅ大臣」
「は、確かに伺っております。東の国へ向かっての出航の準備も着々と進んでおります」
「それは良かった。それで私も旅客船を出そうと思うんだが、許可してもらえるか?」
「大臣」
「は、タロウ殿は商人ギルドのAランクでもありますので、特に問題は無いかと」
「貿易も考えてるんだが構わないか?」
「大臣」
「は、それも商人ギルドAランクであれば問題無いかと」
「じゃあ、ここ港を使わせてもらってもいいんだな?」
「大臣」
「は、商人ギルドに港の許可証さえ発行してもらえれば大丈夫です」
城を後にして商人ギルドに向かった。
港からは人間も荷物も税関さえ通ってくれればいいという事だった。
Aランクだから話が早いな。
あとは誰にさせるかだが・・・いないな。
今もユートピア商団ってあったか? ジョーカーか。エースと兄弟でやらせよう。
船が必要だから港町セイケットに転移して、港事務所の3階を訪ねた。
「バブラスさん、いつまでも船を置いてて悪かった。取りに来たよ」
3階に上がり一番奥に座る黒い布を被る男に謝った。
「本当だぞ! いつまで置いておく気だ! 船の管理を誰がしてやってたと思うんだ!」
濃紺の布を被ったガンダーが横から出て来る。
「それをやったのは・・・私ですが・・・」
一番手前に座っていた青い布を被ったヘーパスがボソッと呟いた。
「すまんすまん、色々とあってね。中々こっちに戻ってこれなかったんだ」
忘れていたなんて言ったら海の男たちは黙って無いだろうな、黙っておこう。
「いや、構わんよ。お前さんにはかなり稼がせてもらったでの。それぐらいの事は構わんだろう」
バブラスが奥から出て来てフォローしてくれた。
「それで、西の大陸からこの町に航路を持ちたいんだが構わないだろうか」
「何をするんじゃ?」
「旅客船と貿易船だな。船は旅行者を乗せるし、積み荷は収納できるから大量に積める。1隻の船で旅客も運搬もできるんだ。」
「ほぉ、欲張りな事じゃ。お前さんは冒険者じゃと思っておったが?」
「私は商人ギルドでもAランクなんだよ。時期は未定だが獣人国からのルートになると思う」
「獣人国?」
「バルダンって獣人国ができたんだ。その国が今、港を創っているから1年もしないうちに人がどんどん来ると思うぞ」
「ほうかほうか、景気がええのはええ事じゃ、どんどんやってくれ。専用の桟橋を1つ設けておこう」
「バスラス様! そんな事を我々の一存では」
「ええんじゃええんじゃ。昔は西の大陸への航路もあったらしいでの、それを復活させるだけじゃ、なんも問題は無い」
ガンダーが諫めるがバブラスが決めてしまった。
こういうのって、国で決めたりするもんじゃないのか? バブラスってそんなに偉い人だったのか?
「即決は私もありがたいが、大丈夫なのか?」
「構わん構わん、後は儂に任せておけ」
任せておけって言うなら任せようか。
「じゃあ、任せよう。船は出航させるが、次に来る時には沢山の人や物資を載せて来るから、その時になって入港できないってのは勘弁してくれよ」
「ほっほっほ、安心せい、そんな事にはならんよ」
これ以上ここで言ってもどうにもならないし、ここはバブラスさんに任せよう。
この港町セイケットがどこの国の町で、城が何処にあるかも知らないんだから。
船を港から出し、少し沖合に出てから収納し、バンブレアム帝国に転送した。
次は移動方法だな。
バンブレアム帝国からエンダーク王国に向けてカタパルトを創る。
ガ○ダム行きまーす! ってやつを創った。少し高めで、高さ20メートルの位置から発射されるカタパルトを創った。
ここで使うのが、浮遊石。以前から使い道を探していた、ただ浮くだけの石。
押すと押した分だけ浮遊するが、ただそれだけの石。
デルタが仲間になる前、君臨していた海底ダンジョンにあった石だ。
まずはお試しだから2メートル角の立方体の浮遊石を出し、リクを乗せた。
まだ発射台だけで、カタパルトには何も細工をしてないので走って助走を付けて浮遊石に乗る。鶴仙○の弟のタオパ○パイみたいな気分だ。投げた木に自分で乗るみたいな。
発射の方法は後で考えるとして、まずは乗り心地の確認だ。
おー! いいじゃないか! 浮いたままこのスピードならすぐにエンダーク王国に着くぞ。
「とーちゃん、これ楽しいよ!」
リクが楽しそうに言ってくる。
確かに楽しくなるな。しかも、まったく揺れないし、快適な旅を短時間で一般人が出来るようになるぞ。
一般人にはこの風圧は厳しいか。それなら電車の様にして窓を全部ガラスにしてやるか。
レールの無いモノレール新幹線バージョンみたいな感じになるんじゃないか?
・・・・・・・どうやって止まろう・・・・。
空中だからブレーキが付けられない。風魔法か、風魔法を前に向けて出せるようにしておけばブレーキになるか。
それを誰がするんだ? 運転手が必要だな。
「リク、どうやって止めようか」
「え? 考えてないの?」
私が頷いてみせると、リクがあきれた顔をして
「仕方がないなぁ、おいらに任せてよ」
そう言うと伸縮の槍を伸ばしていき地面に突き刺した。
リクがスピードを考えながら徐々に縮めていって止まった。
この方法も確かにアリかもな。でも仲間でないと出来無いのであれば論外だな。
加速にしてもそうだ。一気に加速したら乗ってる者はたまったもんではない。加速も減速も徐々にしないといけない。
やっぱり風かなぁ。
道の両サイドが高さ25メートルのポールを立てる。
ポールの先を90度曲げて進行方向に向けて風が出るように設置する。
風向きは少し内側にして乗り物が斜め後ろから風を受けるようにした。
それを100メートル間隔で両サイドに設置する。
スタート地点のカタパルト付近は屑魔石を使い、そよ風程度にするが、徐々に強い風が出るようにセットしていく。
中間地点の前後50キロからは徐々に風を弱くしていく。
これは逆側の為のものなので、行き道には必用無いものだ。
中間地点を越えると、今度は逆向きに風を前から受けるように設定していく。
風力もゴール地点から徐々に強くしていき、中間地点の50キロ前から徐々に弱くしていく。
乗り物は長方形の箱の形にした。電車だね。
中は中央に通路を作り、両サイドに2席ずつ。100人乗りにした。
車両の両側と屋根の上に、風を受ける為の帆のような羽を付けた。羽を付けると強度に問題があったので、車両も羽もメタル系で作り直した。
付加効果:【浮く】のメタルの車両だ。
リクを乗せて私が風の調整をする。
何度か失敗したが、一度も車両を壊すことなく、路線が完成した。
ここに張った『仙道結界』は、魔物が入らない設定しか付けてないから、風や雨は通る。その影響で何度も脱線して進行方向がずれるので、その度にリクが止めてくれた。
リクがいなかったら大惨事になってたかもしれないな。
『仙道結界』に水と風が入らない設定を付け加えた。中からは出られるようにしておく。これは魔物も同じ。出られるが入れない設定だ。仲間は通過できるようにはしてある。
風向きや風量の調整には、まぁまぁ苦労した。この調整に1週間も掛かってしまった。
1度出発させると、片道分の検証になるのだ。片道約6時間。1日に何度も検証できないから時間が掛かった。
カタパルトをエンダーク王国側にも創る。
中央には立体駐車場にあるような回転台を創り、車両を固定できるようにもしておく。【浮く】の付加効果は少しつついただけで動くから、しっかり回転台に固定できるように創っておいた。
さあ! 完成だ!
初めに誰に乗ってもらおうか。
ここはやっぱり王族になるのか? いや、私が創った物なんだ、王族は後だな。
まずは仲間だな、その次に仕方がないからバンブレアム王にしてやるか。
アメーリアはエルの母親役だから、仲間内という事でいいだろ。
先に乗ったと言わさなければ、バンブレアム王も拗ねないよな?
全員集合させて、試乗会だ。
獸人国の面々もアーリーも獸人村の長老もエルフの3長老も呼んでやった。
アメーリアとエルも連れてきて試乗会をやった。
恐らく、最高速度500キロは出てるんじゃないかと思うが、車両の中は非常に快適で、揺れは全く感じない。加速や減速の時の加重もほとんど気にならなかった。
バンブレアム-エンダーク間を1日1往復できる路線の完成だ。
試乗会の後は、獸人国で宴をやろうと提案されたので、今回のメンバー全員で宴会をした。
獸人国王になったロロには、トンネルにも早く同じものを創りたいので、トンネルの補強と整備と警備を早くやるように言っておいた。
1つ創るともっと創りたくなる。最終的には、マーメライの町と東の国を繋げられるものが出来ればいいなぁ。
船もいいが、早くて安全な物があれば、その方がいいだろ。
決して鉄オタでは無いと弁明しておく。
命名は『エクスプレス1号』とした。
ソラに「必殺技~?」と聞かれたが、無視しておいた。
ココアが「必殺技」に異様に反応してたけどね。




