第208話 どっちが主?
ずっと沈黙が続いたので、他愛もない事だが聞いてみた。
「ところで・・・」
「なんですか?」
「腹は減って無いか?」
封印されてたからどうなのか分からないが、1300年も封印されてたんなら腹も減ってるかもしれないよな。
「いや、大丈夫。減って無いよ」
王って感じじゃ無いよな。でも【鑑定】では間違いなさそうだし。
「我は減っておるぞ」
子供が会話に割って入って来た。あ、さっきの龍神か。
「お前には聞いて無いが・・・ま、食べるか?」
何かの時の為に亜空間収納に入れているイチジロウが創った料理を出してやった。
亜空間収納に入れているから時間経過はしていない、出来立ての料理だ。
この料理も、創ったのは1年以上前だと思うけど、出すと湯気が上がっていた。出来立ての料理のようだ。
「おお! これは美味そうじゃ」
机と椅子とスプーンとフォークも出してやると少女姿の龍神は勢いよく食べ始めた。
そのウマウマと言いながら美味そうに食べる姿を見たら、私も食べたくなったので、初代帝王のユウジにも出して、3人で料理を食べた。
ユウジもお気に召したのか「おお!」と絶賛して声を上げた。
龍神は5人前食べた。
その小さな身体のどこに入るのかは分からないが、元は大きな龍だし、そんなもんか。
食事も終わり、食器を収納すると少女姿の龍神は、ユウジが寝ていたベッドに寝そべっていた。おいおい。
こいつは放っておいてもいいか。問題はユウジをどうするかだよな。
「ユウジ・バンブレアム、お前をここから出すには少し問題があってな。お前を封印した奴に話を付けないといけないんだ」
「俺の事はユウジでいいよ」
「そうか、じゃあユウジ。私はそいつからお前を排除してくれと頼まれた」
「・・・・」
「だが、今のお前を見る限り悪い奴にも見えないし、私も迷っている」
「・・・・」
ユウジは私の話を黙って聞いていた。
「お前は誰かに操られていたのか?」
「・・・わからない」
そうだよな、操られているって分かってたら操られないよな。
やはり、クリエイターと話し合うか。
私は短剣を出した。
短剣は光らなかった。
あれ? 光らないぞ?
短剣を一度収納して、また出してみたが光らない。
あれ? なんでだろ。この場所か? クリエイターの影響を受けにくい場所とか。
それはおかしいな、ユウジを封印する為にクリエイターが選んだ場所だ。クリエーターが管理できない所を選ぶはずがない。仕方が無い、石碑の前まで戻るか。
「なぜか分からないが、その・・・サチコを呼べないみたいだ。上まで付いて来てくれるか?」
「わかった」
ユウジが椅子から腰を上げた。
「それはダメじゃ、ここから出てはならんぞ」
ベッドで寝転んでいる少女が言って来た。
「なんで?」
「サチコに見つかるからじゃ。死にたいのなら止めんがな」
「この場所にいれば見つからないのか?」
私はおっさん口調で話す少女に聞き返した。
「そうじゃ。と言ってもこの場所では無く、我の傍ならだがな」
「どういう事だ? お前の傍にいればサチコには見つからないって聞こえたが」
「その通りじゃ。我はサチコと同列である。彼奴に管理される者では無い」
クリエイターと同列? 管理者側って事か? それならなんで封印されてたんだ?
「だってお前、壁にされてたじゃないか。サチコより弱いんだろ?」
「いや、強さは同等。ここに封印されておった者より少し強い。今回は騙し討ちにおうたのじゃ、不覚であったわ」
「じゃあ、お前も管理者側って事か? 名前は何ていうんだ?」
「我の名はリョウ! ジーザス様の創りし、この世界の楔よ!」
リョウって・・・龍だけどな。ジーザスが創った楔ってどういう事だ? なんか最近わからない事だらけだよ。
「ジーザスって創世者だよな? この世界を創ったっていう奴だったよな?」
「そうじゃ」
「ジーザスって世界を創るだけで、管理なんかはサチコがやってるんだろ? なんでジーザスが創ったリョウがいるんだよ」
「楔だと言ったであろう。異世界同士が干渉せぬよう、どの世界にも我のような楔が創られておる。だからサチコには我は見えぬ」
「見えないんだったら、どうして騙されるんだよ。今いち信用できないな」
「ふむ、確かにお主の言う通りじゃ。だがあれは巧妙な罠じゃったのじゃ」
なんか見えたよ。どうせ大した事無い罠でドジ踏んだんだろ?
「我がよく行く泉に、見た事も無い美味そうな食事が用意されておった。花畑の中に用意されたテーブルには肉や果物が沢山用意されておった。何のタレだろうか、非常に食欲をそそる匂いに我は誘われるように席に着いた。するとなぜか、いつの間には壁に封印されておったのだ」
こいつに一瞬でも預けてみようかと思った私が浅はかだったよ。
こいつもダメだな。でも、やりようによってはアリなんだけどな。こいつら2人を手錠で繋いで離れられなくするとかな。そんな事はこいつらも望んで無いか。
それならどうするかと考えているとユウジが提案して来た。
「この子が一緒にいるとサチコに封印されることが無いんなら、俺がこの子の面倒を見るよ」
おー! そっちから言ってくれると助かるな。じゃあ、お願いするかな。その前に確認だ。
「リョウ、そのお前がサチコから干渉されないっていうのは、こっちのユウジにも当てはまるのか?」
「我の半径1メートル以内にいれば効果はある」
1メートルって効果範囲が短すぎるわ。今は・・・1メートル以内っぽいな。
「その効果範囲はもっと広くならないのか?」
「ふむ・・・主従関係を結めばいい」
こんなバカな奴を主と仰ぐのは嫌だよな。断っていいぞユウジ。
「それでも僕は外に出たいな。ずっと1メートル以内は無理だろうから、この子と主従関係を結ぶよ」
それもお前の人生だ、私に止める権利は無いな。
「リョウ、サチコが『あいつ』って言ってた奴がいるんだが、心当たりはあるか?」
「それは恐らくカツヒコの事であろう。彼奴らが付き合うていると惚気られた事があるからの」
それはいい情報だ。カツヒコって言うんだな。そいつもどこかの世界のクリエイターなんだろうか。しかし人間臭いんだなクリエイターって。
「そのカツヒコからも見えなくなるのか? 操られたりしないのか?」
「我と主従関係を結べば問題無い。奴ら同格じゃ!」
「僕はそれで構いません。よろしくお願いします」
私の不安にリョウが答えた事で、ユウジがリョウに願い出た。
「心得た。フンッ!!」
リョウが同意をすると力を込めた。
ユウジの額が光る。
え? 逆じゃないの?
【鑑定】
名前: リョウ24338歳 龍神V545
HP3885 MP3787 攻撃力3822 防御力3810 素早さ3901
スキル:【超再生】【痛覚無効】【念話】
ユニークスキル:【楔】
称号: 東の国の勇者の従者
あれ? さっきの話の流れじゃリョウの従者にユウジがなるって思えたけど。
ま、私には関係ないか。
しかし、この世界の初代の生物ってだけあって歳食ってんな。
リョウの年齢がそのままこの世界の歴史って事なんだろうな。
「リョウ、この世界ができて何万年と経ってるみたいだけど、この世界って進化してるの? 元々はどんな感じの世界だったんだ?」
「進化? 進化はせんな、そういう設定で創られておる。この世界は出来た時からこんな感じだ。人間も初めからいたし、魔法も初めからあったし魔物もいた。精霊界は無かったが、少しずつできてくると魔法にも多少は変化があったかの」
「武器や防具は? 飛び道具は弓矢ぐらいしか見た事が無いんだが。鉄砲はないのか?」
「テッポウ? よく分からん事ばかり言うが、武器や防具はあまり変化が無いの、素材が変わったぐらいか。飛び道具も魔法やブレスがあれば他に何がいるんじゃ?」
やっぱりそうか、この世界はこのままなんだな。そういう設定で創られてるのか。
だから裏技で召喚勇者がユニークスキルを使って砂糖や米や通信水晶を出す事はあっても、作物や技術として根付かないんじゃないのかな? あくまでも予想ではあるが、これだけ長い年月変わらないという事は、そういう事なんだろうな。
「わかった、また教えて欲しい事があれば訪ねる事にするよ。それで行き先についてなんだが、3つの提案がある」
ユウジに向き直り提案した。ユウジも頷き改めて聞く姿勢になった。
「1つはユウジの興したバンブレアム帝国に世話になる。現王には私も顔が利くから話は出来ると思う。2つ目は私の創った獣人の村が私の領地内にある。そこで少し落ち着くまで暮らすか。3つ目は私の仲間が治めている獣人国がある。そこに落ち着くかだ。ユウジは1300年封印されてたんだ。すぐには慣れないかもしれないが、そんなに変わって無いという事だから大丈夫かもしれんが、その当時生きてた者はいないだろうな」
ユウジは少し考えて答えた。
「1300年も・・・そういう事ならバンブレアム帝国は辞めておきましょう。城というのは嫌気が差しますし、もうコリゴリです」
あとは獣人村か獣人国だな。
「別に私の提案に乗らなくても、冒険者として過ごしても構わないんだ。初めの装備や資金については融通させてもらうぞ」
「ありがとうございます。東の国が出てきませんでしたが、今どうなってるか分かりますか?」
「東の国は変わらずあるぞ。でも冒険者ギルドってあったのかな? 気が付かなかったが」
「冒険者ギルドは東の国にもあるはずです。俺も西の大陸に来るまでは東の国で冒険者をやってましたから」
「でも私には東の国での伝手は無いぞ。精々装備と小判を渡せるぐらいだが」
「ありがとうございます。そこまでして頂く義理も無いですが、今は何も持って無いので助かりますよ」
ユウジは笑顔でお礼をくれた。
やっぱり良い奴そうだけどなぁ。いやいや、軽率な行動は慎むと決めたばかりだ。これ以上、踏み込まないようにしよう。
武器は刀が良いというのでメタルの刀と小判を100枚。防具も一式出した、メタルの胸当てと小手とレガースと靴を。収納の指輪と通信水晶も付けてやった。
行き先は江戸がいいと言うので江戸に転移して別れる事にした。
「何から何までお世話になってしまって。ありがとうございました」
「いや、何かあったら連絡をくれよ」
「はい、では行きましょうかリョウ様」
「うむ、では主殿、参りましょうかの」
どっちも従者になってないか? お互いに【鑑定】は持ってないみたいだけど、自分のステータスは見れるだろう? その内気が付くかな。
ユウジの従者のヤマトとムサシは名前も消えて無いから、またいずれ会う事もできるでしょう。とユウジとは笑顔で別れた。
良い奴だと思うけどなぁ。封印の原因か、何があったんだろうな。




