第205話 同時攻撃
攻撃の準備は整った。漏れは無いはずだ。
谷班、海班、空班。それぞれ短刀を手に持ち同時に転移。
まず空中神殿に行ったリク達の相手はウーラノス。キュクロープスとヘカトンケイルという息子を持ち、空に君臨するが部下はいない。
空=天ってイメージがあったので、エンジェルぐらいいるのかと思ったが、いないという事らしい。空中神殿にいるのはこの3人だけ。ただ、ウーラノスは他の神に比べても少し格上らしいので、リクに行かせる事にした。1人を2人で相手するのだ、このメンバーなら負ける事は無いだろう。
海底神殿に行ったココア達の相手はイアペトス。海底にいるから海の神かと思ったが、別に関係ないそうだ。アトラス、プロメテウス、エビメテウスの強力な息子たちを持っていた。総合的には空中神殿の戦力と変わらないだろう。ここの戦法としては、カインの【結界】で海底神殿に閉じ込めて、ナナの【雷】と小判での雷魔法で弱らせた後、掃討する事にした。
谷の神殿の私達の相手はクロノス。どうやらこいつが親玉らしい。
親玉と言っても仕切っている訳では無い。それぞれの神はバラバラの意志を持ち、バラバラに行動する。しかし、目標は全員がクリエイターの捕獲、或いは討伐。
クリエイターは神より強いが、それは1対1での話。神に連携して来られると少し分が悪い。
そこで、連携を取るためにも連絡の中心としての役割をしている。
クリエイターを手中に収めて別の異世界も牛耳る計画も、このクロノスが提案したようだ。
谷の神殿には部下も多く配置してるらしい、これはクリエイターでも何人いるか分からないと言われた。
基本、神殿の中は神の結界で見えないらしいのだ。霊峰アンガーラマンドゥの場合は霊峰特有の聖なる気の影響と亜空間収納の中という事で来れたらしいが、他の神殿は結界を張られるようになってからは見れなくなったそうだ。
なので、奇襲だ。
谷の神殿の近くに創ってくれた転送ポイントに転移して来た私は、和弓を構え魔力を込めた一撃を放った。特大の1発だ! 私の魔力が一気に半分無くなるほどの強烈な一発!
それを合図に同行したミルキー、ソラ、ショーン、イロハ、アゲハが突撃するという作戦だった。
「ご主人様ー、何を攻撃するのー?」
「そうですね、何も無くなってしまいましたね」
ソラの言葉にミルキーが同意する。
谷には直径1キロぐらいの大穴が開き、谷底を流れる川の水がその大穴に流れ込んで行っている。
い、いや、クリエイターを倒せるかもしれない程の神だろ? この程度でやられるはずは無い! どこかに隠れたか、転移して逃げたかもしれない。
「油断するなよ! まだどこかに隠れているかもしれん。周囲の警戒を怠るな!」
あれ? 返事が無い? 皆こっちを向いてるよな? 私の声も聞こえてるよな?
ジトーっと見て来る皆の視線が痛い。
「そんなのいるはずがございませんね」
「ご主人様ー、帰ろー」
悪魔3人組も警戒を解いて私の所に歩いて来た。
いや、最近は凡ミス続きだから、念のため念のため。
【サーチ】で確認。うん、いないね。これじゃ、武器も見つからないな。あとでゴーンには謝っておこう。
谷班の私達はアジトの屋敷に転移して戻った。
その頃、海底神殿のココア達は、カインが【結界】創り終えた所だった。
海上の上空10メートルで集合してココアが指示を出した。
指には飛行の指輪とメタルフロッグの指輪が填められている。
「では皆さん、小判を出してください」
全員が小判を出した。ナナはユニークスキル【雷】なので身構えるだけで合図を待つ。
「海底神殿はこの方向です。雷魔法を放った後は、早い者勝ちです。それでは・・・・放て!」
ココアの指さす方向に、全員が小判を持って雷魔法を放った!
ピカッ! グゥワラグゥワラドゴオォォン!!
最近では小判を使う事も無かったので、幅30メートル級の凄まじい稲妻が5本海中に飲まれていく。それよりは小さいがナナの放った【雷】も同時に海中に飲まれる。
「あ! ナナ! ズルーい」
コンビのシロウからズルーいと言われたナナは、ユニークスキル【雷】を放つと同時に海中に飛び込んだ。
全員、一応は雷耐性も持ってるものの、バチバチバチと放電しながら湯気を上げている海面を見ると、すぐに飛び込むのが躊躇われて少し遅れたのだ。
ナナは雷ならお手の物。早い者勝ちだと言われたのだ、待っている必要は無い。
海中神殿に向かう雷を追いかけるようにナナが海底神殿に向かっている。
ココア達はナナから海に飛び込んでから遅れる事10秒程、ようやく意を決して海中に飛び込んだ。
途中、色んな海系の魔物の死骸が多数あるが、振り払いながらナナを追う。
その為、少し時間が掛かったが、ようやくナナに追いついた。
「ナナ、どうしたんですか? 雷攻撃で弱った所を叩く作戦ですよ」
海中で止まっているナナにココアが声を掛ける。
「ココアさん、海中神殿はもう無くなっちゃったよ」
海中神殿があったと思われる方向を見てみると、海底神殿があったと思われる場所には何も無い。海底は見渡す限り黒焦げになっていて、その中心は大きなクレーターになっていた。
「ここで合ってると思うのですが」
「うん、ここだよー。私、雷に追いついて海底神殿が無くなる所を見てたもん。それからずっと見てるけど、だれも出て来ないよー」
「そうですか、誰も残っては無さそうですね。ここには4人の神がいたはずです、周囲の魔物を回収しながら探してみましょう。魔物の死骸を放置するとタロウ様に叱られますので」
別に叱らないが、ココアがいつもこうやって言う事で、皆に魔物の回収を癖付けていた。
回収には1時間掛かったが、神も武器も見つからなかった。
ココア達が雷を放った頃、空中神殿のリク組はまだ何も動いて無かった。
「だから、おいらが突撃した後に皆が付いて来てくれればいいんだよ」
「そうは行きませんわぁ、まずはわらわが行きますわよぉ」
「いやいや、僕が行くんだよ! この新しい武器を試したいもん!」
「私だよ! この切れ味を試さないと」
「この転送ポイントを創ったのは僕なんだから、僕が行くよ」
「それなら僕も一緒じゃないか。ここは譲れないね」
突撃の順番が決まって無かった。
いつも通り、特攻隊長で行こうとするリクにノアが我が侭を言い出した事で、全員が主張を始めたのだ。
リク、ノア、ニコ、ゴロウ、キュータ、パーチ。戦闘力から行くとリクが頭1つ抜けているが、後はノアと同レベル。
ニコとゴロウはエンダーク王国で鍛治もやってるから、新しい武器を試したい。
キュータとパーチは【潜行】を持っているから、いきなり神殿の中まで行って姿を現し、意表を付いて攻撃を始められる。
最終的にリクが出した提案で皆が納得した。
全員でソニックブームを発射して、それを合図に一斉に突撃する。
速さでリクが上なのは全員がわかってる。それに対して渋ってる所があったので、リクはソニックブームが神殿に当たってからスタート、他の者は発射と同時にスタート。
リクがハンデを付ける事で、ようやく全員が納得した。
ここの担当の6人は全員が飛べるので、均等に離れて空中神殿を包囲した。
『念話』でリクが合図を送る。
『発射!』
6方向から空中神殿に向かってソニックブームが発射された。
シュシュシュシュシュシュー
ズガーンドゴーンバゴーンズゴーンガラガラガラ
空中神殿が柱数本と基礎を残して消滅した。
1方向からの攻撃なら建物を吹き飛ばすだけで済んだのだが、各方向からの攻撃だったため、ソニックブームの衝撃波同士がぶつかり合って建物を粉々にして消滅させてしまった。
武器の性能というよりは、今までダンジョンで遊んでいた成果だろう。ソニックブームの精度も威力も上がっているし、個々のレベルも上がっている分でも威力も上がっている。衝撃波だから武器の切れ味なんか関係ない。
ソニックブームが空中神殿に当たってからスタートしたリクが、そこに空中神殿があったと思われる所に来た時には、既に何も無かった。
この空中神殿でも神も武器も確認できなかった。
結局、誰も神鉱石の武器+3を試してないし、神とも会って無い。
どんな奴らだったのか、どんな武器だったのか、結局名前だけしか分からなかった。
ホントに神はいたのかね。
最後の所、少し変えました。




