第198話 入港
ココアとリクを連れて新大陸に上陸した。
情報では少し東に行った所に港があるということだったので、先日創った船を出した。
初めて見る船に仲間達も興奮していたが、今回はココアとリクだけだったので皆ブーブー文句を言っていた。
1時間ほどで港に着いたが、辿り着くまでにも海系の魔物は出た。
メタル系で創られた船だから航行するだけで衝突する魔物を倒して行ける。が、初めての船に燥ぐココアとリクが舳先に陣取ると、船に魔物が当たらないように伸縮の槍を使ったり、飛行の指輪を填めさせた分身体に魔物を排除させていた。
私は舵を取っていたのでどんな魔物が出て来たのかはあまり見えなかったが、港に入る前に大きな蟹のハサミがが見えた気がした。
何かあったのか? と聞いたが、
「問題ございません。主様の船に向かって来る愚か者はすべて排除いたしました」
「こっちは問題無いよ。船って気持ちいいね、父ちゃん」
問題無いらしい。
港に入ると沢山の船が係留されており、着岸できそうなところが僅かしか空いて無い。
100メートル級のこの船を係留できそうな場所が空いて無かった。
港の真ん中に止まり岸壁の様子を見ていると、人がゾロゾロ集まりだしている。
集まって来ている人たちは、この船に注目しているようだ。
別に注目されるようなことはしていないんだが、人集りはドンドン増えて行く。
何に注目されているんだ? 係留されている船を見ても、この船と同じぐらいの大きさの船も2艘見えるし、船の色だって白い船と緑の船が多いが黒い船だってあるようだし、この船はメタル色なので黒い船があるんなら、そんなに変わった色では無いだろう。
帆を張って無かったからか? いや旗を出してなかったからか? どっちも用意してないしなぁ。
人集りで岸壁が埋まりそうになった頃、10人乗りぐらいの小型船が1艇やって来た。小型船というより少し大き目のボートと言った方が合うな。
オールを出して漕いでいる者が4人の他に2人いてボートの真ん中で立っていた。
ボートが近付いて来ると、立っていたうちの1人が声を掛けて来た。
「この船の責任者はいらっしゃるか!」
声を掛けて来た男は青い布を頭に巻いており、真っ黒に日焼けしていて青い目をしていた。
服装も半袖ではあるが、白いカッターシャツのようなシャキッとした格好をしており、ボタンもキチンと止めていて、できる事務方の印象を受けた。
4人の漕ぎ手がボロい麻のシャツを着て白い布を頭に巻いているから、余計にシャキッとした印象を受けたのかもしれない。
もう1人の男も白いカッターシャツを着ていたが、頭に巻いている布の色は濃紺だった。
私が船長だと手を上げると、少し話が聞きたいので降りて来て欲しいと言われた。
私はそのままボートに飛び降りた。ボートに着地する時には風魔法でふわりと降り立った。
ボートの乗組み員達は驚いていたが、青い布を巻いた痩身の男は気を取り直し尋ねて来た。真っ黒に日焼けしていたが、健康的な肌の色の割には華奢に見えた。
「あなた達が無事入港できたようなので状況を伺いたい。港に入る時に魔物が出ませんでしたか? それとも運良く出会わなかったか」
「魔物? 私には見えなかったが・・・。ココア、リク、港の入り口に魔物がいたか?」
「どの魔物の事でしょうか。大したものはおりませんでしたが、ここに来るまでに沢山出ましたが」
「さっきの奴の事じゃ無いの。でっかいハサミを持ってた奴が結構いたよ。カルキノスって奴だったよ」
「やっぱり出ましたか。それであなた達はどうやって逃げてきたのですか? カルキノス達は群れでいますので、1体見つけた時には既に群れに囲まれている場合が多いのです。現在この港の入り口にも群れが居座ってしまって、どの船も港から出られない状態なのです」
「そうですな、カルキノスの群れの中を通れる方法を知ってるなら教えてもらいたい」
濃紺の布を巻いた男が話しに割って入って来た。黒髭がモジャモジャ生えていて暑苦しい顔だ。やはり真っ黒に日焼けしていて、こちらはガタイもいいから髭が余計に暑苦しい。
「通れる方法って、私はそのカルキノスって魔物も知らないし、対策なんか何もしてないしなぁ。」
「なんだ、ただ運が良かっただけか」
濃紺の布を巻いた男が吐き捨てるように言うと、もう行っていいぞと私にシッシッと手で振り払った。
「そのカルキノスってどんな魔物なんだ?」
少しイラっと来たので食い下がって聞いてみた。
「本当に知らんようだな。カルキノスというのは・・・」
「これの事だよ!」
濃紺の布の男が説明しようとしたが、リクが割り込んだ。リクは5メートル以上はあるカニの魔物を片手で軽々と持っていた。
その大きなカニの魔物にはいくつもの槍で突かれた穴が開いていた。
船に乗っていた者達は驚いて声を上げられなかったが、岸壁に集まっていた人集りからはオォォォ! っとどよめきが起こった。
「おー、でっかいカニだな。美味そうじゃないか」
こっちの世界に来てからカニは食って無かったよな、大好物なんだよ。
「う、美味そうか。確かに美味いが、お前達には相当な被害が出たんだろうな。先程から3人しか見当たらんしな」
「私達は元々3人だけだぞ」
「何を馬鹿な事を。これだけ大きな船を3人だけで操船できるはずは無い。しかもカルキノス相手に被害無しなどあり得るはずも無い」
「そう言われてもなぁ。お前達はあのカニが邪魔なのか。ココア! リク! その魔物ってまだいたのか? いたのなら全部獲って来てくれ。いい素材にもなりそうだし、あんまり傷付けるなよ」
「かしこまりました、殲滅でございますね」「わかったよ、父ちゃん」
2人は返事をするとメタルフロッグの指輪を填めて、海に飛び込んだ。殲滅ってココアが言うと怖いんだよな、少し微笑みながら言うし。
「あっちはこれで大丈夫だと思うぞ。後は少し話しがしたいが」
「それなら港の事務所で聞こう。このまま行けるのか?」
「いや、2人が帰って来たら一緒に行くよ。船はここに止めててもいいのか?」
「それは構わん。どうせどの船も港から出られんのだからな」
紫の布の男は、私達がカルキノスを全部倒すとは思って無いようだ。
「じゃあ、私も2人を手伝ってさっさと済ませて来るよ」
ボートの解析だけ済ませてメタルフロッグの指輪を填めると海に飛びこんだ。
ボートの上では青い布の男が心配そうに見送ってくれた。
紫の布の男は「馬鹿が見栄を張りおって」と馬鹿にした口調で言うと漕ぎ手に岸壁に戻るように指示を出した。
ココアとリクと合流して私もカニの討伐に加わる。リクがカニの急所は腹の真ん中だと教えてくれたので、伸縮の槍で突くと1撃でカルキノスを倒す事が出来た。
雷魔法も考えたが、雷魔法だと他の魔物や魚も獲ってしまうし、取りこぼしがあるかもしれないので、1体1体倒して行った。
1時間程でカルキノスの殲滅が完了して船の上に戻って来た。
さっきのボートをメタル系の魔物で創り、オールはドライアドで創った。
ボートを風魔法で海に降ろし、私達もボートに乗り込む。
オールの使い方を2人に教えると、嬉しがって2人で思いっきり漕ぎ出した。
うん、2人漕ぎで50キロ出せる事は普通無いな。確かにボートを漕ぐって楽しいけどね。
「お、おい! 止まれ! もう岸壁が・・・・」
2人は後ろが見えて無いからどんどんスピードを上げていた。私が気付いた時にはもう遅かった。
ズゴォーン!
ボートが岸壁に突き刺さった。その反動で私達3人も岸壁に放り出された。
なんとか3人共うまく着地ができた。が、周りはボートが凄い勢いで突っ込んで来たから少し避難はしていたが、私達が着地をした事を確認すると集まって来て揉みくちゃにされた。
「凄いなお前達! カルキノスを獲ったのか」「どうやって港に入って来たんだ」「さっきの突進は危ねーだろ!」「どんだけスピード出したんだ」「カルキノスを分けてくれ」「あの船は速いのか」「早くカルキノスを卸してくれ」「うちが買うぞ!」「もうカルキノスは無いのか」「どっから来たんだ」・・・・・・・
もうグチャグチャ。
騒ぎを聞きつけた、さっきの青色の布の男が来てくれて、なんとか港の事務所に連れて行ってくれた。
港の事務所は港事務所と書かれていた。




