第196話 マーメライ防衛
まずはトウベイ・スズーキ親娘の安全確保の為にマーメライの屋敷に転移で飛んだ。
屋敷にある転送ポイントは庭の端の目立たない所に創っていたので、外にある。
周囲は暴風雨になっていて、普通なら立っている事も困難なぐらいの暴風が吹き荒れている。
この辺りは高台になっているから大丈夫なようだが、冒険者ギルド辺りは洪水が起こっているかもしれない。
風も凄いから、この辺りの木も倒れている木が何本もあった。
まずは屋敷に入りトウベイ・スズーキ親娘の無事を確認する。
この屋敷には常時2人だけで、他には誰も住んでいない。
大きな屋敷だが要所に【クリーン】の付加させた魔石を設置してあり、屋敷の清潔は保たれているし、【収納】のペンダントを渡していて中身には食材を大量に入れている。
お金も贅沢な生活をしたとしても5年は楽に暮らせるだけは渡している。
ガードには仙術結界を敷地外周に掛けているので、トウベイ・スズーキ親娘と私の仲間以外は門から入る事さえできない。
本来なら貴族だからメイドや執事やシェフなどを雇うのだろうが、私達の転送ポイントに使っているため部外者は極力入れたくない。
贅沢な料理が食べたければ外食をすればいいと言っているが、娘のルリコが毎食作っている。
最近はトウベイ・スズーキが男爵になれたので、週に2~3度は城に登城していたので、城からの伝令も来たようだ。
「タロウ様!」
部屋に入った私の姿を確認したトウベイ・スズーキ親娘が立ち上がって駆け寄って来る。
「すまなかった、もっと早く来るべきだったな」
「とんでもございません。私達は大丈夫でございます」
「そうです、屋敷も大きくて頑丈ですし、食料も大量にありますから問題ありません」
娘のルリコが補足してくれる。
「しかし、ここはやはり危険だ。別の場所に避難しよう」
アジトの屋敷も考えたが、今は未知の大陸が現れた所なので辞めておいた方がいいだろう。
それならロンレーンの屋敷にしようか。
トウベイ・スズーキ親娘を連れてロンレーンの屋敷に転移した。
2人とも何度か転移しているから平然としている。
転移して来たロンレーンは西の大陸東部のマーメライに対して大陸西部だから影響もないだろう。周囲も穏やかで問題無さそうだ。
「ここはダムダライド王国のロンレーンという町だ。しばらくはここで避難していてくれ」
「わかりました」
返事をするトウベイ・スズーキを連れて屋敷の中に入り、今は使ってないからどの部屋でも好きに使ってくれと言って、ロンレーンを後にした。
一度アジトの屋敷に戻ると、まだ朝食前の時間だが大陸が現れた事もあり、皆表に出ていた。
「皆聞いてくれ。マーメライの海に異変が起こっている。そして目の前に現れた大陸がある。目の前の大陸はすぐに何か起こる訳では無いようだが、このまま放って置くわけにもいかない。そこで待機する者とマーメライに行く班に分ける」
まだ戦闘モードに入って無いなぁ、ほとんど寝惚けてるぞ。マーメライに行ったらすぐに目が覚めるだろうけどな。
「先にニコとゴロウは担当のエンダーク王国周辺に異常が無いか調べてくれ」
「「はい」」
2人はすぐに転移して行った。
寝惚けててもやる事はやるんだな。
「次にここで見張る者として【監視】を持ってるクィンとヨッコを中心にイツミとムツミとサジで何かあったら対処してくれ。ムロも残って【結界】でサポートに回れ。キュータとパーチは【潜行】で大陸を見て来てくれ」
「「「はい」」」
キュータとパーチは早速【潜行】で大陸に向かって行った。クィンとヨッコは真上に上昇して行き大陸を上から観察するようだ。
チビとトオルは留守番の意味で屋敷守れと言っておく。イチジロウは当然留守番。ジャンにはこれ以上大陸に近づかないように注意しておく。
「残りの者は私と一緒にマーメライの町に行くが、カインはマーメライ入り江の主だったな」
「御意」
「じゃあ、リクとヒナタとヒマワリを連れて、海の様子を見て来てくれ」
「「「はい」」」
「ミコとセブンがマーメライの担当だったな」
「「はい」」
「じゃあ、冒険者ギルドの様子を確認して、要請があれば力を貸してやってくれ」
「「はい」」
「他の者はココアを中心に町の被害状況を確認しつつ、対処してくれ。土魔法で水を堰き止めたり、亜空間収納で氾濫した水や瓦礫を収納するのも1つの方法だと思う。私は城に行って状況を確認した後、海に向かう。全員メタルフロッグの指輪を忘れずに填めて行けよ。さあ、行け!」
「「「はい」」」
マーメライ組は全員で屋敷に転移して来た後、それぞれの役割の為に散って行く。
私も周囲の状況を確認しながら城に向かった。
屋敷から城まではさっきと同じく暴風雨に晒されていたが、やはり高台であることで被害は少ないようだ。
城にはすぐに入れてもらえた。というか、被害地の救済の為にどんどん出撃して行く城の兵達がいる為、城の門は常時開放状態になっており、どさくさにまぎれて城に入った。
何度も来ているので王が何処にいるのかは分かっている。
王は王の間の玉座に座っており、傍には大臣が控えていた。私が王の間に入る事は誰も止めなかった。
結構、名前が広まってしまってるな。獣王国ができてから何度も色んな交渉できたりしてたもんな。獣人奴隷の件でも結構世話になったしな。
「おお、タロウ殿! 今日も助けに来てくれたのか」
「助けるというか、事情がまだわからん。これはタダの災害じゃ無いのか?」
「そうなのじゃ。のう、大臣」
「はっ、どうやらマーメライ入り江に魔物が出たようで、この嵐は魔物が関係しているのではないかと情報が入っております」
「どんな魔物なんだ?」
「蛇の様な長い魔物ですが、その大きさは水龍の比では無いという事です」
最近はもう直接大臣に聞いている。
しかしあの時のカインよりも大きいのか、今行ってるカイン達も心配だな。
「それで被害は」
「町は1階部分がほとんど浸水被害にあっています。海や川に近い家は何軒も流されたと聞いております」
そっちはココア達だな。あいつらなら何とかするだろう。
「他は?」
「はい、これはまだはっきりと確認はできていませんが、入り江の外にも何体か魔物がいるのではないかと思われます」
「わかった、それはこちらで分かると思う」
やっぱりトウベイ・スズーキが言ってた通り、魔物の仕業なのか? 予定通り海に行くのが先だな。
「海の魔物はこちらで対処しよう。町の救済に全力を注いでくれ」
「はっ、ありがとうございます。では、そのように連絡をしましょう」
大臣は控えていた兵に指示を出し、指示を出された兵は指示を聞くと大急ぎで走って行く。
「じゃあ、また後で来る」
城を出た私は全速力で海に向かった。この暴風雨の中を出ている者はいないので邪魔されることも見られる事も無くすぐに海に辿り着いた。
砂浜から見える海は、荒れ狂ってはいるが魔物の姿も仲間の姿も見えない。
海の中か? 【サーチ】で確認するが、仲間は確認できない。
『カイン、今どこだ』
『御意、今は入り江の外におります。うおっ! 失礼しました、只今交戦中でございます。ぐおっ!』
『わかった、戦いに集中してくれ』
『御意、うぉっ!』
交戦中とはいえ、そんなに梃子摺る相手か。封印されてた奴で間違いないだろうな。
『ココア、そっちの状況は?』
『はい、こちらは間もなく落ち着きそうです。ただ、このまま暴風雨が続くと別の所から被害が出そうです』
『わかった、もう少し頑張ってくれ』
『主様はどうされるのですか?』
『私はカイン達の所に行ってみる。珍しく奴らが苦戦してるようだ』
『わかりました、ではご武運を』
『ああ、ありがとう』
海の中を行こうかとも考えたが、これだけ風が吹いてるんだから利用しない手は無い。
風魔法で飛べるんだから、この暴風を操作する事で自由に飛べそうな気がした。
【那婆羅】サポートを頼むぞ。
――了解です。
私は風魔法を発動させ周りの暴風と馴染ませる。そしてそのまま大きな風にして行き、その中心に私が来る形となる。竜巻の様に回っている訳では無いが、暴風は言っての規則を以って左右に上下に吹き渡っている。すべての風を私の後ろ纏わせそのまま発射! 私が風の力で発射された後、風も私に付いて来る。
――ユニークスキル【風】を獲得しました。
なんだろう、妖精とも精霊とも違う感じなんだが、風に意志を感じるな。
そのまま入り江を飛んで出て行くと、4つの戦いが繰り広げられていた。戦ってるのはこの場に向かわせたカイン、リク、ヒナタ、ヒマワリの4人だ。それぞれ1対1で戦っていた。
相手も人型の魔物だった。
アシアー、ステュクス、エーレクトラー、エウリュノメーという名前持ちの魔物だった。
いや、魔物では無かった。【鑑定】では【神族】と出た。
ステータス平均はうちの連中の方が高いがスピードと武器でやや負けているようだ。リクだけはスピードも勝ってるし、そろそろリクが勝ちそうだ。
むむ、武器で負けるとは・・・
私の職人としての・・・・後にしよう。
だが、武器で負けるのは許せないな。
『リクは刀だな。ヒマワリ、ヒナタ、カイン。お前達は剣でいいのか?』
『槍をお願いします』『父様、私も槍ー』『僕は剣!』
返事ができる所をみると、まだ余裕があるな。
収納から『異世界金属』の槍2つと剣と刀を取りだし、風を纏わせ奪われないように仙道結界も付けてそれぞれの元に送り出した。
新たな武器を手にした4人は、担当の敵を一蹴した。




