第192話 オオカミおじさんとの再会
ようやく東の国へ来れたな、この異世界に来る切っ掛けとなった場所にも行ってみたいが、仲間もいる事だし後にしようか。
「ココア、長老とは連絡が取れるか?」
「はい、先程連絡ができました。何も変わりなしとの事でした」
さすがココア、仕事が早いね。西の町にも行ってみたいけど、ここがどこなのかだな。
ココアは分からないだろうし、他の仲間は初めて来る場所だから論外か。
さっきの七獣神に聞けばよかったな。
鑑定結果だと、狸が大魔魅、狼が白狼牙、狐が九尾の狐、カラスが八咫烏、亀が霊亀、猫が大猫又、白蛇が白蛇姫だったか。どこへ行ったんだろうな。
――どちらの回答が先ですか?
(どちらのって?)
――『ここがどこか』という問いと、『七獣神がどこへ行ったか』です。
え? わかるのか? それなら
(ここは何処だ?)
――ここは東の国の最西であり最南です。元の世界では九州と呼ばれている場所にあたります。
(九州? 九州で最南っていったら鹿児島か? 薩摩かもしれないが)
――場所はそうなりますが、名称は違うでしょう。
そうだな、それはそうだ。この世界には魔物が出るんだし、元の世界と同じという訳では無いよな。
(私のいた世界の日本と、ここは同じ地形なのか?)
――ほぼ同じです。
(それなら、西の町は何県辺りになるんだ?)
――島根県です。
なんとなくルートが見えてきたよ。それと、もう1つの方だ。
(七獣神達は何処に行ったんだ?)
――少し離れた所で、それぞれ部下を従えて隠れています。どうしますか?
(どうしますかとは?)
――殲滅しますか? 逃走しますか? 黙認しますか? 排除しますか? 隔離しますか? 5つの中から決めてください。
(おい! 殲滅と排除は同じだろ。逃走でいいよ。隔離ってなんなんだよ)
――殲滅と排除は違います。殲滅は跡形も残りませんが、排除は素材として残ります。隔離とは結界で閉じ込めます。
(それは全部攻撃だから。逃走でいいって)
――わかりました。では馬車で【神速移動】すれば逃走できます。
初めからそう言えって。私の一部なんだろ? 私の考えはわかるだろうに。
――【那婆羅】は計算、補助、提案するだけです。決定はあなたがします。
確かにそうだけど、【那婆羅】になって好戦的になってないか? もう私の周りに好戦的な奴はいらないんだが。
『皆、聞いてくれ。どうやら見張られてるようなので、念話で伝えるぞ。ここから馬車で【神速移動】を使って北上する。陸が無くなったら今度は東へ向かう。すぐに次の陸地が見えるはずだから、そこからはゆっくり行こう』
全員にちゃんと伝わったようで、全員頷いて同意を示した。全員で転送ポイントを創った後、ここまで来た時と同様に馬車を5台出して用意してくれたので、分乗して出発した。
【那婆羅】が言ってくれた通り移動を始めた途端、追跡が始まったが【神速移動】を使う事で監視していた七獣神のからは逃れられたようだ。
九州の最北の福岡に当たる部分にまで来て【那婆羅】に確認してもらったが追跡が無い事が確認できた。
そこから予定通り東に進路を取り、西の町を目指す。
西の町はすぐに見つかり、仲間たちと町に入った。西の大陸の様に門も無ければ詰め所も無い。それは前に来た時に経験済みだ。
前に来た時に纏めて魔物を引き取ってくれた奉行所の様な役所に行き、今持っている魔物を出した。
東の国の魔物なんて持って無い。狩りに行けばすぐに獲って来れるだろうが、前回まだ褌だった頃に来た時も、驚きながらも対応してくれた事を覚えてたので、取り敢えず出してみた。
オーガやオークなど、この東の国では出会っていない魔物を出してみた。
東の国で出会った魔物は全部漢字だったが、西の大陸で漢字の魔物に出会った事が無い。たぶんオーガやオークでもそうだし、ゴブリンでもこの東の国にはいないんじゃないかと思う。それでも敢えて出してみた。
因みに悪魔は漢字だったが、多分こっちにはいないだろ。
流石は丁髷、見た瞬間は驚いていたが真面目に査定をしてくれて、西の大陸とは多少金額は違ったが買い取ってくれた。勤勉な民族性ってやっぱりここは日本の系列の国なんだろうね。丁髷って事でそれ以外考えられないけどね。
それならと異世界で獲ったクジラの魔物も出してみた。
クジラは魔物だから動物より大きいので逆に喜ばれて買い取ってくれた。それならばとクジラの魔物の素材も出した。
出した物全部買い取ってくれて小判が883両になった。
小判を見たミルキー達は飛び上がって喜んでいたが、別に付加価値は無く通常の貨幣だった。
小判って【鑑定】も【解析】もしたけど、鑑定結果は貨幣。解析でも複製でも同じものは創れなかった。
試したのは【那由多】の時だったので【那婆羅】になってどうなのかは試してなかったが、【那婆羅】でも無理だったと思う。
小判を1人10枚ずつ配り、宿も予約して自由行動にした。
私はまず、オオカミおじさんの所に行きたかったので、ココアを連れてリクに馬車を出してもらいオオカミおじさんの所に向かった。
山から離れられないと言ってたオオカミおじさんはすぐに見つかった。
うちの連中でノアやエースは山の主だけど、結構自由にしてるんだけどな。東の国ではルールが違うんだろうな。
「長老様、お久しぶりでございます」
「おお、ココアだな。何度か連絡はもらったが、会うのは久し振りだな。なぜ戻ってかなかった」
「久し振りだな、オオカミのおじさん。戻るってどういう事だ?」
「お主も久し振りだな、戻るというのは言葉通りだぞ。しかし私と戦った時より相当強くなったようだな。」
「そうだな、強くはなったな。で、ココアはいつでも戻れたって事か?」
「そうだぞ。戻って来れるだけだがな」
眷属だからな、召喚者の意志一つで戻って来れたんだろ。でもこっちに来てしまうと私の所に戻れないから来なかったのかな。そうだろうな。
「ありがとう、ココア」
ココアをしっかりと見てお礼を言うと、ココアも照れて顔を赤くして下を向いてしまっている。
がっはっはっは「もうその子は我の元には戻って来ないようだな。良い主を見つけたようで何よりだ」
オオカミおじさんは上機嫌だ。
「そうだな、ココアはもう私の所にずっといてくれると思ってるよ。ココアがいてくれた事で凄く助かった事もあるし、心強かった。本当に有り難いよ、感謝している」
ココアが顔を真っ赤にしながらドンドン小さくなって行くようだ。
「それと私が頼んでた部屋と繋がった場所だが、何か変化は無かったか?」
「何もないな」
「そうか」
でも、こっちから行かなくてもコスモの所から行ける事が分かってるから別にいいんだけどな。どうなってるか見てから戻るか。
オオカミおじさんと別れてこの世界に最初に入り込んだ私の部屋があった場所まで行ってみた。
森の中なのに、この周辺だけ木が生えて無い。確かにここだな。
私の部屋があった場所に立ってみた。何も起こらない。
もうこの場所には何も無いんだろうな。【那婆羅】でも何も検知できないようだ。
期待はしてなかったけど、やっぱり残念ではあった。
ここにいても得るものも無いし皆の所へ戻るか。
西の町に戻り皆と合流した。
皆、色々買い込んでいた。ノアなんか扇子を20本も買ってたし、ルーキーズは箸を10善も買ってた。1人でそんなにはいらないよな。
【鑑定】してみたが、普通の箸に普通の扇子だった。でも、ソラやココアが式具として持ってる箸も普通の箸だし、ノアが持ってる扇子も特殊な扇子ではないんだよな。
それでも式具として使ってる箸や扇子からは普通じゃない力は感じるんだ、どういう事なんだろうな。
――手順通りやれば式具になります。
手順通り? どんな手順だったかな。私が買ってソラとココアとノアに渡しただけだぞ。
私が与えるって事か? 試してみるか。
扇子を1本買ってノアに渡してみた。【那婆羅】が言った通り式具になったようだ。
ノアが自分で買った扇子ではできなかったが、今私が与えた扇子だと武器変化が出来ていた。何でもいいのか、東の国産だからできるのかはわからないが、式具になったようだ。
今まで武器を渡しても式具になって無い所を見ると、東の国産だからなのかもしれない。この東の国は西の大陸とは別の世界観があるもんな。
もちろんその後は箸と扇子と櫛を大量に買わされ、1つずつ与える事になった。もちろんココアの分も買わされた。ソラの分も買っておかないと拗ねるだろうな、あいつは帰ってこれるのかな?
あと、武器屋にも寄った。虎刀牙の刀を作ってもらった武器屋だ。
店の番頭も私の事を覚えていてくれて、刀の使い心地など聞かれて満足していると答えたら番頭も更に笑顔になっていた。
今回は『和弓』だ。素材としてジャンの牙を出したかったので、大きな龍の牙が素材だと言うと裏の中庭に案内してくれて、そこで出した。
『和弓』を1張作るだけなら素材が余り過ぎるので、他には無いかと言われこの国独自の武器を作ってくれと頼んだ。余ったら買い取りでいいと言っておく。
番頭は店にあった直刀を見本と見せてくれた。私が知っている日本刀は反りがあるものしか無かったが(そりゃ時代劇ではそれしか出て来ないしね)片刃の直刀は初めて見たので一緒に作ってもらうようにお願いした。
それでも素材は余るので、加工する工賃を差し引いても500両を頂いた。
出来上がりは3日後と言われ、今回も交換札をもらった。
32人は流石に全員が同じ宿とは行かず、3つの宿に別れて泊まる事になった。
久し振りの畳に頬が緩む。やっぱり畳っていいなぁ。
すぐに宿ごと解析。後は城も解析したいなぁ。
来る途中に九州でも見かけたが、戻ると七獣神がいるだろうから更に西に行ってみるか。その前に祠の転送についても解析したいな。
式具については分かったが、小判の解明が出来て無いからな。【那婆羅】が言う手順通りなら、残るのは祠からの転送だけだからな。




