第182話 獣人国バルダン
それから元ゴーレーン国に戻り、町に立て看板を作ったりして触れ回った。
『この国は獣王の治める獣人国バルダンとなった』まずはこれだけ。
城は門を閉ざして一切開けない。残っているメイドと料理係には城の中では自由にしていいが、城からは絶対に出ない事と指示しておく。軟禁状態のようだが、今までぞんざいに扱われてきたようで、自由になったと喜んでいるぐらいだ。
町には少し混乱が起きるだろうが、混乱が起きた方が皆が知る事になるから、その方がいいだろう。獣人が治める国など住めないと思う者にはさっさと出て行ってもらいたいからな。
『今後、獣人が住む国となる。獣人と仲良くしてくれる者は残ってもいいが、獣人を蔑む者はこの町から出て行く事。行き先については相談に乗る』
獣人国バルダンが浸透すれば次にこういう物を出してアピールすれば、まずは形になって行くんじゃないかな。出すのはもう少し先だけどな。
「全員いるな。この国は獣人国バルダンとなった。初代獣王はロロだ。まずは初仕事だ、城を壊せ!」
「「「いいの!!?」」」
全員が驚いてる。
「いいぞ、その代りキッチリと更地にしてくれよ。新しい国になったんだから新しい城の方がいいだろ。私が創ってやる。先に金目の物を取り出したら後は更地にしてくれ」
分担して金目になるものを取るのに1時間。城を壊して更地にするまで10分も掛からなかった。もう城があった所は更地になっている。
若干役に立たない者も入っているが私を除くと44名。一瞬だね。
「じゃあ、今からやる事を言うぞ。まずはこの城の外堀を創ってくれ。それが出来たらロロ、ララ、ピア、ユウトは獣人村に行って、今後の事など相談して来てくれ。村長は良い相談役になってくれるんじゃないか。後の者は各国に回って獣人探しだ。見つけたらドンドンこの国に連れて来るんだ。どうせ空いてる家もあるだろうし、簡易家を提供してもいい。私が城を完成させるまでの仮住まいが出来ればいいからドンドン連れて来い。但し無理やりはダメだぞ、来たい者だけだぞ」
「タロウ様、アイスダンジョンの管理棟はどうしますか」
「いらないだろ、好きにしていいぞ。どうせ誰も入れないんだから」
「かしこまりました」
さあ、城創りだ。この国に無いような城がいいよな。そうなると日本の城か。何度か日本の城は行った事あるけど、創ろうなんて思った事なんてないからわからないな。東の国に行けばあるんだろうけど、そんな暇無いしな。この大陸の城でいいか。
素材はこのまえ異世界で獲ったキングコスモでいいだろう。イメージはバンブレアム帝国の城より小さくてもいいから頑丈で、特徴として獅子の彫像を入り口の両サイドに1対と大きな獅子の顔を城の正面に創ってやろう。
3つの塔というイメージだな、住居棟も大きいのを創るとして中庭は広く創ってやろう。この前の出陣式で兵があれだけ入ると壮観だったもんなぁ。
真ん中の塔は4階、両サイドの塔は3階にして、1階で全部の塔を繋ぐように建物を創った。真ん中の塔は、四角く創り太くして獅子の顔を大きく浮彫の様に立体的に創った。
1週間掛かってようやく城が完成した。
その間、城に居たメイドや料理係りには簡易家を提供し避難してもらってるが、私達の世話をよく焼いてくれている。
この者達が望むなら城に置いてやってもいいかもな。それは獣王ロロが決める事だな。
「よし、城が完成した。ロロ! 城門を開けて宣言だ」
「わかったよ兄ちゃん」
ロロは白のフルアーマーに身を包み兜は被らずメタルの長剣を腰に差し城から城門へと降りて行く。城門にも獅子が描かれている。
ロロが降りていくと城門が開き、その先にはゴーレーン国民と獣人達が居た。
今日、獣王が宣言する事は、城創りが仕上げ段階に入ったので昨日のうちに町のあちこちに立札を立てていた。
一対の向かい合う獅子の彫像の間をロロが通って行く。
門の先で待っている民衆は獣人の期待の目、ゴーレーン国民の不安な目に迎えられる。
飛び交う声も獣人達からは期待と歓声、ゴーレーン国民からも一部歓声は上がっているが、これからどうなるのか不安な声が上がっている。
ロロは門を過ぎた所で立ち止まり、長剣を腰から抜き右手で高々と天に向かって長剣を突き上げる。
場が静まり返る。
「獣王のロロだ! ここに獣人国バルダンを建国した事を宣言する!」
大歓声が巻き起こる。ゴーレーン国民からは悲鳴も上がっていたが、大音量の人の声として一纏まりになった。
少しその大歓声に身を預けた後、ロロは突き上げた剣を獣人が多い左側に剣先を向けた。
「これから獣人達が住みやすい国を創る事に協力してくれ!」
また大歓声が上がる。獣人にとっては夢だった話しが現実になったのだ。ユウトじゃないが、号泣している者が何人もいる。
次にその剣先を右側の人間が多い方に向ける。
「これから創る獣人国は獣人だけで創りたい。だが、獣人と仲良くしてくれる者は人間でも歓迎する。ただし、獣人というだけで見下したり蔑んだりする者はこの地から立ち去れ。どこも行く当てが無い者はバンブレアム帝国が面倒を見てくれる。そこまでは我々で送ってやろう。期限は1週間だ。それ以上残っている者で獣人を見下す者を見つけたら、私が斬る!」
そう言って軽く長剣を振った。思い切り振るとソニックブームが出るからね。
使い分けは出来るはずだけど、思い切り振ると普通の人には見えないからね。
ロロは後ろに振り向いて門を入って行く。ロロが門を入ると門は閉められた。
ロロが入って閉ざされた門の前には立て看板が立てられた。
『1.この国は獣人国バルダンとなった。
2.獣人と仲良くしてくれる者は残ってもいいが、獣人を蔑む者はこの町から出て行く事。
3.行き先については相談に乗る。
4.残った人間で、獣人を見下したり蔑んだりしている事を見つけた者は極刑に処す』
早々と国から出て行ったのは貴族たちのお金持ち、自分たちが今まで獣人に対して奴隷としてしか扱って無かったから、大慌てで出て行った。既に城が無くなった時に出て行った者がほとんどだったが、金山の関係者は残っていたようだ。町民でも金持ちは早々に出て行ったが、中流階級以下の者達が残っていた。上流階級が出て言った事と、中流階級でもまだ残っていた騎士たちと一緒に出て行った者達を引いても、まだこの国には5万人の人間が残っていた。その者達の為に相談所を設け、この国に残りたいのか、出て行きたいのならどの国に行きたいのかを聞き、同じ国に行きたい者が100人集まる毎に転送で連れて行った。その者達には当面の資金としてゴーレーン国の城から集めた金目の物を少しずつ与えた。少しと言っても2~3年は何もせずに暮らせる額だと判断したものを渡した。
獣人達は毎日送られてくる。日に日に人間が減り獣人が増える事で、1か月で獣人が5万人、人間が1000人にまでになった。送られてきた獣人達は、元々人間が住んでいた家に住むもよし、新たに家を建てるもよし。その区画整理や住民の整備にピアとユウトが力を発揮した。
獣人村も継続中で、元獣人村の者がこちらに住むようになる者もいたし、また逆もいた。獣人村の魔物肉の為のダンジョン放牧&狩りを気に入った者が多かったのだ。
仲間も今はこの国に付きっ切りで手伝っている。家を建てるのは下手だが壊すのは上手い、区画整理に邪魔な家の破壊や、力作業の手伝いをすると一瞬で終わるから通常よりも速いスピードで国ができていく。
この調子なら1年後を目途に国のお披露目もできるんじゃないかな。
私は放って置いたエルの機嫌を直すためにアメーリアと共に色んな所へ付き合わされている。
周2回だったのが今は周3回に増えている。
バンブレアム帝国の王の所にも顔を出した。
保管場所を創っていたので、出してやった。ダンジョン核を50個。
今回はお試しで、勇者を1人召喚してもらったが大成功だった。
『森宮有紀』という女子高生が召喚されたが、今まで見た勇者の中で1番強かった。
もちろん召喚された時点でということだが。
LV1でステータス平均が1000近くあった。ユニークスキル【武具換装】も持っていて、今までで1番勇者らしい勇者が召喚されたんじゃないかという感想を持った。
召喚条件としては『オークを1体倒す』にしたから、すぐに達成した。
死んでからの転生での勇者召喚だったようだし、今は残るか帰るか悩んでいる最中だそうだ。
私もふと思い出した『東の国』で念のために採っておいた『菜種』を試しに獣王国の近くに蒔いた所、見る見る育って1か月に1回種を収穫できた。群生地も広域に渡って行き、この国の特産物として既に菜種油が出回り始めている。
この国の前のゴーレーン国が持っていた金山はもちろん獣王国が引き継ぐことをツンザンブレーン連邦にも承諾を得ている。逆らえば国が亡びる事はどの国も分かっている。
ツンザンブレーン連邦にもエンダーク王国にも勇者召喚は禁止と通達してある。
もし勇者召喚をしなければいけなくなった場合は、ツンザンブレーン連邦は獣王国に私が『仙道結界』を張って保管したダンジョン核を使う事。エンダーク王国はバンブレアム帝国からダンジョン核をもらう事でなら勇者召喚をしてもいい事にした。
ダンジョン核がある事がわかると煩いうちの連中にはもちろん内緒である。
獣王国の保管所に張った『仙道結界』の条件は、私かロロしか入れなくしてある。
国の管理と発展のための工事は仲間の協力や他国との交渉事がスムーズに行えたため、思ったより問題も無く進行していたのだが、面倒事はやはりあった。いや、これぐらいで済んで良かったと思わないといけないんだが。
思ったより奴隷となっていた獣人が多かったのだ。お金に関しては問題無い、まだまだある。1人金貨10枚、10000万人でも金貨10万枚。大金貨で1000枚だ。薬屋ギルドで世界樹系の物を売っていつももらってる金額が大金貨4500枚。まだまだお金はある。
ただ、私の金額設定が高かったため、獣人の奴隷を攫う者が続出した。
現在、獣人を奴隷として働かせている者を攫ったりするのだ。
奴隷商はすぐに国に売りに来た。国から『獣人を金貨9枚で買い取る』と大陸中の国がお触れを出したのだ。金貨1枚は国の経費やマージンといった所なのだろう、奴隷証と呼ばれる奴隷の首輪も国が買い取った後に外してくれていた。
通常で獣人の奴隷の売値はどれだけ高くても金貨5枚、それなら国に金貨9枚で売った方が得なのは誰でもわかる。その奴隷商から依頼が出て獣人狩りが横行したり、獣人を奴隷として使っている家を襲い獣人を攫って来るのだ。
ホントどこにでも悪知恵の回る奴はいるものだ。ただ、そういう噂が流れる事で、早く売らなければ危険だという風潮にもなり、獣人を奴隷として持つ家が無くなるのも早かった。
獣王国の人口は1年で10万人を超えた。人間は増やしていない、獣人国だから獣人だけの国にしないとね。




