第177話 執事の誕生日
世界樹の前に転送魔法陣を創りエルフの里の魔法陣とつないだ。
エルフの3長老ミスランディ、フオル、ベレンを連れて世界樹の前に戻って来た。
「長老達、実はこれは妖精樹ではない」
世界樹の前で、おおおって感動してた3長老が「え?」ってなってる。
「それではこの樹は何と言う樹なんでしょうか」
「何でもいいんじゃないか? お前達が安心して暮らせる環境になったと思うぞ。この樹からは何故か『聖なる気』が出ている。それを私の結界で『聖なる気』は出て行かないようにしてある。お前達の村は『聖なる気』で覆われることになるから、そしたら魔物も近寄って来れないんじゃないか?」
世界樹を見たエルフからの報告より大分小さいというのもあるが、こいつら世界樹って見た事が無いんだよな。ただ、憧れが強すぎてトリップしてしまうようだが、気付かなければ普通に話せてるよな。
少し時間が経ってから本当の事を教えてやろうかな。
「それでどうする? エルフの里の結界を解けば、ここにお前達の村が現れるのだろ? もう魔物に怯える事も無いとは言い切れないが、無いと言えるほど少なくなる。あとで紹介するがこの森を守っている仲間の魔物もいるんだ。そいつらもお前達エルフを守ってくれるから、この先安心して暮らせるはずだ」
「タロウ様、何から何までありがとうございます。私達エルフはここでこの樹を守りながら暮らそうと思います。今から結界を解除します」
3長老が三角形になり少し距離を置く。ミスランディの合図でフオルとベレンも集中をしていく。3人共何かブツブツ呟いている。
「「「はーっ!」」」3人同時に気合を発すると結界が解けエルフの里が姿を現した。
結界が解け現れたエルフ達も、現れた時こそ少し驚いていたが、3長老と私の姿を確認すると結界が解けた事を理解し樹がある私達の方に集まって来た。
「これが妖精樹?」「これが世界樹?」「大きいなぁ」「何ていう樹?」などと口々に言いながら集まるエルフ達。
誰もトリップ状態になってない。でもここで世界樹だと言ってしまうとなるかもしれないな。隠しておこう。
「タロウ様? 何という樹なのか教えて頂けませんか? 今後はこの樹のお世話もしないといけないと思うのです。なぜかそう思えるのですが、名前が無いと不便ですので教えて頂きたいのです」
ミスランディが代表して聞いて来た。他のエルフ達も注目している。
やはり妖精だな、世界樹の面倒を見てくれるんだな。その為にも呼び名が必要なんだな。
「よし、この樹は『エルフの樹』という名前にしよう。それなら問題無いだろ?」
「この樹が『エルフの樹』。『エルフの樹』ですか。素晴らしいです、タロウ様ありがとうございます」
ミスランディが『エルフの樹』を背にしてエルフ達に高らかに宣言した。
「皆よく聞け! この樹は『エルフの樹』と命名された。今後はこのエルフの里のご神木として皆でお世話致します。この『エルフの樹』を我らに授けてくださったタロウ様に多大なる感謝を! そして永遠の忠誠を!」
『おおおおー!』6000人のエルフの返事である。バンブレアム帝国にまで届くのでは無いかと思われるぐらいの大音量であった。
その後も「タロウ様ー!」「ありがとうございます!」「エルフの樹最高!」「タロウ様!」・・・・
エルフ達の喜びの声はいつまでも続いていた。
別に忠誠はいらないけどな。仲良くしてくれるんなら何でもいいけど。
しばらく待ってようやくエルフ達が落ち着いたようなので、3長老を連れてアーリーの所に行きデイとナイトも呼んでお互いの紹介をした。
同じ森に住む事になるんだから獣人の村にも立ち寄り紹介しておいた。
獣人の村の者もエルフの里の者も、あまり自分達の村からは出ないと思うが何かあった時には協力するようにお互いに言っておいた。
3長老をエルフの里まで送り、浮遊城に転移した。
アメーリアとエルは世界樹の前で待っていた。
「エルフ達は凄く喜んでた、今後は結界を解いてコールの森にいるそうだ」
「それは良かったです。あの空間は自然界の恵みが非常に届きにくい空間でした。エルフ達にとっても良くない環境だったので良かったです。」
「そうだったんだ、そこまではわからなかったよ。それでこの後はどうする? 別に予定は組んでないけど」
「ダンジ・・・・」
「アメーリアは何処か行きたい所は無いか?」
エルがダンジョンと言いかけたのを遮ってアメーリアに尋ねた。
「タロウ様と一緒なら何処でも。あ、今日はじいの誕生日でした。どこかプレゼントが買える所へ連れて行ってください」
「今日が執事さんの誕生日なのか。じゃあ、私からも何か送ってやらないとな。エルもいつもお世話になってるんだから何か選んであげろよ」
「はい、何がいいでしょうか」
「それは私もわからないよ。もし買いたい物があるんならお金は出してやるから」
「ありがとうございます。お母様は何にするか決めてるんですか?」
「それがね、決めて無いの。お買い物ってした事が無いからわからないの。いつもはメイドにお願いして宝石商やテイラーに来てもらって頼んでるから。でも今年は自分で買いたいと思ってたの」
サラーっと言われたけど、王族ならそういうもんか。
「どういう物を喜ぶかわからないか?」
「いつも何をプレゼントしても喜んでくれるので」
「じゃあ作ろうか。私が創るからお前達で素材を獲りに行くか」
「お父様! それ賛成です!」
「タロウ様、私も賛成です。それで何を創るのですか?」
「クリスタル系やゴールド系の魔物を素材としてワイングラスやジョッキなんかどうだろうか。模擬刀でもいいかとも思ったんだが、最近美味しいワインなんかもあるし、その方が良くないか?」
「わぁ、いいですね。早速行きましょう!」
「素材はあるんだけどな、自分達でも参加したものの方がいいだろ。ココアにも手伝ってもらって、さっさと素材を獲りに行くか」
ロンレーンの近くのメタルの洞窟に行き、魔物狩りをした。
何度か行って転送ポイントも創ってあったので、すぐに行けた。
洞窟ではエルの【聖王気】拡散バージョンが炸裂! 魔物が全部消滅してしまった。
「こらエル! 素材が無くなってしまったぞ」
「ごめんなさーい、ちょっとやりすぎちゃったな」
「タロウ様、前にソラさんが見つけた場所はこの奥にあるんです。あの奥に別の部屋になっている所があってそこがメタルの密集して生息している所なんです」
「そうだったのか、私が前に来た時はそこまで行かなかったな。ここでも十分いたから」
ココアに言われて行ってみると、さっきより沢山のメタル系がいた。
今度は私とココアが中心に武器で魔物を倒していく。レインボー系、ゴールド系、クリスタル系を10体ずつ獲った所で狩を終了した。メタルはもっと獲ってしまったが、割合として多くいるから仕方が無い。狩りを終了したらアジトの屋敷に戻った。
私がグラスやジョッキを創っている間にアメーリアとエルは、ココアを手伝ってケーキ作り。イチジロウにも手伝ってもらってる。
私はクリスタル系で創った脚の長いワイングラス、レインボー系で創った寸胴な形のウイスキーグラス、ゴールド系で創ったビールジョッキを創り、それぞれにドライアド素材で木箱を創り、フワフワの魔物の毛皮を敷き詰めそれぞれの種類のグラスを入れた。3つの木箱にそれぞれのグラスが入っている。
プレゼントの完成だ。ついでにクリスタルソードも創っておいてやろう。
プレゼントが出来上がってケーキ作りの様子を見に行くとケーキ作りも完成間近だった。
入れ物が無いな、紙の入れ物って無いもんな。皿に乗せたまま収納すれば問題無いんだけけど、プレゼントとなると入れ物に入れたいな。
クリスタル系を素材としてガラス皿風を創り、同じ素材で円柱型で皿が丁度覆える程の蓋を創った。
蓋はボーダー柄の様に等間隔で摺りガラスの様な仕様にして中を見えにくくした。
皿にホールケーキを乗せてもらい、蓋をすると中々に可愛らしい仕上がりになった。
ケーキはエルにグラス3箱はアメーリアに収納してもらった。
「タロウ様」
ココアが声を掛けて来た。
「ああ、わかってる」
分身の周辺で異変が起こりそうな気配を【那由多】が教えてくれた。ほぼ同時にココアが声を掛けて来た。アメーリア達には、ここは素知らぬふりをしておこう。
「アメーリアとエルの分身の指輪は、もうはずしていいぞ。そんなもの付けてたら執事さんにプレゼントをする時に集中できないだろ」
「そうですね」
そう言って2人は分身の指輪をはずした。これで牢の中の分身も消えたはずだ。
「アメーリアとエルを送って来るから、何人か集めておいてくれ」
小声でココアにそう伝えてアメーリアの宮殿に転移した。
宮殿の庭に着き玄関から入るといつも通り執事が迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、お嬢様、エル様。タロウ様もようこそいらっしゃいました」
「こんばんわ執事さん。今日が誕生日なんだってね、おめでとう」
「よくご存じでございますね、ありがとうございます」
「これは私からのプレゼントだ、いつもお世話になってるからね。」
クリスタルソードを出して執事に手渡した。
「これは美しい剣でございますね、本当に頂いても宜しいのですか?」
「ああ、見た目は綺麗だが攻撃力は低いから飾りとして使うことをお勧めするよ」
「ありがとうございます。大切に飾らせて頂きます」
「私達からもあるんです。でも食事の後でですよね、お母様」
「そうね、タロウ様はお忙しいようですから後は私達でじいのお祝いをしましょうね。タロウ様もあまり無理をなさらずに」
「気付いてたのかアメーリア」
「はい、気を付けてくださいね」
「ああ、ありがとう」
宮殿を後にしてアジトの屋敷に戻った。




