第176話 取り調べ
サジとムツミにはギルマスから情報がもらえたらアジトの屋敷に戻ってから聞くと『念話』で連絡を取り、その後は自由にしていいと伝えておいた。
私達は全員同じ牢に入れられたが取り調べは1人ずつ行なわれた。
まずは私から連れ出され取り調べを受けている。
「貴様がウルフォックスのリーダーのタロウで間違いないな」
6畳ぐらいの取調室で手枷をされているが、これぐらいの手枷なら簡単に壊せそうだ。
今聞いて来たのはこの中で1番偉いと思われる奴だが、他には今までの捜査記録を隣で伝える補助役と書記官、入り口には騎士が2名武器を持って見張りとして立っている。
「ああ。それは間違いないが何故私達は捕えられたんだ?」
「貴様らの罪状は窃盗だ。ダンジョン核を盗んだであろう、既に調べは付いておる。あと、砂糖鉱石の窃盗疑惑もあるが、これはザンガード国の問題だな。ダンジョン核を素直に出せば強制労働で済むように取り計らってやろう、出さなければ極刑は免れんぞ」
ダンジョン核? あー、確かに盗ったなぁ、今のアイスダンジョンの元の核。でも、もう返してるっていうか、凄く強力になってるんだけどな。話しがややこしくなるから惚けておこうか。
「あと、魔物に倒されたと思われる勇者様達の事も何か知っている事があるのではないか? この場で知ってる事を話せば少しは刑も軽くなるかもしれんぞ」
「ダンジョン核って何の事だ? 全く身に覚えが無いが、どこのダンジョンのダンジョン核の事を言ってるんだ?」
「惚けるな! 北の洞窟ダンジョンだ! アイスゴーレムが守っていたはずだ! 勇者様達の様子を確認に行った調査隊からの報告で分かっておるのだ。アイスゴーレムが居なくなっていたのでダンジョン内も確認した所、ダンジョン核が無くなっている事が判明した。あのダンジョンはこのゴーレーン国の領内にあるダンジョンだ。我が国のダンジョン核を盗んだ罪は重いぞ」
「アイスゴーレムは知らないが、最近そのダンジョンに行った事はあるな。凄く強い魔物しか出て来ないから、すぐに諦めて戻って来たよ」
『盗ったけど返した』なんて言ったら絡んで来そうだから、知らん振りをした方が良さそうだな。アイスゴーレムがずっと見張ってたぐらいだからダンジョンの内部が元々どうだったかなんて知らないだろ? 変わっててもそれを証明できる奴なんていないだろうしな。
「何! ダンジョンがあっただと!」
「ああ、あったぞ。Aクラスの魔物だらけのモンスターハウスだったから必死で逃げて来たよ」
「本当に間違いないか」
「ああ」
「むぅ、そんな報告は入っておらんはずだ。すぐに調査させる。ダンジョン核の件については一旦保留とする。次は勇者様の件だ。勇者様達がウルフォックスを追って北の洞窟ダンジョンに向かって行かれた事まではわかっておる。貴様ら何か知っておるのではないか?」
「いや、何も知らないぞ。だいたい勇者とは会ったことも無い。そのアイスゴーレムも勇者が倒したんじゃないのか?」
「勇者様にそんな危険な事をさせる訳が無い。貴様らがやったんだろ! 勇者様の事で知ってる事を白状しろ!」
だから何のための勇者なんだ。
「知らんもんは知らんよ。そのアイスゴーレムも魔物にでもやられたんじゃないのか?」
「そ、それは、確かに調査隊の報告にも書かれていたな。魔物の大量発生の痕跡が見つかったとあった。勇者様達は結局見つからなかったが、大量発生した魔物に敗れたのだということで報告されている。」
そういう事になってたんだ。自分達に都合の良い解釈をしてくれて助かるよ。デルタの思惑通りだったな。
「こっちからも1つ聞きたいんだが」
「罪人からの質問は許されん」
「まだ罪人って決まって無いんだろ? 今回勇者が再召喚されたって聞いたが誰がやってるんだ?」
「そんな国家機密は私も知らん、知ってたとしても罪人には教えられん」
「そうか、だったら自分で調べるよ。こんな事をするために来た訳じゃないんだけどなぁ」
取り調べも終わりココア達の待つ牢に戻された。
私達は分身の指輪で分身を創り、分身を牢に置き浮遊城に転移して戻った。もちろん牢にも転送ポイントは創っておく。
3人の分身には黙秘して何も話さなくてもいいからと指示を出した。
アメーリアとエルはその当時の事は知らないし、ココアも切れたら面倒だから分身を置いて黙秘がいいだろう。
分身も1体だけだと細かい指示も出せるし話すこともできるからバレる事は無いだろう。
その日のうちにアイスダンジョンを調査に行った者からの報告で私の証言通り、強力なダンジョンがあったと報告された。
すぐに入り口には管理棟の建築に入った、完成するまでの仮の管理所が設けられた。
誰も入れないだろうけどね。人間には1階層目でも制覇出来る者はいないだろう。
今後は2階層目に転送ポイントを創って、そこから始めればいいさ。
偶に魔物を外に溢れさせて管理棟を壊させるのもいいな、少しは嫌がらせをしてやりたいしな。Aクラスの魔物を1体ぐらいなら何とかするだろ?
調査報告でダンジョンについての疑いは晴れたようだが、まだ聞きたい事があるので釈放はできないと言われた。分身だからいいんだけど、あまり気分のいいものでは無いね。
アメーリアとエルは今日はもう送って行き、ココアとエルフの里に向かった。
アメーリアもエルも牢は初体験だったと喜んでいた。
いや、体験しない方がいいんだけどね。バンブレアム帝国の第3位の王位継承権を持つものを牢に入れたとわかったら戦争になるかもしれないから黙ってるように念を押しておいた。
「お帰りなさいませ、タロウ様。」
エルフの里に転移して来ると3長老が迎えてくれた。
「ああ、遅くなってしまったな。すまんが妖精樹の見学は中止だ」
エルフの3長老が膝からガックリと崩れ落ちる。
そこまで楽しみにしてたのか?
「すまんな、妖精樹に魔物が寄生してたようなんだ。それで人間の軍隊なんかもいてね、見学どころではないんだ」
「そういうことでしたか・・・」
まだ俯いていてショックから立ち直れていないようだ。
「それでお前達の方はどうなったんだ? 結界を解くのか?」
「意見が分かれております。若い者達は結界を解くか移住を希望しています。世界樹を見学に行った者が元に戻りまして、その感動を皆に伝えた所、妖精樹でも構わないから創れる所に移りたいと希望しております。年配の者達はこのまま安全な方がいいと意見が分かれております」
「それでミスランディ達3長老はどうなんだ?」
「非常に迷っております。本当に安全ならば行ってもいいかと思い始めてはおります。見学に行った者の報告と、それを報告している途中に時折思い出しては恍惚な表情で放心状態になる者達を見ると羨ましくなりまして。他の2人も同じ意見です」
「本当に安全ならか。どうやったら証明できるんだろうなぁ。」
「我ら3長老を一度その場所に連れて行ってくださいませ。その上で判断したいと思います」
「よしわかった。明日準備したら迎えに来る。」
「準備がいるのですね、わかりました。それでは明日のお迎えをお待ちしております。それと・・・」
「なんだ?」
「そのぉ、世界樹の枝は・・・」
「そうだったな、今日で必要なくなると思うが出しといてやろう」
世界樹の枝を出してやった。
屋敷に戻る前に米の木のアーリーの所へ行って、デイとナイトも呼び、明日の事を伝えておく。デイの背中に乗り森を飛んでもらい場所も目星を付けておいた。
次の日はアメーリアとエルを連れて、先にコールの森にやって来た。
エルフの里がある場所は、広いコールの森でもバンブレアム帝国から見ると奥の方になる。
バンブレアム帝国から行くと米の木、獣人の村、脇にそれるとコーネライ湖、獣人の村より更に大分奥に行った所にエルフの里がある。
昨日、デイの背中から目星を付けた場所には転送ポイントを創ってある。
ココアも含めた昨日の4人でやって来てエルに提案した。
「昨日、妖精樹を見れなかったから妖精樹は諦めるとして、エルは世界樹をどのぐらいまで育てたら『聖なる気』を出すと思う?」
「そうですねぇ、最低でも50メートルはいりますね。でも50メートルぐらいの世界樹が出す『聖なる気』は少ないですよ」
「そこでだ、これを創った」
と、種を出して見せた。
「なんですか? この種は。世界樹の種には違いありませんが、何か違います」
「これは今までエルが食べた世界樹の金色の実の種だ。その種を合成して『世界樹の種+10』を創った。これなら元々種に強い力がある訳だから、お前の負担も軽くなるんじゃないかと思ってね」
「凄いですお父様! 確かにこれなら背の低いうちから『聖なる気』を出すと思います。ただ、問題が1つあります」
「なんだ?」
「これだけ強い力を持った世界樹の種なら将来的に大きくなりすぎませんか? 城ダンジョンの世界樹より大きくなると思いますよ」
「そうか、なんとかならないか?」
「なりません」
「でも何千年も先の話しだろ? だったらいいんじゃないか?」
「お父様、無責任です」
いいじゃないか、何千年も生きてる訳無いし、その時になったら常識になってるんじゃないのか?
そうだ【仙術結界】で世界樹を通れなく設定すればいいんじゃないか?
「【仙術結界】で世界樹を通れなくすれば上への成長を押さえられるんじゃないのか?」
「それはそうですけど世界樹が可哀相です」
「その分横に大きくならないか?」
「どうでしょう、そうなるかもしれませんね」
「じゃあ、それでいいじゃないか」
「んー、仕方ありませんね。納得は行きませんが、エルフの為ですよね。わかりました」
渋々ではあるがエルの了解も貰ったので世界樹の種+10を蒔き、【マジックフリー】を発動、タイムマジックで世界樹を発芽させ芽が出た所で止めた。後はエルに代わり世界樹を成長させる。この世界樹は5メートルから『聖なる気』を出し始めた。高さ50メートルになった所でエルに声を掛けた。
「エル、そろそろいいんじゃないか?」
「そうですね、もう十分『聖なる気』を出してますしいいですね。この種って成長させるのが楽なので、ここまで大きくしても全然疲れませんでした」
「思った通りだったな。それじゃ後は結界だな。高さ150メートルに設定して創るぞ」
「もう少し高くできませんか? あまりにも低すぎて世界樹が可哀相です」
「わかった500メートルにするか、それ以上はそこまで成長した後に決めればいいんじゃないか? まだ50メートルなんだし」
「わかりました。そうしましょう」
そこまで私が生きてるかどうかは知らないけどね。
高さ500メートルで設定としては『世界樹と魔素が入らない、聖なる気が出ない』という制限を設けて【仙道結界】を張った。広さは結界を解除したら現れるはずのエルフの里がすっぽり収まる大きさで創った。
この『聖なる気』があれば魔物も入って来れなくなるしな。ガジュマルみたいな変な奴もいるけど普通は『聖なる気』でダメージを受けるはずだからな。
さあ、準備完了だ。まずは3長老を迎えに行くか。あ、その前にアメーリアとエルには浮遊城で待っててもらおうか。




