第165話 クリエイター
第2案は賭けなので、まずは第1案で行く。
ちょっと煩いから別の話題でもして短剣から気を逸らそう。
「お前ってちょっと強くなったよな。」
「当り前だ! ボクは勇者なんだ。強いに決まってる。ちょっと怖がりなだけだ。」
「ちょっと怖がりなんだな。それだけ強い勇者が牢の見張り程度に負けたらダメじゃないか。」
「むむ、牢の見張りは女兵士だったのだ。女は守らないとダメだからな。」
タロウは知らないが、ここでも母親を守れなかったことが想いの中に出ている。母親を守れなかったことは忘れているがどこかの女性を守れなかった事は思い出している。その悔しさは女性は守らないといけないという想いに変わっていた。
「へぇ、いい奴なんだな。でも野盗をすることは悪い事なんだぞ。」
「ボクは野盗なんかじゃない、ポンチョール達を守ってやってるだけだ。今回も捕まったダージルを助けに来ただけだ。ボクの従者だからな。」
やってないって・・・従者が野盗だから野盗団の首領ってなってんのか。トオルはやって無いってのも嘘じゃないかもな。
「でもお前のその従者が野盗なんだぞ? そんな悪い奴をお前が守るとお前も悪い奴に認定されるんだ。」
「あいつらは良い奴だ、悪い奴じゃない。」
うまく利用されてるんだな。どうやったら納得させられるんだ? もう面倒だから第2案にする? いやいや、もうちょっと頑張ってみよう。でも思い込みの激しい奴だからなぁ難しいかもな。
私は短剣を出した。ピッカー! 短剣が光る。
「おー! それだ。それを私に寄こすんだ。」
「もう少し黙って無いと本当に斬るぞ。」
ココアがトオルに薙刀を突き付けた。
「・・・・。」たら~
「まずその拘束を解いてやる。そして短剣を貸してやる。短剣を持ったら短剣に耳を傾けるんだ。光らなくてもいい、何か聞こえないか耳を傾けて集中するんだ。わかったか?」
トオルはうんうん頷いた。
トオルの拘束を解いて短剣を渡す。
「逃げれば斬る。」
ココアが薙刀をトオルの首の横に押し当てる。
トオルはうんうんうんうん小刻みに高速で頷く。
「声が聞こえないか短剣に集中してみろ。」
トオルは短剣に集中している、短剣を耳に当てたりもしている。
トオルが首を横に振った。ダメだったか、第2案はあまり試したくないんだがな。
トオルから短剣を返してもらって、短剣が私の手に移るとまた短剣が光った。ピッカー!
光が少し落ち付いて来ると光が女性の顔に変化していく。
あれ? いつもと違う、なんだこれは。
周りを見ると誰も動いていない。時間が止まっているようだ。
「ようやく会えましたね、タロウあなたは面白い考えの人みたいですね。」
光から変化した女性の顔が話し掛けて来る。
「お前は誰だ?」
「管理人は言ってませんでしたか? 今はコスモと名乗っているようですが。」
「異世界の管理人コスモの事か? いや何も聞いて無いぞ。というかこの状況はなんなんだ?」
「私はクリエイター、理の元となる者。それ以上は言えません。」
「クリエイターって創世者か?」
「それはジーザス、私はクリエイター。ジーザスが作った元に理を創った者。」
それ以上言ったね? 言ったよね。突っ込むと怒られそうなんで辞めますが。
「この空間をジーザスが創って、あなたが世界を創った。それで合ってるか?」
「大正解です。流石はタロウです、流石はこの世界の異物です。」
褒められた? 貶された?
「異物って?」
「タロウは私の創った者でも、呼んだ者でもありません。異物です。」
やっぱり貶されてるよね、世界を創るほどの者だから上から目線でもいいのか?
「異物って・・・。じゃあ、私はこの世界から戻してもらえるのか?」
「そんな事をする訳がありません。」
いや、してくれよ。異物なんだろ?
「じゃあ、どうするんだ?」
「貴方はこのまま、今のまま続けてください。面白いから。」
ちょいちょい何か入って無いか?
「コスモにも言ったが、私の為に良い事があるんなら貴方が面白いと思う事もやってやろう。何が面白いのかはわからないんだが、今のままでいいと言うなら今のまま続けるしかないんだがな。それで今日は何で現れた。私に用があったのか?」
「もちろんです。無ければ態々出てきません。タロウは勝手に私の創った世界に入って来た異物です。だからタロウには敵がいません。それは私としても面白く無いんですね。それで敵を創ろうとしたのですが、このトオルも失敗でした。そのトオルさえ助けようとするタロウは見ていて面白い。私では思いつかない事をするタロウは見ていて面白いんです。」
トオルが敵? 役不足過ぎないか? トオルがどうやったら私を倒せるんだ?
「勇者トオルが敵? 勇者トオルに私を倒せるとは思えないが。」
「いえいえ、かなり精神的ダメージは与えてくれたと私は満足しています。だからトオルへのご褒美も兼ねて出て来たのです。もちろん出て来た1番の理由はタロウと話すのが目的ですよ。」
大してダメージは受けて無いが、トオルへご褒美をくれるって言うなら黙ってよう。
「ご褒美って何をあげるんだ?」
「タロウが考えた事を手伝ってあげましょう。面白いから。」
「私が考えた事? わかるのか?」
「ええ、コスモに聞いています。私にはできませんがコスモには時間の概念も場所の概念も関係なく好きな場所の好きな時間帯を見ることできるようにジーザスが創りました。ただ、私の創った世界への干渉はできません。例外として世界の卵の管理と回収は任せています。世界の卵にはジーザスも関わっていますので。」
「話しが理解できないが、私が何をやりたいのかわかってるんだな?」
「ええ、勇者トオルを再召喚するんですよね? 私の考えが及ばない面白い発想です。私の創った世界の法則を無視せず、さらに上を行く発想。勇者トオルの再召喚とは私には思いつきませんでした。ですが正解です、勇者トオルの達成条件を変更させて再召喚する。そうすることで勇者トオルは自分の世界に帰れる。大正解です。」
やはり私の第2案は正解だったんだ。しかし何か引っ掛かる。
「私の考えが正解だという事を伝えるために出て来たのか?」
「それもありますが、勇者トオルをタロウは斬りたくないでしょ? 私の力で勇者トオルを斬った事にしてあげます。再召喚も手伝いましょう。タロウは条件を付けるだけ。これがトオルへのご褒美です。」
確かに勇者トオルを斬るのは嫌だったんだよ。それは有り難いが、何か裏がありそうなんだよな。よーく考えろ、絶対に何かあるぞ。
「勇者トオルの召喚条件は『ゴブリンを倒す』でいいですよね?」
ん? 今の言葉に違和感を感じたぞ? なんだ、何がおかしいんだ?
「ちょっと待ってくれ、条件を変更したい。」
「そ、そ、そんな事は無理です。もう決まってます。変更はできません。させる訳がありません。」
怪しすぎるだろ。でも簡単だろ? ゴブリンぐらい今の勇者トオルなら倒せるはずだが。
「ま、ダメだった時はまた再々召喚すればいいか。『ゴブリンを倒す』でいいよ。」
「再々召喚なんてさせる訳がありません。私が邪魔をします。今回出て来たのはそれを伝えるためです。」
なんだ、この我が侭クリエイターは。私の1番の敵はお前じゃないのか?
「いいや、条件変更する。」
「ダメです。変更できません。こんな面白い条件を変更させる訳がありません。もうやっちゃいました。後は任せたわよー、じゃあねー。」
出て来た時と帰って行く時のキャラが全然違うんだが。最後の方が本当のキャラなんだろうな。
でもなんで『ゴブリンを倒す』という条件にそこまで拘ったんだ?
クリエイターの光の顔が消え、時間が動き出す。
さっきのままだ。ココアが勇者トオルに薙刀を突き付けているが斬られてはいない。
あ、レベルが上がった。勇者を倒すと経験値が高いのはケンジを倒した時と同じか。
ということは、勇者トオルは倒されて再召喚された事になったんだな?
――中央の元勇者トオルを倒したことにより、ユニークスキル【通過】を獲得しました。
魔法: 火(2)・水(2)・土(5)・風(2)・氷・雷・闇・光
技能: 剣(3)・槍(1)・弓(1)・回避(2)・遮断(4)
スキル:【収納BOX】7【鑑定】1【超再生】7【隠形】3
も加算されます。
スキルの熟練度は、自分の熟練度に振り分けることができます。どれに振り分けますか?
ケンジを倒した時と同じだな。流石はクリエイターって事か、もう再召喚されたことになったんだな。
【鑑定】
名前: トオル(綾小路通)
年齢: 14
種族: 人族
加護: 佐藤太郎の加護
状態: 普通
性別: 男
レベル:25
HP:320/320 MP:312/312
攻撃力:322 防御力:341 素早さ:500
魔法: 火(2)・水(2)・土(5)・風(2)・氷・雷・闇・光
技能: 剣(3)・槍(1)・弓(1)・回避(2)・遮断(4)
スキル:【収納BOX】7【鑑定】1【超再生】7【隠形】3
ユニークスキル:【通過】
称号: 中央の元勇者
従者:
あ! 私の加護が付いている。マジか、私が召喚するだけじゃなく名付けも私がした事になってるんだな。クリエイターが凄い力を持ってることはわかったよ。
しかし勇者トオルは弱いな。一度死んだ事になったから従者は消えるのは分かるとして、称号の『野盗団の首領』が消えてるのはサービスかな。
こんな従者はいらないし、さっさと目的を達成してもらって自分の元の世界に帰ってもらうか。




