第164話 勇者トオル5
次の日の朝、皆に1つ提案をした。
「皆、1つお願いがある。勇者トオルの情報を集めて欲しい。」
「勇者トオルって誰ー? 強いの?」
「え? 強い?」「だれだれ?」「あたいが成敗してやるのじゃー」「ん」「絶対!」「誰ー?」「トールー?」「トオル」「勇者?」・・・・・
反応の仕方がおかしいが、興味を持ってくれるのはいいかな。
「お前達は知らないか。どうやったらわかるかな。」
「タロウ様、水晶に映し出せば皆にも分かり易いと思います。」
ミルキーが提案してくれる。
「そんな事ができるのか? 私はやった事が無いが。」
「念話の要領で頭に顔を思い浮かべて水晶に投影するのです。」
「へぇ、一度やってみるか。」
通信水晶の水晶だけを出し、両手に持つ。勇者トオルの顔を思い浮かべ、水晶に集中する。
勇者トオルの顔が映し出された。
お、できたみたいだ。
「こいつが勇者トオルだ。こいつがどこにいるか情報を集めて欲しい。」
「ん。」
「はい、確かにそうですね。」
「ん? サジ、何か知ってるのか?」
「はい、イツミさんが今言ったんですが、その人間とは何度か会ってます。」
「イツミは、って『ん』しか聞こえなかったが。」
「タロウ様、ボクも会った事あります。」
「キュータもか。どこで会ったんだ?」
「ボクの担当のサハラン公国の北の町で何度か会ったよ。」
「サジはどこで会った?」
「ん。」
「はい、そうでしたね。」
「・・・・わからんが。」
「わかりませんでしたか? ツンザンブレーン連邦の南西部にあるアライドン国で何度か会いました。」
そんなに長いのか? わからんよ。
「でも、お前達よく覚えてたな。普段なら人の事なんてあんまり興味ないのに。」
「いつも、わっはっはっはーって言ってるから目立つんだ。」
「ん。」
「はい、そうですね。」
「サジ、今のは?」
「返事ですが。」
「あ、そう・・・・。」
なんだその面倒くさいシステムは。
サハラン公国の北、ツンザンブレーン連邦の南西あたりが何かありそうだな。
近くにアーバンライド共和国もあるし、勇者トオル以外にも誰かいるんじゃないのかな? ただ、今回のうちの勇者達もそうだけど、勇者トオルにも元の世界に帰る方法があるんじゃないのかな。ハルやモイチも死んでこの世界に来たけど帰れるっていう事だし勇者トオルにも何かあるだろ。召喚されたのはバンブレアム帝国だよな、城かぁ嫌だけど聞きに行くか。
誰を連れて行くかな、イツミは面倒くさいからパスだな。キュータとパーチがいれば馬役は確保できるな。後はいつも通りココアかな。
「じゃあ、キュータとパーチ、手伝ってくれるか。」
「「わかりました。」」
「主様、私もお供します。」
「ああココア、頼むよ。」
「タロウ様、あたいも行くのだ。」
んー、チビか。遠慮したいなぁ、勇者トオルとチビってキャラ被りで面倒な2人だろ? 話しが出来ない可能性って無いか? わっはっはっはーで終わる的な? でも、折角手伝ってくれるって言ってるからな連れて行くか。
「わかった、チビも頼むよ。」
「ん。」
「はい、そうですね、我輩達も行きましょう。」
「じゃあ、私もセットだし行くよ。」
イツミ、サジ、ムツミも付いて来るのか。
「えー、チビが行くんなら僕も行こうかなぁ。」
「だよねー、私も行こうっかな。」
そんなにいらないんだが。まずは様子見なんで、どんな感じか見たいだけなんだけどな。
結局勇者たちも来ることになり、ココア、ソラ、リク、チビ、キュータ、パーチ、イツミ、サジ、ムツミ、ハル、モイチ、ケン。私も入れて13人になった。
私はココア、ソラ、リク、チビの5人でサハラン公国から北上してツンザンブレーン連邦を目指すことにして、勇者3人とキュータとパーチでアーバンライド共和国からサハラン公国を目指してもらう。イツミ、サジ、ムツミの3人にはツンザンブレーン連邦のアライドン国からアーバンライド共和国を目指してもらう。そうすると三角形が出来るから、もし見つからなくても後はその内側を調べて行けば捜索範囲は絞れてくるんじゃないかな。その辺りにいればの話しだけどね。
見つけたら念話で連絡を取り合うと決めてそれぞれ別れて行った。
サハラン公国の北の町ギンタムには転送ポイントがないので、一度サハラン公国の城下町に行ってから北上する予定だ。
私達のグループは先にバンブレアム帝国の城に寄ってから行くからと、2グループは先に予定通り行かせた。
バンブレアム帝国の門の外に転移して来てその足で城に向かった。
王との面会を求めると、今日もすぐに城の中に通された。待合室で30分待たされて王に面会できた。
前回と同じ執務室に通された。王も忙しいんだな。
「忙しい中、面会に応じてくれてありがとう。」
「いや、問題無い。今日は何の用だ? 心変わりしたか?」
「するわけないだろ。今日は勇者トオルの件だ。」
「ほぉ、情報が早いな。もう知っておるのか。」
「ん? 何の事だ? 今日は勇者トオルの帰し方を聞こうと思って来ただけだぞ。情報ってなんだ?」
「そうだったか、ではいらぬ事を口走ってしまったようだな。仕方が無い教えてやろう。実は勇者トオルは今この城におる。」
「え? いつからだ?」
「昨日の夜だ。捕えた野盗達を牢に入れたらすぐに現れた。なぜか牢に現れたようだが、牢の見張りが気付き捕えたようなのだ。今は召喚の間で縛られておる。」
牢の見張りに捕まった? 確かに弱かったけど、牢の見張りよりは強かったと思うぞ。どうせまたドジな事をしたんだろ。
「へぇ、そうだったんだ。それなら後で会いたいが、こっちの問題が解決してからだな。」
「何だ?」
「勇者トオルは元の世界に帰る事はできないのか? 南の勇者は魔王を倒せば帰れるようだったぞ。」
「それが分からぬのだ。だからこの国で召喚した勇者は短剣を光らせられぬと分かるとそのまま城で保護をしておる。魔王を倒す事が目的で召喚するわけでは無いからの。」
「では、もし短剣を光らせる事が出来たらどうなるんだ?」
「まずは帝王になって短剣の声を聴く。ということしか分からん。それが本当なのかも分からん。誰も聞いたことが無いのだから。」
「短剣の声。私も聞いた事は無いな。私は転生者じゃないからかもしれないな。」
「其方、転生者では無かったのか。転生者だとばかり思っておったわ。」
「私は東の国に誤って入って来た者だ。死んで転生した訳じゃ無い。」
「そうであったか、しかし短剣に選ばれし者ということは事実だ。他に短剣を光らせる者もおらんのでな。」
そこ間違ってないか? 光らせるって短剣に付加効果で『光』って付いてるだけだよな。
私以外が光らせられないってのが信じられないが、『光』に掲示や伝言などの言葉的なことは無いだろ。もし言葉が聞ければ短剣が光らなくてもそいつが適合者なんじゃないのか? 勇者トオルは聞いて無いのかな。
「王様、試したい事があるから、やっぱり勇者トオルに会わせてもらえないか?」
「よかろう。では儂が案内してやろう。」
王の案内で召喚の間に来た。勇者トオルが椅子に座らされ手足を縛られている。
あれ? 【通過】が復活してる。私が盗ったはずなのに。それに苗字が付いてる。
【鑑定】
名前: 綾小路通 14歳 人族 (勇者) LV25
HP320 MP312 攻撃力322 防御力341 素早さ500
スキル:【収納BOX】【鑑定】【超再生】【隠形】
ユニークスキル:【通過】
称号: 中央の元勇者 野盗団の首領
従者: ポンチョール ダージル パラス ラケル
野盗団の首領って。本当にやってたんだな。従者も増えてるし。まだまだ弱いけど牢の見張りに後れを取る事は無いぐらいの強さはあるよな。なんで捕まったんだ?
「あー! お前ー! 短剣をよこせ!」
「まだ言ってるのか? あげる訳にはいかないが、ちょっと試したい事がある。その前に質問に答えてくれるか。」
「ボクには短剣が必要なんだ、守らなければいけないんだ。だから短剣をよこせ!」
「わかったわかった、ここには私の仲間がいるからお前が逃げることはできない。逃げれば斬る。わかったか?」
一緒に来ているココア、ソラ、リク、チビに四方を固めさせる。武器も出させておく。
ココアは薙刀、ソラは式具、リクは刀、チビは大剣。使わせるつもりは無いが使ってもいいと指示は出しておく。あくまで第2案だけど、それでも勝算はあった。
第1案は短剣を出して、勇者トオルに短剣の声が聞こえないか確認する。
第2案は勇者トオルを殺す、文字通り殺すのだ。それで復活させる。蘇生薬では無い、蘇生薬だとダメだ。ハルやモイチが異世界に行こうとした時に神殿の監視者アノマロカリスが言った『元の世界で死んだ者は異世界に行くと死ぬかもしれない』の言葉から想像すると異世界に行く、というのでは無くて異世界の管理人コスモがいた所から自分の元の世界に戻ると死ぬか消滅するということじゃないだろうか。ケンは蘇生薬で蘇ってるけど同じくダメだと言われてたから。
それならこちらに転生されている勇者トオルを一度殺して、私が【コールフリー】で勇者トオルを再召喚すればどうなるだろうかと考えた。結果は同じかもしれないが、同じだったらやってみる価値はある。私が縛りを付ければ帰すことも出来るんじゃないかと考えたのだ。今は縛りが無い状態だから帰す方法が無い。それなら帰す方法を作ってやればと思ったのだ。
この世界の法則として勇者は魔王を倒せば元の世界に帰れる。今回はうちの3勇者がそれを証明してくれた。
なぜ魔王なのか、別にゴブリンでもいいじゃないか。魔王を倒して欲しいのは召喚者が望んでいるだけで、召喚者の想いを達成すればいいんだろ? ならば私が召喚者になってゴブリンを倒してくれる勇者としてトオルを召喚すれば帰せるんじゃないだろうか。
今の状態は『短剣を光らす事が出来る勇者』だから条件を満たせてない。
あくまでも可能性だし賭けである。だから第2案にした。




