第162話 見回り。ロンレーン
あと見る所って2つのダンジョンとマーメライの屋敷のトウベイ・スズーキ親子の所ぐらいだよな。じゃあ、別に行かなくてもいいか。どうせダンジョンは誰かが行ってるだろうしな。
「アメーリア、後はこの町で少し寄り道をするけど、アメーリアはどうする?」
「お供します。」
なんかココアっぽくなって来てないか? どこでも付いて来そうだ。
「じゃあ、行くか。」
「はい。」
まずは久し振りに鍛冶屋に寄った。店が大きくなっている。
「いらっしゃい。あ、兄ちゃん! 久し振りじゃないか。待ちくたびれたよ。」
「久し振りだな。順調そうで良かったよ、店も大きくなってて吃驚したよ。」
「順調そうじゃねぇよ、もう素材が無いから今か今かと待ってたんだ。先にお金を渡しておくぜ。売れた代金から儂の分を引いたお金だ。ほい金貨10000枚。」
「あ、忘れてたよ。そんな事してたな。」
「信じられねーな、金貨10000枚って忘れられる金額か? それより、もうドラゴン素材は無いのか? もう待ちの客が一杯いてよぉ、ちょっと前からエンダーク王国の鍛冶屋に流れて行ってんだ。なんでも最近腕の良い職人が入ったみたいでよ、こっちも負けてられねぇんだ。」
それってニコとゴロウの事じゃないか? あいつら鍛治ギルドに入ってたよな。自分で店を持たずに人の店で作ってるのか。
「わかったよ、ドラゴン系と魔石だったな。店が大きくなったって事は倉庫も大きくしたのか?」
「ああ、大きくなったぜ。裏に来てくれよ。」
裏に回ると冒険者ギルドの倉庫より大きな倉庫が建っていた。
「これはまたデカい倉庫を建てたもんだ。」
「これだけデカければドラゴンも10体は出せるだろ? 頼むぜ兄ちゃん。」
「そうだな、ドラゴンは5体にしておこう。あとは素材の方がいいな。」
ドラゴンを5体出してジャンや仲間の牙や爪を倉庫が満タンになるまで出してやった。
「あとは魔石だな、最近魔石は獲ってないがこの前のクジラ系の魔石が90個ある。少しは持っておきたいから80個でいいか。」
魔石も80個出した。
「ああ、十分だ。いつもながら凄いね兄ちゃんは。最近は魔石も流通するようになって来たからこれだけあれば十分だ。」
「ん? 魔石が流通って事は馬車ブームが終わったのか?」
「いや、まだまだ繁盛してるみたいだぜ。工房もうちと同じくデカくしてやがるからな。なんでもこの国だけじゃなく他所の国からも注文が来るようになって魔石も他所の国から仕入れられるようになったって聞いたな。」
へぇ、ニーベルトの親父も頑張ってるんだ。このあと覗いてやろうか。
また来るよ。と言って鍛冶屋を出た。
「こんにちわー。」
「よぉ小僧、久し振りじゃな。元気しとったか。」
「ええ、馬車の方も順調そうだね。」
「ああ、まだまだ売れとるよ。この国でもまだ注文は来とるが最近はツンザンブレーン連邦やバンブレアム帝国やエンダーク王国からも注文が来とるでな、魔石を都合できる客から優先してやっとるんじゃ。」
「魔石を持ち込みにさせたのか、そういう悪知恵は働くんだな。」
「悪知恵とは何じゃ、ナイスアイデアと言わんか。」
「ツンザンブレーン連邦でノースベルさんに会ったよ。宜しく言っといてくれって。」
「おお、ノースベルか、懐かしいのぉ。奴の腕は最高じゃったな、何か作ってもろうたか。」
「ああ、簡易家の改造をしてくれたよ。妖精樹で角の柱を補強してくれた。お陰で内装空間がもっと大きくなった。」
「そうじゃろそうじゃろ、奴は一流の職人じゃからの、妖精樹じゃと儂には手に負えんからの。」
妖精樹ってまだ持ってたな。最近は世界樹ばかりになってるから使ってないしな。
「妖精樹は扱えないのか。残念だな、まだ持ってるんだけど。」
「なんじゃと? それを早く言わんか。あるなら置いていけ、お金も今はたくさんあるでのぉ。」
「別にお金はいいんだけど、ここに出せばいいのか?」
「ああ、そこでいい。」
妖精樹の枝を1本出した。20メートルの長さの物でツンザンブレーン連邦の時にココア達が斬ってくれたものだ。
「ほほー! 大したもんじゃ、確かに妖精樹じゃな。ちょっと待っとれよ。」
ニーベルトさんは奥に入って行った、恐らくお金を取りに行ったんだろう。
ニーベルトさんはすぐに金貨袋を持って戻って来た。
「これで負けておけ、本当はもっとしてもいいぐらいなんじゃが、妖精樹は値段が付かん。大金貨で200枚入っとるからの。」
「金貨にすると20000枚って事か、高いんだな。これも馬車に使うのかい?」
「そんな勿体ない事をする訳無いじゃろう。これは儂の趣味に使うんじゃ。」
いや、その方が勿体ない気がするのは私だけか? 買った物をどう使おうが自由だけどね。
ほどほどにね、と言って工房を後にした。
次は薬屋ギルドのフェリアスさんだな。
「こんにちは。」
「あらタロウさん、いらっしゃい。今日は可愛らしいお嬢さんを連れているんですね。ソラちゃんは一緒じゃないの?」
「今日はソラとは別行動です。こちらはアメーリアです。」
「こんにちは、初めましてアメーリアです。」
アメーリアがお辞儀をする。
「アメーリアちゃんね、どこかで聞いた名前ね。それより、あなたのオーラって世界樹みたいな雰囲気があるわねぇ。」
「言ってもいいかな? アメーリアはね沢山名前があるんだけど、全部言ってもいいかな?」
「ちょっと待ってね、タロウさんがそういう時って覚悟が必要よね。すーはーすーはー。いいわ、言ってちょうだい。」
フェリアスは深呼吸して身構えた。
「どれからにしようか。そうだな、まずはバンブレアム帝国の第3王位継承者で、聖大アメーリアになったな。もう1つあるけど今は辞めた方がよさそうだな。」
フェリアスは盛大に驚いた後、床に頭を付けて平伏している。もちろん薬屋ギルドの職員たちも同様に平伏している。
「頭を上げてください、私そんなに偉くはないですから。」
「そんな恐れ多い、聖大アメーリア様とお目に掛かれるだけでも大変な事ですのに、こうやって声を掛けて頂けるなんて夢のようです。」
「そんな調子じゃ話も出来ないな、また出直すか。」
「タロウさんは何をおっしゃってるのですか、聖大アメーリア様ともっとお話しがしたいに決まってるじゃありませんか。このまま何の御もてなしもせずに帰すわけにも行きません。」
「いや、ちゃんと話せてないし。お茶ぐらいご馳走になって帰ろうか。報告もあるしね。」
「わかりました。では、すぐに用意させますので少しお待ちください。」
この調子じゃ聖母なんて言ったら全員気絶もんだな。バンブレアム帝国の王位継承者より聖大アメーリアの方だったんだな。ここはバンブレアム帝国からも離れた国だからかな。
お茶を用意してもらい、座って頂いてるんだが周りに職員達がずっと立って付いているから落ち着かない。さっさと用事を済ませて帰ろう。
「前にお願いしていた世界樹の実の調合の事なんだけど、もうわかったから問い合わせは終わらせてほしいんだ。」
「というと賢者ヘッケラーと会ったという事ですか?」
「そうだな、会ったという事にしておこうか。実はヘッケラーも知らなかったんだよ。でも、今はわかったからもういいんだ。」
「そうでしたか、それで調合はできたんですね?」
「ああ、できた。普通の者には必要無い物だけどね。うちの仲間にはちょうど良い物だったよ。」
「何ができたのですか?」
「クラスアップとランクアップと限界アップだな。クラスアップがレベルの限界値を超えて行ける薬でランクアップが何だっけ? クラスチェンジなんかはエルにやってもらったからこっちの薬とちょっと違うようなんだよな。」
「確かに私達には必要ない物ですね。それよりもまた世界樹の葉や樹液などお願いできますか?」
「裏の倉庫に出せばいいんだよな。」
「ええ、お願いします。」
もう世界樹の枝ごと置いて行ってやろうかとも思ったが、いつも通り葉を500枚、樹液を1樽、樹皮を200平米にしておいた。
前回分として大金貨で4500枚貰った。金貨45万枚分だ。
お金を使う時ってもう無いんだけど、貰わない訳にもいかないので頂いておく。
これだけの金額をタダにしてしまうと流通がおかしくなってしまうからね。
用事も終わったし帰ろうかと思ったが、アメーリアが現実に引き戻してくれた。
「タロウ様? 米の木のアーリーさんの所に行くって言ってませんでしたか?」
「……言ってたな。思い出したく無かったんだが。」
「アーリーさんも困ってるようでしたし、行ってあげないといけませんよね?」
「嫌だけど仕方が無いか。」
だって居付いてる奴らって、あの野盗共じゃないのか? それしか思いつかないよな。
あー関わりたくねー。もしかしたら勇者トオルもいるかもしれないよな。
あ、バンブレアム帝国の騎士団を連れて行って捕まえてもらえばいいんじゃないか?
うん、そうしよう。そうするべきだ。だって面倒な奴らだしなー。
もう明日だ明日。アメーリアを送って騎士団に明日出向いてもらう話しをしておこう。




