第159話 見回り。研究所
今日はもう解散と告げて、私はアメーリアとエルを連れて浮遊城の城ダンジョンに転移した。エルを休ませるためだ。
エルはイチコと一緒に世界樹の中に入っていった。
私とアメーリアは入れないので、後の事はイチコに任せて城ダンジョンを出た。
私達が異世界に行ってる間、変わったことは無かったか、時間の流れはどうなのか、確認するために仲間の所を回った。
「アメーリア、後は巡回するだけだから今日はもう遅いし送ろうか?」
「いいえ、お供します。」
「別に何もないと思うが、私達が異世界に行ってる間に変わったことが無いか確認するだけだぞ?」
「はい、皆さんの所を見て回るのでしょ? 行きましょう。」
「たった1日行っただけだから何も無いとは思うんだがな。アメーリアが付いて来るんなら明日にしようか。」
「はい。」
その日はアメーリアを屋敷まで送り、アジトの屋敷に戻って休んだ。
今日行った異世界についてはまた行かないといけないと思うが今日は色々あり過ぎて疲れたよ。確認や対策は明日だ。
朝食を終えると約束通りアメーリアを迎えに行った。
まずは研究所ダンジョンから見て回った。
ここはレイが管理してくれていて妖精で魔物も排除してくれているし氷の精霊コーリンベルも手伝ってくれてるはずだから問題無いはずなんだけど、偶にはダンジョンも見ておいてやろう。
一気に最下層に転移せず1階層から降りて行くルートで行ってみた。
1階層目は特に問題無くゴブリンに1度出会っただけだった。
2階層目に降りた時に、目を疑ってしまった。
モンスターハウスばりの大きなワンフロアになっていて所々に岩の障害物があり、空色の妖精と青色の妖精が左右に分かれて戦っていた。
なんで妖精が戦ってるの? 空色が50ちょっと、青が30匹ぐらいいるように見える。
魔法戦を繰り広げている、風魔法と氷魔法だ。
見ていると倒された妖精はダンジョンに吸収されていく。
優勢なのは風魔法を使う空色チームだった。
体長は空色の30センチぐらいに対して青色は50センチ近くあるだろうか、二回りぐらい大きく見えた。
いや、そんな事はどうでもいいんだ、なんだこれは? なんで妖精たちが戦ってるんだ?
風と氷の妖精の戦いのようじゃないか、レイとコーリンベルが争ってるのか?
あいつら仲が悪かったのか? それなら居場所を考えてやらないと。
「くっそー、いつもいつもヤバくなると弓を使いやがってー。己の腕1つで掛かって来やがれーってんだー!」
劣勢の青の妖精が怒鳴ってる。
「へへーんだ、悔しかったらお前達も貰って来ればいいんだよー。」
「だったらこっちにはこれがあるぞー。」
「あ、またあれを出しやがった。あれはヤバい! みんな散開ー!」
青の妖精が槍を出した。途端に空色の妖精が散らばって行く。
だから何なの? これは。
槍を伸縮させたり振り回したりして何体も倒していく青の妖精。
ただ、出すのが遅かった。数の有利で水色の妖精の弓の集中攻撃で青の妖精も倒されてしまった。残った青の妖精も簡単に空色の妖精が倒していく。
最後の妖精も倒され空色の妖精が勝鬨を上げた。
「やったー!」「だー!」「ひゃっほー」「これで30勝5敗だね」「楽勝ー」・・・・
確かに空色の妖精が勝ったが、30勝5敗って。何度もやってるわけ?
「タロウ様? これはなんですか?」
「私にもわからん。」
「やったね、お前達偉いわよ。」
レイが笑顔で下の階層からやって来た。
「ほんと忌々しい、そちらの方が武器が多いのだ。もう少しハンデをくれてもいいであろう。」
遅れてコーリンベルもやって来る。
「初めに私が言ったのに断ったのは貴方よコーリンベル。」
「い、いや、しかしタロウ様の作られた武器は強力過ぎて、ここまでの戦力差になるとは予想外であった。だいたい世界樹の弓なんか反則であろう。」
「はいはい、言い訳はわかったから早く寄こしなさい。」
「むー、仕方が無い。」
コーリンベルが世界樹の実をレイに渡している。
私の前を風の妖精が通り過ぎていく。
目と目が合った。
「やー! なんだこいつー! レイ様ー、侵入者ですー。」
「侵入者? あ! タロウ様! なぜここに。」
「え? タロウ様? これはマズい。」
その場で恐縮するレイ。お辞儀をしたまま後退って行くコーリンベル。
「レイ、説明してもらおうか。コーリンベルもだ。」
ギクッ「いえ、私には何の事かわかりませんが。今日も飲み物を冷やしに来られたのですか?」引きつった笑顔でコーリンベルが話し掛けて来る。
「それはまだ間に合ってる。この戦闘はなんだと聞いてるんだ。」
「そ、それは・・・レイ、任せた。」
そう言ってコーリンベルは階段に向かって走って行く。
「あなたズルいわよ。」
「コーリンベル様ー」
ドドドーン。
コーリンベルは下の階から現れた妖精達とぶつかった。さっき倒された氷の妖精達だった。どうやら復活して来たようだ。
「あいたたた。」
「あいてー、あ、コーリンベル様、大丈夫ですか?」
「この石頭が、急に出て来るんではない!」
「「「ごめんなさーい。」」」
その後ろから風の妖精もゾロゾロ出て来る。
「レイ、なんでダンジョンの形が変わっていて妖精たちが戦闘をしていたのか聞かせてもらおうか。」
「そ、それは・・・。」
「ねえねえ、あの人だあれ?」
「あれはタロウ様だよ。」
「タロウ様ってだあれ?」
「タロウ様はタロウ様だよ。偉いんだよ。」
妖精達がひそひそ声で話している。
「だからタロウ様って誰なの?」「だれだれ?」「誰か知ってる?」
「これだよ、この弓を作ってくれた人だよ。」
「え? 弓?」「じゃあ槍も?」「弓弓!」「槍も?」「ほしいー」「ボクもー」「ほしいほしい」「いるいるー」「ゆみー」「やりー」・・・・・
「「「タロウ様ーー」」」
一斉に妖精たちが私に向かって来る。
「タロウ様ー」「弓創ってー」「ゆみー」やりー」「作って作ってー」「ほしー」・・・・
なんだなんだ、なんでこんなに妖精が集まって来るんだ。
「レイ! コーリンベル! なんとかしろー!」
「「「「はいー」」」」
私が叫ぶと妖精たちが固まって気を付けをした。
「え?」
どうやら私の声がエルフのエルミアの頭に響く様に妖精達にも響いたようだった。
妖精達まで効いてたかな? 妖精に怒鳴ったのは初めてではあるけど。
丁度いい、静かになった。
「レイ」
「はい。」
「コーリンベル」
「はい。」
「お前達は何をやってるんだ。」
「いや、これはコーリンベルが暇だからと提案してきまして。」
「あ、レイ。違うであろう、お前が私に持ち掛けて来たのであろうが、妖精のお使いが来たぞ。」
「何の話かしら? 私は何も言ってないわよ。」
「わかった! もういい。切っ掛けを聞いてる訳じゃ無い、何をやってたのか聞いてるんだ。」
「戦争でしょうか?」
「戦争ですかね?」
「私が聞いてるんだ。」
「「戦争ゲームです。」」
「さっき渡してた世界樹の実は?」
「「戦利品です。」」
「お前達にはもう世界樹の実はやらん。」
「「そんな~。」」
「少し反省してろ。」
ホントどいつもこいつも戦闘狂になりやがって、なんでこうなるんだ?
しかも妖精が大幅に増えてやがるよ、私達がここに来た時にはもう半分倒されてたんだな。どちらも100匹ずつ妖精がいるよ。戦争の為に増やしたのか? ダンジョンの維持のためならこんなにいらないよな。
ま、仲が悪くてやってたわけじゃ無くて安心はしたがな。
レイのダンジョンマスター権限で死んでも復活するようにして風の妖精vs氷の妖精でバトルをしていたそうだ。
勝った方が世界樹の実をいただく。2~3日に1回やってるそうだ。
月に1回なら許すと言ってやった。
2回にしてほしいと言ったが、武器を作ってやるから1回にしろと納得させた。
ダンジョン維持とエルミアの世話もあるだろうと言ったら、世話係には風と氷の妖精を10体ずつ付けてるそうだ。
研究の方も順調そうで、何か素材が欲しいと言ってたそうなので覗いてやった。
「エルミア、研究の方はどうだ。」
「はい! 順調です。」
「やっぱりその調子になるのか、前のようには話せないのか?」
「はい、どうしてもこうなってしまいます。」
「もう少し免疫を付けてくれないと寄れないよ。」
「わかりました!」
「わかってないね、それで何か素材がいると聞いたが?」
「はい、もう少し龍と、何か長寿の生き物が欲しいのです。亀か何か、クジラでもいいです。」
「お、クジラならあるぞ。ただ、デカいからここじゃ出せないな。500メートルぐらいあるんだ。解体したもので良ければ出せるぞ。」
「解体したものでいいです。心臓など内臓系はありますか?」
「たしかあったはずだ。これだこれ。」
内臓だけでも全部は出せないぐらい大きかったが、心臓と肝臓にあたる部位と他の内臓を出してやった。
「コーリンベルに冷やしてもらうといい、内臓だから腐って来ると匂うからな。」
「ここはダンジョンですから大丈夫です。」
「そうなのか。」
ダンジョンってそういうもんなのか?
「それより、ここに置きっ放しだとダンジョンに吸収されないのか?」
「この階層だけは吸収されない設定にしてくれています。」
はいはい、好きなようにやってください。
解体前の龍を5体出して、ついでにコスモ系も5体出して研究対象にしてくれと渡して次に向かった。




