第157話 世界樹と仙人
私達はドリュアスの案内で妖精の村から500メートルぐらい離れた所に来た。
まだ『壁』の内側のようだ。
「エル、前に世界樹を創った時には一気に100メートルまで育てたんだ。でも、聖なる気は発していなかった。恐らく私の魔力で育てたからだろう。その後は光と水で育てイチコが管理してくれることで大きく育ったが、エルならどういう風にできる?」
「そうですね、この前お父様と米の木を育てた要領でやりましょう。苗まで育ててください、後は私がやります。100メートルも育てば普通は聖なる気を出すはずです。」
「よしわかった。」
前に世界樹を創った要領で世界樹の種を創る。
前の時はドライアドから作ったが、今回は世界樹の枝から創った。
「お父様、世界樹は魔力で育てると良い影響を与えません。少し芽が出た程度で止めてください。」
「了解した。」
種を蒔き【マジックフリー】を発動、タイムマジックで世界樹を発芽させ芽が出た所で一旦止めた。
「もう少し大きくした方がいいか?」
「いえ、これ以上魔力を込めると聖なる気を発する時期に影響を与えます。この程度からなら50メートル以上に育てば聖なる気も出すでしょう。後は離れていてください。」
エルは世界樹の芽に手を翳し目を瞑って集中する。
世界樹はどんどん大きくなって行く。大きくなる毎にエルもこちらに下がって来る。
世界樹の高さが20メートルを超えた辺りでエルは一旦手を止めこちらにやって来た。
「お父様、ここの神精気は薄いので世界樹の実をください。それともう少し離れましょうか。」
世界樹の金色の実を渡してやった。
食べ終わるとすぐに世界樹の方に向き作業を再開する。
私達も更に離れて作業を見守る。
50メートルを超えたあたりから周囲の空気が変わったのが感じられた。
もう青々とした葉も付けている。聖なる気を発し始めたんだな。
80メートルぐらいの時にまた世界樹の金色の実を補給して最終的には高さ150メートルぐらいで終わらせた。太さも直径20メートルを少し超えていた。
まだ上に伸びて行くんだろう、うちの世界樹も高くなるのが落ち着くと今度は更に太くなって来てたからな。
「はぁはぁ、ここまで成長させれば後は管理も楽でしょう。」
いつになくエルは疲れた様子だった。
「それとあなたの事でしたね、ついでにやってしまいましょうか。」
「ありがとうございます。世界樹が、世界樹が、この場所にあるなんて夢を見ているようです。本当にありがとうございます。」
「エル、凄く疲れてるようだし少し休んでからの方がいいんじゃないか?」
「問題はありませんが・・・そうですね、少し待っててください。」
エルは世界樹に近づき世界樹に手を当てる。
すぐに呼吸も落ちついて来たようだ。
「世界樹から少し聖なる気を分けてもらいました。これで大丈夫です、ドリュアスの木まで戻りましょう。」
私達がドリュアスの木まで戻る途中、他の精霊や妖精とすれ違う。皆、私達にも気づかず喜びにあふれた笑顔で世界樹に向かって行く。
ドリュアスの木まで戻って来ると
「お父様、世界樹の実をください。」
「え? さっき回復できたんじゃないのか?」
世界樹の実を出してやりながら尋ねた。
「それではなく金色の実の方です、この木が精気を取り戻すために使います。世界樹も創れましたので今後の管理をしてもらうためには、このドリュアスに元気になってもらわないといけませんから。」
世界樹の金色の実をエルに手渡す。
エルはドリュアスの木から全員を外に出し世界樹の金色の実を木の中心のなる部分に置いた。自分も出て来てドリュアスの木に向き手を翳す。
見る見る枯れていた部分が無くなり木に精気が蘇ってくるのが分かる。
私達が入っていた穴も塞がって行く。穴が完全に塞がるとエルは手を降ろした。
「ふー、流石に疲れました。でもこれで世界樹を管理してもらえそうです。」
ドリュアスに目をやるとさっきまでとは見違えるぐらい精気に満ち溢れている。さっきまではぼんやり光っている感じだったのが今では生命力が漲るように発光している。
木の精霊だから本体の木が元気になると宿っている精霊も元気になるんだな。
「神子様、ありがとうございます。まるで今生まれた様な気分でございます。何から何まで感謝の言葉もございません。」
「私は世界樹の神子です、感謝など必要ありません。仲間が困っていたら助けるのは当然です。ね、お父様、お母様。」
「そうだな、偉いぞエル。」
「本当に、偉いわ。いい子に育ってくれてありがとう。」
私もアメーリアもエルを褒め称えた。
エルもいつものように自慢げにするのではなく照れるように喜んでいた。
「エルも疲れたようだから世界樹の傍で休もうか。もう聖なる気を出しているようだから、そっちの方が回復が早いだろう。」
世界樹の金色の実も渡して食べさせたが、少し休ませてやった方がいいだろう。
世界樹の方に来ると精霊たちが世界樹を遠巻きに見ているだけで誰も近づいて行かない。何かおかしい。世界樹の方を見てみると5人の老人が世界樹を囲んでいる。
白い少しダブついた着物を着ており白髪や禿がいたが、全員白く長い髭を蓄えている。
「あ、あれは仙人ではないですか。」
ドリュアスが現れた事に気づいた精霊が近づいて来た。
「管理人様、申し訳ございません。仙人を呼びに行ってこちらに連れて来る事ができたのですが、こちらに到着した時に世界樹があることを知った仙人が仲間を呼び出して世界樹を占拠してしまいました。何か壁の様な物があって近づくことができません。初めの内は近づく者は攻撃も受けてました。」
「なんと卑劣な、私が排除してやりましょう。」
ドリュアスが殺気立って世界樹に向かおうとする。
「ちょっと待て、無茶な事をしたら世界樹も傷つくぞ。ここは私に任せてくれ。」
「待ってよ父ちゃん。ここはおいら達の出番だろう? この世界に来てから何もやって無いんだよ。そろそろ出番が欲しいよ。」
お前達に任すと世界樹が斬られそうで怖いんだよ。
「世界樹を絶対傷付けたらダメなんだぞ?」
「そんなの余裕だよ、それにあの結界みたいなやつの欠陥も見つけたから大丈夫だよ。」
欠陥? 私には見つけられなかったが。
「欠陥を見つけた? どういうことだ?」
「見てるとユラユラしてるだろ? たぶん力が一定してないんだよ。5人で作っているみたいだから誰かが攻撃を仕掛けるとバランスが崩れて結界も弱くなると思うんだ。」
「主様、もう1つあります。あの結界は筒状になってますので真上からなら入れるようです。」
確かに言われたとおりだ。欠陥だらけだ。よく見てるよな、どうやって倒すかを考えると答えに行きつくんだろうな。倒す前提だよな? こいつらは。
「できれば捕まえてほしいんだ。あいつらから聞きたい事もあるから。」
「わかったよ。」「かしこまりました」「りょーかいー」「はい。」「了解しました。」「簡単なのだ。」
あれ? 1人多く無かったか?
「お、おい、アメーリアは行かなくてもいいよ。」
「結界の様なものですよね、私もお役に立てそうです。皆さんの守り役も出来ると思います。」
「本当にもう。じゃあ、アメーリアには私が付くよ。エルは来ちゃダメだぞ。」
「えー! わかりました。今日は疲れたから待ってます。」
言わなかったら来るつもりだったよ、本当にこの母娘は、本当の親子じゃ無いけど何か似てきてないか? お前達は戦闘はしなくていいんだよ。
「主様。」
「お? ココア、何か作戦があるのか?」
「はい、まずリクとチビで結界を斬ってみます。たぶん斬れないでしょうが牽制にはなります。もし相手が攻撃して来れば結界も強さが弱まるはずですので攻撃を避けながら結界を攻撃すれば斬れる可能性はあります。リクとチビが牽制してくれてる間に私とソラさんとエースさんで飛行の指輪を使い上から入って殲滅します。」
「い、いや殲滅では無く確保ね。」
「かしこまりました。」
本当にわかってんのかね? 殲滅って言っちゃったもんね。
「よし、それで行こう。アメーリアは少し後ろから私と行こう。」
「それでは結界で皆さんを守れません。一緒に行きます。」
アメーリアも戦闘狂の仲間入り? いつからこうなったの? ダンジョンに連れて行ったのが悪かったのかなぁ、世界樹の神子も聖母も戦闘狂のダンバカって無しだろ。
私も付いているから守れるだろうが、先頭に立って戦うのは如何なもんか。
「はいはい、わかったよ。ココア、タイミングはどうするんだ?」
「リクの攻撃が始まったら飛んで行きます。」
「わかった、切っ掛けはリクからだな。」
「任せて!」
私とアメーリアとリクとチビが歩いて世界樹に向かって行く。
向こうも私達に気付いたようだ。
仙人達は等間隔で木の周りを取り囲んでいる。
私達は止まらずに歩いて行く。すると仙人の1人が攻撃をしてきた。
魔法では無い何かを飛ばして来た。何の会話も無くいきなりの攻撃だった。
その何かが私達の前で爆発する。地面が爆ぜた。リクもチビも簡単に避けた。
私もアメーリアを担ぎ軽く避けた。
リクとチビはそのまま左右に展開して走って世界樹に近づいて行く。
一気に結界に到達すると2人共結界を斬った。リクは刀、チビは大剣を使っていた。
2人は武器を振ったが何も音がしない。結界でも当たると音がするはずなんだが、この『壁』は違うのか? でも、2人の振るった武器が結界をすり抜けたようにも見えたが。
2人とも同じように思ったみたいで、今度は結界に体当たりをした。
私から見て左がリク、右がチビ。それぞれ仙人の正面から結界に突っ込んで行く。
その時ようやく別行動の3人も結界の1番上に到着していた。
結界に体当たりをした2人はそのまま結界をすり抜け正面の仙人に体当たりする格好となった。
ドンドーーン!!
リクは正面の仙人にそのままぶつかり仙人諸共世界樹に体当たりしてしまった。
チビは仙人もすり抜けそのまま世界樹に体当たりすることになり自爆した。
リクに体当たりをされた仙人が気を失うと他の仙人達が消えた。
1人だけ本物であとは分身の様なものか、でも攻撃して来たよな。あとで尋問コース決定だな、ココアにやってもらお。
「ココア、チビを介抱してやってくれ。」
もう降下体制に入っていたココアに言うとリクの方に向かってくれた。
「リク、大丈夫か?」
「おいらは大丈夫だよ、こいつも何とか生きてるみたいだね。」
「そうか、まずは外に運び出そう。私がやるからリクは回復するんならしておけ。」
「大丈夫だよ、ダメージは受けて無いから。」
「タロウ様ー! 通れません。」
「何やってるんだアメーリア、通れないってなんで?」
「わかりません、この結界で通れません。」
「おかしいな、私は通れたんだがな。こいつをそっちに運び出すから少し待っててくれ。」
「わかりました。」
仙人を連れて出てきた。チビもココアにHP全回復薬と状態異常全快薬をもらって意識を取り戻していた。
こいつが仙人か、世界樹を占拠して何がしたかったんだ。
【鑑定】
名前: 黄仙
年齢: 998
種族: 仙人(人族)
加護:
状態: 瀕死
性別: 男
レベル:131
HP 11/1663 MP:635/1858
攻撃力:1556 防御力:1487 素早さ:1569
仙術: 火(6)・水(7)・木Max・土Max・風(5)・召喚(3)・精神(8)・転移(5)・分身(5)
技能: 剣(5)・杖Max・回避(6)・採集(9)・錬金(1)・研究(6)
耐性: 熱・水・身体異常
スキル:【再生】6【仙道】Max【千里眼】Max【変身】Max
ユニークスキル:なし
称号: 大地の仙人
従者: なし
魔法じゃ無く仙術か、さっき飛ばして来たものも仙術の何かなんだろうな。




