第156話 ドリュアスの村
私達は草原の上に立っていた。
広い草原だった。遠くには山頂に雪が積もっている山が見える。
グルッと見回すと近くに森がありその奥にも山が見えた。こっちは火山のようだ。
更に見回すと海が見えた。
魔物も気配が無いし村なども近くには無さそうだ。【探索】でもこの周辺では何も検知できなかった。
人や魔物もいるとは思うんだが、この周辺にはいないみたいだな、どんな奴らがいるんだろうな。
何もいない所を選んでくれたんだろうか、来ていきなり戦闘ってのも悪いと思ったんだろう。いや? 楽しませてくれって言う奴がそこまで配慮はしないか、たまたまだな。
ここに私に役立つものがあるって言ってたな。なんだろう、少し楽しみだ。
「ここがどんな世界か分からないが、周りには何もいないみたいだ。ここに地点登録して集合場所にしよう。」
全員が短刀を出し、転送ポイントを作った。
念の為、リクにだいぶ離れてもらってからここまで転移してもらったらできたから、この世界の中でならできそうだ。『念話』も大丈夫だった。
皆で纏めて動くか、3チームに分けるかだな。
30人以上いるんだし3チームに分けても10人以上いるから大丈夫だろう。
「よし、3チームに分けよう。向こうに見えている雪山を目指すチームと、森の探索チームと海の探索チームだ。希望するものに分かれて見てくれ。」
少し偏りはあるが、何とかなりそうだな。
私は森に行こうか。
雪山チーム
ミルキーを班長にノア、ユニコ、シロウ、ナナ、ムツミ、イツミ、サジ、ヨッコ、エイタ、キュータ、パーチ。以上12名。
海チーム
デルタを班長にカイン、ショーン、アゲハ、イロハ、ジャック、ヒマワリ、ヒナタ、ジョーカー、ムロ、トータ、ニコ、ゴロウ、ミコ、セブン。以上15名
森チーム
私とエルとアメーリアに加え、ソラ、ココア、リク、チビ、エース、の8名とちょっと少な目。森は人気が無かった。
いつもモンスターハウスのような広い所で武器を振り回してるんだから海の様に広いエリアが人気なのはわかるな。
山も一気に飛んで行けるのいいらしい。森は障害物が多いし、火魔法など大きな力を制限されるのが嫌らしい。
ただ、今回の森チームにはエルがいるから仕事が早いかもな。
「多分、魔物はいるはずだ。周囲の雰囲気などから私達がいた世界に似た世界だと思う。戦闘になったら油断するなよ、さっきのコスモの話しからお前達ならまず負けないと思うが、攻撃を仕掛けて来る奴には遠慮はしなくていいからな。出来る限り鑑定もしろよ。」
どんな奴がいるか分からないから、やられない注意はしておく。コスモもうちのダンジョンが一番強いって言うぐらいだから、そのダンジョンを制覇するうちのメンバーは強いと思って間違いないだろう。
日が暮れたらここに集合すると決めてそれぞれ別れて行った。
私達の森チームは、森の入り口に来るとエルに頼んで森の様子を探ってもらった。
「エル、この森の事は何かわかるか?」
「はい、木の事なら得意です。任せてください。」
エルが一歩森に足を踏み入れると、森の雰囲気が一変した。
私にもわかる程の変わりようだった。
森が仲間になるというか配下になるというか、エルに対して全員が平伏したような雰囲気があった。
木だから動かないが、私達への雰囲気や森の雰囲気が変わったのだ。
ここは私の元の世界でも無く、エルが生まれた世界でも無い。私達から見れば異世界なのだ。
しかし、違いはあっても根本は同じような場合があるんだろう。
私の世界には魔素は少なくても動物や植物はいる。西の大陸のある世界も魔素は多くても動物や植物はいる。そしてここにも植物はある。
植物や精霊の源と呼ばれている世界樹。その神子なんだから、どの世界でも精霊や植物には上位の存在なんだろう。
「ここの森には何かありそうか?」
「そうですね、穏やかな森のようです。もちろん魔物もいるようですが、この森では精霊の方が強いようですね。」
「精霊もいるのか、何か情報は聞けないか?」
「あっちの方に集まっているところがあるようです。行ってみますか?」
「そうだな、行ってみよう。」
森チームはエルが指さした方を目指して森を入って行った。
森の中を歩いて行くと道があった。獣道では無い、人がいるんだ。
「ここに道があるってことは人間がいるんだな、魔物は道を作らないもんな。」
「はいお父様、人間もいるようです。木に宿っている妖精達が教えてくれました。この道を行けば人間がいるそうです。妖精の方向とは違いますがどっちに行きますか?」
「そうだな、ここは森の中だし先に精霊に挨拶しておこうか。」
「わかりました、ではこっちです。」
エルが先導して進んでくれる。
森の木々や雑草も心なしか歩きやすいように避けてくれているように感じる。
森に入ってから感じている歓迎ムードをここでもずっと感じられた。
ここまで魔物にも一度も出会っていなかった。
1時間ほど歩いただろうか、何か厚い壁を通り抜けた感じがあった。恐らく結界なんだろう。
私達は難なく入れたが、招かれざる者は入れないか若しくは見えないか。
そういう類の結界のようだった。
――解析できませんでした。
え? 珍しいな、結界なら解析出来るだろ?
【那由多】解析できなかったって、これは結界じゃないのか?
――はい、結界ではありません。『壁』に類似したものです。
え? ええ? あの東の国との『壁』?
――そうです。
じゃあ、これが解析出来たら『壁』も解析出来るって事?
――類似したものですが、出来る可能性はあります。
これがコスモの言ってた私に役立つものか。
この『壁』の様な物は誰が作ったんだろう。それが分かれば教えてもらわないとな。
それから少し歩くと村が見えて来た。
精霊達の村だった。
小さな妖精たちがたくさん迎えてくれる。
「エル、ここが精霊の村なのか?」
「はい、精霊の村です。妖精達も歓迎してくれています。もうすぐ迎えも来るようです。」
エルが言うのと同時ぐらいに緑や青の精霊がゆっくり飛んでくる。
飛んでるというよりは、浮かんでいるような漂っているという感じで、音も無くふわーっと寄って来る。
その顔は皆笑顔で歓迎されているようだ。
「神子様でございますね? 私はこの村を管理しております木の精霊ドリュアスでございます。このような村にお越しいただけるとは感激でございます。」
ドライアドだよな? こっちではドリュアスって言うのか。
「ここはエルが先頭に立って話した方が良さそうだ。エル、頼んでいいか?」
「はい、お父様。」
「お父様? 神子様の父でございましたか、よく見るとそちらに聖母様もおられるようでございますね。神子様の力が大きすぎて気付きませんでした。申し訳ございません。」
「いや、いいんだ。確かにエルの力は大きいからな。しかしこの森は豊かな森だな、しっかり管理してるんだなぁ。」
「勿体ないお言葉でございます。折角いらしてくださいましたので何の御もてなしもできませんが、まずはこちらまでお越しください。」
精霊ドリュアスが案内してくれたのは、この村で一番大きな木であった。ただ所々枯れているのが気にかかる。
木の下の部分に大きな穴があり、木の中に入れるようになっていた。中に入ると大きな机や椅子が用意してあった。
「どうぞこちらでお寛ぎください、今お飲み物を用意させております。」
「ここでも世界樹のジュースなんかあるのか?」
「せ、世界樹のジュースなんてとんでもない、世界樹の実なんて私共も滅多に見れない物です。」
「じゃあ、私がご馳走しよう。」
世界樹の実を100個出してやった。
「まぁ、す、すごい。」
「これはプレゼントするよ、こっちのでジュースを作ってくれないか?」
更に100個出した。
「あ、貴方様は……。」
「まだ名前は言って無かったな。私はタロウ、こっちがアメーリアでこっちの神子がエルだ。」
他の者も紹介し、世界樹の実でジュースを作って貰うよう頼んだ。
ここはいい空気だけど世界樹の所と何か違うよなぁ。
「ここって世界樹は無いのか?」
「はい、ここは人間界ですから世界樹はございません。精霊界でも今は数が減って3本しかございません。ですから偶に精霊界に行っても中々世界樹の実を分けて頂けないのです。」
「そうだったんだな。」
ここに作ってやってもいいのかな? それより先に『壁』の事だ。
「ここに来る前に結界のようなものがあったが、誰が作ったんだ?」
「あれはこの森の奥にある洞窟に住む仙人が作りました。元は人間だという事ですが仙人だと自分で言っておりました。」
「仙人? 仙人ってあの霞を食って生きているっていう?」
「霞を食べるかどうかは知りませんが、仙人を名乗っております。」
「会えるのか?」
「どうでしょうか、元々付き合いもございませんし私達ももう随分と会っておりません。生きているかどうかも。」
「行ってみるか。」
仙人がいるという洞窟の場所を教えてもらった。
「それとここはその仙人が作った特別な結界で守られているようだ。結界と言えないものかもしれないが。その結界のお陰でここの空気は綺麗だと思うが世界樹の物とは違うようだな。」
「はい、我々ドリュアスが世界樹の出す聖なる気に近づけようと頑張ってはいるのですが思い通りには行かないのです。」
「似せてる・・・そうか、総本山の神精気に似てたんだ。そこまで真似たいんならここで世界樹を育てればいいじゃないか。」
「タ、タロウ様は何をおっしゃるのですか、そんなに簡単に世界樹が育つわけがありません。種もございませんのに。」
「ここには世界樹の神子がいるんだぞ? 私は種も作れるし。私の創った世界樹から生まれたのがエルなんだぞ?」
「そ、そ、そんな事ができるのですか!」
「ただ、デカいんだよ。高さは100メートルどころの話ではないからな。」
城ダンジョンの世界樹は高さ数キロあるからな。
「それでも構いません! 世界樹を、世界樹を創ってくださるのでしたらどんなことでも致します。」
「別に世界樹を創ったからって何も頼まないよ。私達と仲良くしてくれればそれでいい。」
「な、仲良くだなんて恐れ多い。」
「そういうのは仕方が無いのか、エルは世界樹の神子だしな。ただ凄く魔力を消耗するからなぁ、仙人の方を先に済ませたいな。」
「そういうことでしたら私達が仙人を連れて参りますので、タロウ様は世界樹を創って頂けませんか?」
「そうだな、ここの事はそっちの方が詳しいだろうし、その方がいいな。わかった世界樹を創ろうか。どこに作ればいい? 相当デカいぞ。」
周りで皆がウンウン頷いている。
「この場所でお願いします。」
「ダメです!」「いけません!」
エルとアメーリアが同時に怒り出す。
「ど、どうしたんだいきなり。」
「すみません、タロウ様。この私達がいる木はこのドリュアスなんです。その木の場所で世界樹を創るという事はこの木も無くなってしまいます。この木は大変弱ってはいますが、まだまだ生きられます。それを・・・。」
「そうです、まだ500年は寿命があります。私が手を加えればもっと生きられます。それに世界樹の傍でならもっと生きられるのに。絶対この場所では世界樹は創りません。」
「そうだったんだ、ドリュアスは何故そんな事を言うんだ。」
流石に世界樹の神子と聖母だな、そんな事も分かるんだな。私には分からなかったけどね、解析をしても寿命まで分からないし何の能力なんだろうな。
「私はもう3000年生きております。あとは世界樹の糧になれれば本望です。」
「え? 3000年? うちで世界樹の世話をしているイチコは最低でも4000年は生きてるぞ? 一緒にいるサブロウもそうだったと思うぞ。まだまだだな。」
「4000年も世界樹のお世話をされているのですか、羨ましい。それとサブロウとは何でしょうか?」
「魔物なんだ、砂糖を作ってくれてる。世界樹に寄生するガジュマルって魔物なんだ。」
「そ、そんな事まで。魔物まで一緒に。確かに一緒におられる皆様は魔物のようでございますね。タロウ様は人間のようですが凄い力を持ってらっしゃるのですね。」
「そうだな、私には今言った事が実際にできてるんだ。その時はエルはいなかったんだぞ、だからお前も糧になるなんて言わずにこれから世界樹の世話に頑張ってくれたらいい、そう約束してくれるんなら喜んで世界樹を創ってやろう。」
「ありがとうございます、大変感服いたしました。では、別の場所にしていただきましょう。どのぐらい離れれば宜しいですか?」
「それなんだよな、うちの世界樹は1キロ以上の太さだからなぁ、ここでもそうなるのかなぁ。どう思う? エル。」
「ここは人間界ですからあそこまでは大きくなりませんし神子も生まれることはありませんが、最終的には直径500メートル以上にはなると思います。」
「妖精樹だと大きくても直径50メートルまでにもならないし、十分な大きさだろうな。聖なる気も出すんだろ?」
「もちろんです。」
「念のため500メートル離れた所で選んでくれ。水場もそれぐらい離れた所にある方がいいかもな。」
「わかりました、それではご案内いたします。その間に仙人の方には使いを出しておきます。」
ドリュアスの言葉で10体の精霊がそれぞれ10体の妖精を連れて出て行った。
そんなに大勢で行くの? 仙人って何人いるの?




