第152話 【番外編】 ルーキーズ編③
149話と150話の内容を入れ替えました。
―ムロ・トウタ組編―
私達の西の大陸での始まりの町とも呼べるロンレーンの町がある国、ダムダライド王国の担当は暗龍で【結界】を持つムロと銀龍で【添付】を持つトータだった。トータは第3世代、第3世代はやはり他の【クロスランド】で生まれた者の中ではレベルの上がり方や総合的なステータスが第2世代より上のようだ。今度第4世代も試してみたいな。
生まれた奴らは全員カンストしてるからこれ以上レベルは上がらないが、クラスアップをやってもいいものかはまだ考え中だ。
基本この2人はロンレーンの町に居ることが多い。アラハンは私のおかげ(・・・)で免疫も大分付いたので、2人にとっては話しが早いこの町がいいのだろう。
今日は偶々アラハンからの直接の依頼があったのでアーバンライド共和国に行くのが遅れたようだ。
「なにもこんな日に依頼を出さなくってもいいのにな。」
「まぁそう言うな、すぐに終わらせればいいんだ。」
少しお兄さん気取りのムロがトウタを諭して連れて行く。2日違いでも先に生まれてるから年上と言えなくも無い。
「それにしてもアラハンさんの話しっていつも長いよな、ほとんど武器の自慢だし。」
「あれって全部タロウ様が作ったんだぜ。」
「え? そうなの?」
「攻撃力はゴミみたいなもんだけどな。」
「なんだ、期待して損した。」
「だいぶ遅れてしまったから急ごうか。」
「うん。」
その依頼とは以前に私も関わった、子供誘拐事件の時にララとロロを監禁していたカリファーン元男爵の件だった。
手掛かりとしてはバンブレアム帝国で貴族と接触をした情報があった。
あの件で爵位を剥奪されたカリファーン元男爵はバンブレアム帝国に流れ着いていた。
落ちぶれた貴族なんて惨憺たるたるもので、気位ばかり高く何もできない者が多い。
トウベイ・スズーキの場合はそんなに気位が高く無かったので私が拾ったんだけどね。
娘も一緒にいたのが大きかったのかもしれないね。
そんな落ちぶれたカリファーン元男爵を相手にする者はダムダライド王国内にはいなかったので、バンブレアム帝国にやって来たのだが、こちらでも同じであった。
バンブレアム帝国はダムダライド王国と違って都会だから物価も高い。
没落貴族が浮き上がってくることはほとんど無い。それでも平民が貴族になるように憧れるより貴族に戻りたいという執念は強い。
そこに目を付けられカリファーン元男爵はどんどん落ちて行った。
アーバンライド共和国の領主レーベリックの所の者だという男との出会いがカリファーン元男爵の運命を決めた。
ダムドロと名乗るその男は、タイスランド公国出身の商人でレーベリックに目利きや取り仕切る能力を買われ6年前にスカウトされた。
ダムドロも貴族に憧れを持っており、レーベリックに付いて行くと男爵になれそうだと思い付いて行った。
アーバンライド共和国には現在国主はおらず、3人の領主の決裁で決めている。
100年前に独立宣言した時に中心となった王はもう亡く、世継ぎも無かった。
その時の3大領主が今でもこの国の3大領国としてこの国を治め共和国制としている。
何度も投票で国主を決めようと北の領主ザルバドルが提案するが、東の領主のレーベリックも西の領主のハーベンダルも「今はまだその時では無い」と反対して投票ができなかった。
領民の数は同等でも、地元推進派のザルバドルが浮動票を多く取り込めるのでは無いかと2人の領主が思っていたからだ。
そんな状況だから部下の中から爵位の者を出したいと領主達は考えた。
3人の領主での決済の時に男爵への推薦を多く出すのが東の領主レーベリック。
地元の者ではそんなに多く出せないので認可を出さない北の領主ザルバドル。
自分も多くは無いが出しているので偶に認可を出す西の領主ハーベンダル。
結局、一番多く爵位持ちを有するのが東の領主になる。
そんな噂を知ってるダムドロはレーベリックの誘いにすぐ乗った。
何度目かの推薦で男爵になれたダムドロは6年間レーベリックに付いてきたことで、もっと野心を持った。
『儂はレーベリックよりも優秀である。他の2人の領主も大したことは無い。それならば私がこの国を治めてやろう』と。
1年前にダムドロは行動に移した。
冒険者をガードに雇いアクアリア国の南の外れにいるという吸血鬼を探した。
イクスプラン教の高位の聖職者も連れて吸血鬼を操ろうと考えていた。
吸血鬼は見つかったが、ダムドロ一行は全滅した。
但し、殺されたわけでは無い。その吸血鬼ラミアにすべての思考を奪われたのだ。
蛇の下半身をした女の魔物で、吸血や惑わし誘惑が得意な魔物であった。
ラミアはダムドロの思考を読み取り、「退屈しのぎにはちょうど良い」とダムドロの考えに乗った。
まず、各地を回り手下を増やす。その手下達の思考を奪いアーバンライド共和国の北東のにアジトを作り、そこからアーバンライド共和国を混乱に陥れ、その隙にアーバンライド共和国の王家を名乗り乗っ取ろうという作戦であった。
ダンジョンに有能な兵士を行かせるように差し向けたり、ハーベンダルの娘マリアを魔物で襲わせたり、レーベリックの部下を攫ったりしたのもラミアの仕業である。
カリファーン元男爵も同じく手下にされかけたが、ラミアにとっては欲深い奴ほど好物で「いい作品ができそうだ。」とカリファーン元男爵を自分の傍に置いた。
ムロとトウタはカリファーン元男爵の屋敷に行き、屋敷の中を物色したが何も残って無いので庭の池の水を汲んでアーバンライド共和国に向かった。
アーバンライド共和国の北門に転移してきたところでエイタから『念話』で呼ばれた。
「遅いぞ、ムロとトウタが最後だぞ。」
森の中に簡易家を出し、作戦会議中だった。
作戦会議と言っても情報共有するだけの報告会。
「悪りぃ悪りぃアラハンさんの話しが長くってさ、それで皆で集まってどうしたんだ? もう何か分かったのか?」
「まだ。」
「そう、まだなんだけど、この国では何か起こってるみたいなんだ。それをどうやって調べようかと皆で相談してたんだ。」
「そうか、それなら先にエイタに頼みたい事があるんだ。この水で雲を作ってくれよ。」
「なにその水は。」
「こっちの依頼でさ、人を探してるんだけど居場所がわからないんだ。それでそいつの屋敷の池から水を汲んできた。」
「なるほどね、その水でボクに雲を作らせて主の元まで連れて行ってもらおうということだね。」
「正解、頼むよ。」
「わかった、じゃあ水を貰うよ。」
エイタは簡易家から出て汲んできた水で雲を作った。30センチぐらいの小さな雲だった。
「さあ、お前の主人だった人の所へ連れて行ってくれ。」
雲は東の方へ向かって行く。
「あれ? おかしいな。そっちには国は無いし村だって無かったはずだよ。」
「確かにそうだよな、おかしいな。」
「この感じだと近そうだし、先に行ってみる?」
「そうだな、行ってみようか。」
皆でぞろぞろ付いて行った。元々作戦会議という名の休憩と食事だった。
こいつらには作戦会議は無理だと思うよ、脳筋しかいないから。
「ここみたいだよ。」
エイタが言った場所には洞窟があった。
「ここ? なんでこんなところにいるんだ?」
「怪しい。」
「ん。」
「そうですね、確かに怪しいです。我輩もそう思っておりました。」
「入ってみる?」
「そうだね。」「当り前」「行こう」「そうだそうだ」「・・・・・
先頭はイツミ、殿はムツミ。全員で洞窟に入って行く。
奥まで進むと広い空間になっておりその中央にに池があった。
池を囲むように周りには扉がたくさんあった。それぞれ部屋になってるようだ。
全員が広い空間に出た時ラミアが池の中から現れた。
「なんじゃ? お主らは。妾の縄張りと知って勝手に入って来おるか。」
「人を探してるんだ、カリファーンって奴なんだけど知らない? ここに居るみたいなんだけど。」
「カリファーンとは妾の僕のことか? 確かにおるぞ、少し変わってしまったがの。」
「僕って僕にしちゃったの?」
「お主達も妾の僕にしてやろう。こいつらみたいにな。」
ラミアがそう言うと各扉から魔物が出て来た。
100体程いるだろうか、姿は人間に近いが目が赤く鋭い牙と爪を持っていた。
「そういうこと。」
「倒す。」
「ん。」
「はい、倒しましょう。」
イツミが右回り、ナナが左回りで30秒も掛からず倒してしまった。
他の者は誰も動いていない、正面にいるラミアから目を離さない。
「な、なんだお主らは、妾の邪魔をするつもりか。ダムドロ、カリファーン、この者共を倒せ!」
2体の大きな魔物が池の中から現れた。
もう人間の原型は留めておらず、巨大な体躯に蝙蝠の翼を付けた魔物だった。
「あ、あの右の魔物がカリファーンだよ、雲がそう感じてるよ。でも、あれじゃあもう討伐対象でいいよね。」
エイタがそう言うと間髪置かずにトウタが魔物を倒す。もう1体もセブンが同時に倒した。
「な、なんなのだ! お主らはー! 妾の手下を全部倒してしまいおって、代わりにお主らを僕にしてやるわー!」
「もういないの?」
「そうみたいだね。」
「じゃあ、いいかな。」
「もうちょい出してくれるのを期待したんだけどな。」
「そうだね。」
「魔物は打ち止めみたい。」
パーチが動いた。何か決まりがあるのだろう、誰かが動けば他の者は動かない。
いつもダンジョンで一緒に戦っているから、そういった約束はできているんだろう。
ラミアは瞬殺された。
「この死骸はどうする?」
「ダンジョンの餌でいいよ。」
「回収回収。」
「カリファーンだけは貰うよ、本人証明がいるんだ。」
「このリーダーだった魔物って中々大きな魔石を持ってたよ。」
「それはダンジョン行きだよー。」
どこまでもダンジョン中心の考えだった。
結局誰もアーバンライド共和国を支配しようとしていた事も知らずに倒してしまった。
事件は解決したが、解決したことも分かって無い。
「そろそろダンジョンに行かないと今日は1周もできなくなるぞ。」
「ダメ。」
「ん。」
「また明日でいいよな。」
「明日明日。」
「行こ行こ。」
弱い魔物には興味が無いのはこいつらも同じ、さっさとダンジョンに向かって転移して行った。
それからルーキーズは1週間この国に通う事になるのだが、何も起こらないし起こりそうな気配も無いので、全員アーバンライド共和国に来なくなった。飽きたのだ。
カリファーン元男爵の身元確認はロンレーンの町のギルマスのアラハンが行なうことになるのだが、大きな見た事も無い魔物を見せられたアラハンはKOだったらしい。
確かにカリファーンだけど、そのまま出したらそーなるよね。
タロウへの報告も「問題は何も無かったけど、魔物は排除した。」だけだった。
「それでお前達が倒した魔物って何て奴だったんだ?」
「「「え?」」」
ラミアという魔物の名前すら誰も知らなかった。




