第148話 魔法の島
この後は何事も無かったのだが、異変が起きたのは次の日の昼だった。
『タロウ様、島が現れたぞ。』
ジャンからの連絡で表に出て確認した。
「本当だな、綺麗な島だな。神殿のようなものも見えるぞ。」
『今までこんな場所に島は無かった。現れたようだ。』
「現れた?」
『そうだ。』
デルタなら何か知らないかな?
『デルタ、ちょっと表に来てくれ。』
デルタはすぐに出て来てくれた。今日残っているのはデルタとユニコとイチジロウなのは知っていた。ルーキーズ達はアーバンライド共和国に行かせてるし、他はダンジョンかどこかに行ってるようでアジトの屋敷には残って無かった。
「デルタ、あの島の事は知らないか?」
「むう、私も知識でしか知りませんが、魔法の島かもしれませんのう。」
「魔法の島?」
「2000年前に栄えたという伝説の島がありましたのじゃ、魔法の島と呼ばれた伝説の島があったとされるのがこの辺りのはずですの。海の神子が祭られていたはずですがの。」
魔法の島、それが今現れた? タイミング的には海王が倒されたのが原因なのか?
それなら以前にも海王は真の勇者に倒されているはずなんだがな。
海の神子? 世界樹の神子みたいなものか?
「ジャンは知らないか?」
『海の神子なら知っているぞ。確かトリートーンに封印されたはずだ。トリートーンが誰かに倒されて封印が解けたんだろう。』
「トリートーンって?」
『海王の側近として長く仕える者で、魔法が得意な奴だ。移動魔法や封印魔法が得意な奴だったな。海王復活にも一番尽力した奴だと聞いたことがある。』
ん? もしかして昨日、海王の側近として一緒にいたとか言わないでくれよ。
可能性としては大アリだよな。
確かに海王を倒しただけでレベルが3つも上がるのは上がり過ぎだとは思ってたんだよ。10人ぐらいいたし、冥王の件を見ても側近の方が強かったのかもしれないしな。
「封印が解けたって事は、誰かいるのかな?」
『海の神子がいるだろうな。』
海の神子か、見てみたいな。行ってみるか。
「行ってみるか。デルタはどうする?」
「では私もお供しますわい。」
2人で飛行の指輪を填めて、魔法の島へと向かった。
島にはすんなり上陸できた。魔物も島に上がってからは出会っていない。
そんなに大きくない島だが小高い丘の様になっていて、その山頂に神殿の様な物が建っている。
神殿の様な建物の方向は分かっているので、島に着くとすぐに降りて下から山頂を目指すことにした。
サーチすると赤い点が山頂の建物にだけ確認できた。他にはいないようだ。
それでも島にはいくつか家が建っていたので、デルタと歩いて山頂を目指す。
家はエスキモーの氷の家を連想させるドーム形をしていた。氷では無く石でできているようだが、石からは弱いながらも魔力が感じられた。
誰にも会うことも無く山頂の建物に辿り着いた。
遠くからも見えただけあって1階建てだが天井の高い大きな建物だった。冥王の所の城ぐらいの大きさはあった。
結界が張ってあるかもと思っていたが、何も無くスムーズに建物に入れた。
建物に入ると魔物が居た。
海系の魔物のようだが歩いている。2足歩行もいたし4足の魔物や多足の魔物もいる。
全員目覚めたばかりだからなのかボーっとしていて私達の方すら見ない。
魔物は無視して建物の中央を目指した。
大きめの赤い点が固まっていたからだ。
建物の中央には大きな円形の部屋があり、その中央に大きな円形の舞台の様に1段高くなっているところがあり大きな魔法陣が描かれている。
舞台の上には誰もいなかったが舞台に上がるために3段の階段があり、その階段の脇に20体ぐらいの魔物が固まって集まっていた。
その中央には人間がいた。人間なのか人型になっている魔物なのか大きな魔力を感じるので判断が難しいが、白い絹の様な白いドレスを着ている綺麗な青い髪をした美しい女性だった。
肌は青では無く透き通るような白い肌をしていた。
まだ封印が解けていないのか眠っているようで、集まっている魔物たちはその女性が目覚めるのを待っているようだった。
「誰か話しが出来る奴はいるか?」
島に上陸して初めて声を掛けた。
集まっている魔物がようやく私達の方を見た。
そのうちの1体がこちらに歩み寄ると他の者達はまた女性に向き直る。
歩み寄って来た魔物が話し掛けて来た。
2足歩行だが3メートルぐらいある海系の魔物だった。
顔は魚に近いが正面を向いているので蛙のようにも見えなくもない。横一文字に大きい口がそう連想させるのだろう。目は黒丸であんまり動いて無いし。魚眼だな。
「貴方は人間のようだがここで何をしておる。」
「様子を見に来ただけだ。どうやら2000年振りに封印が解けたと聞いたんでな。」
「2000年! 儂らは2000年も封印されていたのか。」
「私の仲間の情報だとそういうことらしい。ここがどういう所か説明してくれないか?」
「ここは島の神殿だ、貴方が封印を解いてくれたのか?」
「私が直接解いた訳じゃ無いが、私の仲間がトリートーンを倒したんじゃないかと思う。それで封印が解けたんじゃないかな。」
「おお! 貴方達が封印を解いてくれたのですか。あの裏切者のトリートーンを倒すとはさぞかし名のある方達なのであろう。まずはお礼を申し上げます、儂は5長老の1人で青の長老です。封印を解いて頂きありがとうございました。」
「私はタロウと言う冒険者だ。青の長老か、色々聞きたいが今あそこで何をやってたんだ?」
「海の神子様が目覚められるのを皆で待っております。回復魔法を施しておりますが、一向に目覚められません。」
「ちょっと私にも見せてくれ」
確かに寝ているようだ。【鑑定】でも睡眠と出るだけだ。
海の神子だ。
名前: なし ♀6423歳 龍族 (モハモハ)LV46
HP1554 MP1744 攻撃力1311 防御力1366 素早さ1321
スキル:【鑑定】【再生】【念話】【龍眼】【変身】
ユニークスキル:【合体魔法】
称号: 海の神子
待ってても話しが進まないな、回復魔法をしたということはこいつらも目覚めてほしいんだろ。
状態全快薬を口に含ませてやった。
海の神子がゆっくり目覚めた。
「あら? 皆様どうされましたか?」
「おお! 目覚められた。」と喜ぶ取り巻き達。
「タロウ殿、ありがとうございます。儂らの回復魔法より強力な薬をお持ちなのですな。この『入り口の島』は別名『魔法の島』とも呼ばれるぐらい魔法が盛んな島で、皆で回復魔法を施したのにも関わらず目覚められませんでしたのに。」
また新しい言葉が出て来たな、『入り口の島』? 魔法の島は別名って?
「ここは入り口の島って言うのか? 魔法の島だと聞いていたが。」
「他所者には『魔法の島』の方が有名でしょうな、その名前は儂らが付けた物では無くここに訪れた者達が勝手に付けた名前です。『入り口の島』が正解です。」
青の長老が答えてくれた。
「『入り口の島』って事は『出口の島』があるのか?」
「『出口の島』などある訳無いでしょう。ここは海底神殿と繋がっており、向こうにいる神殿の神子様と【合体魔法】で転送してもらって行き来するのです。」
こいつもか、常識だろ? 的な言い方。お前らの常識なんか知らねーよ。
海底神殿があり、そこには神殿の神子がいる? 【合体魔法】っていうのは2人で発動する魔法の事なのかな。
「海の神子様、こちらのタロウ殿が封印を解いてくださいました。儂らは2000年も封印されていたようです。」
「2000年もですか。そんなに長く・・・。神殿の様子も気になりますから連絡を取ってみます。」
海の神子が集中する。神殿の神子と連絡を取っているようだ。
「連絡は取れましたが、非常に弱々しく向こうで何かが起こっているのかもしれません。誰かを転送で送って様子を確認しないといけません。」
「誰を送りましょう。ここにいる者は術には長けていますが武術は不得手な者ばかり。この島の神殿にいる者では役不足です。」
青の長老がこちらを向く。
「タロウ殿、貴方はあの裏切者のトリートーンを倒したぐらいの強者でしたな。海底神殿の様子を見て来て下さいませんか。」
いや、倒したのは私では無く私の仲間だと言ったはずですが? しかも周りも「おお!」とか言って期待の目で見るのは辞めてほしいんだが。
「行ってもいいが何だその裏切者って。」
「トリートーンは元々この神殿の者でした。それが海王様の側近に抜擢されるとすぐに儂らを封印しました。初め海王様の使者という名目でこの神殿に来たのですが、実際は違っておりました。海の神子様を攫おうとしましたが儂らの必死の抵抗で海の神子様を守る事ができました。そのすぐ後に海王様と共に現れ儂らは封印されてしまったのです。」
あの思い込みの激しそうな海王ならあり得る話だな。操り易そうだもんな。
一度真の勇者に倒されたと聞いたが、同じ奴が復活したんだったよな。
「それで、様子を見るってどうやって行くんだ?」
「それは私と神殿の神子が協力をして転送いたします。今は何とか神殿の神子とも繋がっていますが、いつ切れるともしれません。弱々しい力しか感じませんので、2人送るのが精一杯でしょう。」
「じゃあ、私とデルタでいいか? それとも青の長老が行くのか?」
「いえ、ここはお任せしましょう。では海の神子様お願いします。」
「わかりました。」
そんなに私達を信用してもいいのかと疑ってしまうぐらい展開が早いな。それだけ慌ててるんだろう。
罠っていう感じもしないし、行ってみるか。
転送ポイントと転送魔法陣を念のために作っておき、海の神子に転送を頼んだ。
海の神子は目を閉じ集中する。
私とデルタは海底神殿に転送された。
――【海底空間転送魔法】獲得しました。
そうくると思ってました。なので短刀だけでなく魔法陣も作ったんですよ。




