第140話 晩餐会での情報
次はアーリーの所へ来た。アーリーとは『念話』ができるからいらないとは思ったが、米の木も気になってたので来てみた。
米は出来ていた。
アーリーの部下たちが収穫している最中だった。
米は俵で生っていた。バカじゃねーとは思ったが、そこは異世界。まず木に米が生ること事態おかしい、しかも勇者の能力って。砂糖も砂糖鉱石ってふざけた作り方だったしテレビ電話も勇者の力だし、戦闘に使う能力では無いよね。戦闘では無駄だけど日本出身者としては有り難い。
更にふざけたことに卵も生っていた。食堂の主人もこの卵で作ってたんだな。
今回一番意表を突かれたのが世界樹の実をベースにした米の木に日本酒が樽で生っていた。
もう好きにしてくれ、なんでも生るんだね。ただ世界樹の実をベースにした種から育った木だけに生ったようだ。
私が一番好きなアルコールは日本酒だが、そんなに飲まない。
よく飲んだのはビールとブランデーだ。種さえ選べば出来るかもな。
――可能です。ブドウの木と大麦の稲を素材にお勧めします。
できるんだ。【那由多】が言うのならそうなんだろう。
大麦ってあるのかな? この世界でもパンは食べた事があるから近い物がどこかにあるんだろうな。誰かに聞いてみよう。うちの連中でも知ってるかもな。
今まで収穫した米などはアーリーが収穫して亜空間収納してくれていた。
もう仲間全員で毎食食べても1年でも食べきれないぐらいあった。
亜空間収納なら問題無いけど、これ以上いらないんじゃない?まだまだできそうである。
ブドウの木と大麦の稲があれば確保しておいてもらうようにアーリーには頼んでおいた。
マーメライの屋敷に転移して来た。
今はトウベイ・スズーキとルリコの親娘に管理を任せている。
2人は従者では無いので念話が出来ないから今回の水晶は有り難かった。
2人共いたので水晶を渡して説明する。ルリコは若いだけあって飲み込みも早かった。
トウベイは通話だけでも使えればいいだろう。試しに私が隣の部屋に行って映像通信してみた。
トウベイは登録は覚えられなかったが、もう登録済みだし後は発着信だけだからね。
ルリコに覚えてもらってればいいだろ。
もう1軒、鍛冶屋に寄った。
「鍛冶屋の師匠はいるか?」
「あ、旦那。いらっしゃいませ、師匠は作業中です。」
「まだ頑張ってんのか、確かに素材としては多かったか。」
「倉庫一杯の龍の爪でしたからね、まだまだ出て来ないと思います。」
「でも食事には出て来るんだろ?」
「何回かに一度は出てきますが、それも決まって無くて。」
「会えるんなら伝えといれくれ、和弓って作れないかって。」
「ワキュウってなんですか?」
「弓の種類だ、和弓って聞いても知らないようだったら作れないから諦めるよ。」
伝言だけ伝えてさっさと鍛冶屋を後にする。
今日の目的のためマーメライの冒険者ギルドにやって来た。
マーメライメント王国の城に招かれているため同行するギルマスのメリアーナを誘いに来たんだが、もう城からの迎えの馬車が待っていた。
メリアーナもドレスアップしていて別人のようだった。
少し見とれていると、今回巻き込んだことについて文句を言われて、いつものメリアーナだと思ったら我に返ったよ。
水晶の事は後回しだな。
私達は馬車に乗り城へ向かった。
城に着くとすぐに晩餐会場へ通された。
流石に海産物で有名な国である。昔は東の国とも交流があったと噂される国でもあり刺身もあり、美味かった。残念だったのは醤油が無いことだった。
魚醤では流石に口に合わなかった。塩と透明なポン酢の様な物があって刺身には合うもんだとは思った。でも醤油で育った日本人の口には物足りなかった。
こっそり醤油を出して私だけ醤油で食べていたら隣に座っているメリアーナにも見つかり怒られた。ちょっと分けてやったら「なんで自分だけこんなに美味しく食べてる訳?」だって。ちゃんと分けてやったよ。良い服着てるんだから気を付けてね、垂れるとシミになるよ。
食事も良い雰囲気の中で粗方終わり、それまでは他の貴族や臣下の者と話していた王が話し掛けて来た。
「我が国自慢の料理は如何でしたかな、タロウ殿。」
「ああ、美味かったよ。流石は海が自慢の国だな、刺身も良かったがこの蒲鉾だな。私は練り物が好きなんだよ。」
「それも我が国自慢の一品である。のぉ大臣。」
「左様に。昔、東の国より伝来したものを、そのまま受け継がれてきたものです。」
確かに一番日本を感じる食の国だよ。
「前に来た時に言っていた勇者と東の国の情報ってどんなのがあるんだ?」
「大臣。」
「は、勇者様に関してはこの国では召喚された例がありませんので、情報としては中央の勇者様の事を差します。元来この国もバンブレアム帝国の一領地でした。今から850年前に独立をして今のマーメライメント王国となったのです。ですから勇者様の事はあまり伝承として残ってはいません。先日の短剣についても勇者様の意思を継ぐ者という伝承が残っているだけです。」
まったく継ぐ気はありません。冥王も結局倒してませんから。
『荒ぶる海の神が嵐を巻き起こす刻、刀を携える黒髪が出で立ち短剣が光り凪へと変えらん』
「これが我が王家に伝わる伝承です。恐らく海王を倒した後から伝わった伝承だと思われます。」
バンブレアム帝国の伝承とは違うな。ちょいちょい私と被ってるところはあるが東の国の者は皆黒髪だったしね。刀も持ってるだろうし。
確か海王に関しては、水龍だった時のカインに命じてここの入り江を封鎖してたんだよな。どういう意図があったのか分からないが、10年は封鎖してたはずだ。
人間と敵対するってことなのか? カインも使者から命令を受けただけって言ってたしな。しかし、一度海王は倒されてるんだよな、同じ奴なのかな?
「東の国については?」
「大臣。」
「は、東の国とはおよそ150年前までは交流があったというのは分かっております。我が国の文化もバンブレアム帝国よりは東の国の方が影響が多い部分もあるぐらいです。交流が無くなった原因として調査隊が何度も出ていますが何も分かっておりません。帰って来た者がおりませんので。」
私の持ってる情報以上のものは無いか。
「ただ、当時この国に来ていた東の国の者がそのまま帰れなくなりこの国で永住した子孫がおりますので、東の国の文化は多く残っております。」
そんな子孫なら『壁』の秘密なんて知らないよな。150年前に何かがあったんだな。
「150年前に何か大きな事件は無かったのか?」
「特にはございません。150年前と言えば勇者豊作期と言われた時期でもあります。魔物被害も大きなものは無かった時期です。」
「ブレイブヒーロー・ハーベスト?」
「はい、北の勇者が25人、南の勇者が30人、中央の勇者が10人。合計65人の勇者が召喚されていた時期があるのです。その時期が勇者豊作期と呼ばれております。」
そんなに呼んで何がしたかったんだ? 四王はその時期には倒されてないんだろ?
『壁』ももしかしたら勇者の能力なんじゃないのか? その可能性はあるよな。
でも、勇者の能力にしたら強力過ぎるか、今までの勇者を見る限りそこまでの力は無いよな。
『壁』についても聞きたいが、ここじゃ人が多すぎるな。多分知らないだろうし。
「あ、そうだ。この辺りにブドウの木か大麦か大豆は無いか?」
大豆も聞いておきたいんだよね、味噌とか醤油とかできそうだし。
「ブドウと麦は北のアーバンライド共和国かツンザンブレーン連邦にありますが、大豆は野生の物しかありません。この国周辺でも穫れるでしょう。たまに市場でも出回っているようです。」
「わかった。」
晩餐会も終わり、冒険者ギルドに馬車で送ってもらった。




