第137話 冥王
私が1番目に入りたかったのだが、薬を渡すのを今思いついたので扉の前に立って入る順番にHP全回復薬を5個ずつ渡してやった。
1番目はケルベロスであるミルキーから。続いてムツミで、後は適当。私は最後に扉に入った。
扉を潜って転送された先はダンジョン内の様な雰囲気の場所だった。
――【冥界転送門】解析完了しました。
え・・・・。なんとなくそんな気はしてましたが、やっぱりですか。
行き先も予想通り冥界だったんだな。
私の前に入ったのはココアだが、前にいるな。
どうやら転送門用の建物だったみたいだな。こっちでは転送門の為に1部屋だけの建物を作ってたみたいだ。
建物から出てみると全員が待っていた。目の前には草原があり、その先には森が広がっている。後で聞いたがここは島らしい。
ただ見た目は雰囲気が悪い。空がどんよりしているからだろう。同じ景色でも天気で違うもんな。
ミルキーが声を掛けて来る。
「タロウ様、間もなく弟が迎えに来るようです。少し待っていただけますか。」
「弟? ここは冥界のようだが、ミルキーに弟がいて、その弟が迎えに来る?」
「はい、ここはエリュシオンという冥界の島です。ここに冥王様がいらっしゃるんですが、弟のオルトロスと連絡が取れました。今タロウ様を迎えにこちらに向かっています。」
「迎えに来るって、それは友好的と受け取っても構わないのか?」
「はい、大丈夫だと思います。冥王様もタロウ様にお会いしたいと伺いましたので。」
ちょっと待て先に整理だ。まずなんで私は冥界にいてるんだ? ダンジョン核が欲しいという流れから流れのままに来てるよね。
冥王? 全く用事はありませんが。真の勇者の流れになってないか?
一応覚悟はしてきましたが、友好的っていう設定は無かったよ。
帰りたくなって来た。今なら帰れるんじゃないか? あれ? あれって犬? 猛ダッシュで走って来てますが。頭が2つ?
ミルキーはケルベロスで3つだから弟は2つか。よくできた話しだ。
犬にしては大きいが2メートルぐらいでミルキーがケルベロスになった時より小さいな。
「タロウ様、迎えが来たようです。」
遅かったか。こうなったら会うだけ会って、すぐに帰ろう。目的はダンジョン核を貰えないかって聞くだけだな。断られたらすぐに帰るぞ。貰えてもだけど。
オルトロスが私達の前で止まった。
ミルキーの話を聞いていたので誰も武器は出してない。
「お初お目にかかります。タロウ様はどちらでしょうか。」
「私だ。」
「初めまして、冥王様の使者として参りました。ご同行頂けますでしょうか。」
「冥王の目的はなんだ?」
「それは聞いておりません。ただ、丁重にお連れせよと命令されております。」
行かないと何もわからない訳か。ここまで来たら行くしかないか。
会いたい、丁重に。この2つから友好的だと思うんだが、冥王だろ?
人類の敵、勇者の宿敵って奴じゃないの?
嫌だけど行くか。
「ミルキー、エース、ジョーカー、馬車を出して引っ張ってくれ。」
皆それぞれ馬車に別れて乗り、先導役のオルトロスに付いて行った。
海に出て馬車2台分ぐらいの細い岩だけでできた道が崖の上を続いてる。天然の陸橋の様になっていた。その道を渡ると小さな島があり、そこに城があった。周りは海で囲まれているようだ。
流石に冥界と言うだけあって気味悪そうな所だった。
下も海のように見えるが違うのかもな。黒っぽいし。
オルトロスはそこに向かっていた。
城に着くと全員馬車から降り城内に通される。
全員で広い部屋に通された。
テーブルがあり、今から食事でもするのかと思わせる雰囲気の部屋だった。
私達を案内するとオルトロスもいなくなった。
部屋にはメインの扉があり、両横の壁にも1つずつ扉が付いている。
10分待ったが誰も来ない。
20分待っても来ない。
――警告する程ではありませんが、精神攻撃を受けています。
えっ! 精神攻撃? それは警告される程だろ。誰からだ?
――それはわかりませんが、全員のレベルより低い者よりの攻撃なので問題はありません。我々に対して悪意ある精神攻撃でしたので報告しました。
全員より低いってチビが昨日でLV34になってるけど、それより下? レベルってよりは、トータル的なステータスのレベルと考えた方がいいな。
扉を確認すると、やはり鍵がかけられている。
「皆! 気を付けろよ! どうやらここは敵の城みたいだ。全部破壊でいいぞ!」
有無を言わさず精神攻撃。しかも騙し討ちの様な招き入れ方。大っ嫌いだ。
それから城が壊れるまで30分掛からなかった。
えー・・・、城が壊れた? 全部破壊ってこういう事になるのか?
バンブレアム帝国の城よりは小さかったが、それでも城だぞ?
避難してる奴が崖っぷちで固まってるけど、あいつらぐらいは助けてやるか? そんな義理は無いけどあいつらまで排除してしまうと悪い気がするよ。ここまでやってしまった後だけど。
「中止だー! もういいぞ!」
私の声で皆が止まり、私の所まで皆が集まって来る。
皆どや顔なんですけど、確かに命令はしましたが、城がここまで無くなるとは思いませんよ。部屋の中を全部破壊してしまえーぐらいのノリで言っただけなんですが。
初めのドラゴン系の皆さんのブレス攻撃で城がほとんど無くなりましたからね。
一番ショボかったチビが一番偉そうにしてますけど。
後は残ってる者を排除するだけ。皆さんいつもダンジョンで鍛えてますからね、いつも通りって感じにしか見えなかったのは私だけでしょうか。
「えーと、ご苦労さん。見事に城が無くなったな。で、あそこにいる奴らって何者だ?」
「さあ? 誰でしょうか、城の者だとは思いますが大半は排除か海に落とされていますから逃げ遅れた者でしょう。」
ココアさんも興味なくなったんだね。もう壊すものも無いもんね。
誰かが話しに行かないといけないが、話しが出来る者ね・・・いないね。私が行くしかないか。
「ミルキー、あそこに行くから付いて来てくれ。お前だったら顔見知りもいるかもしれないから知ってる者がいたら教えてくれ。」
「わかりました。」
ミルキーを帯同させたが全員付いて来る。
別にすることも無いしね、そりゃ来るか。
崖っぷちで固まっている者達の方へ歩いて行くと、全員武器を構えて身構えている。
「まだやる気なのか? 付き合ってやってもいいが、私達は売られた喧嘩を買っただけだぞ。別に殲滅する気は無いんだ。降参するなら受けてやるぞ。」
その言葉を聞き武器を身構えていた者達は武器を放棄して行く。
中央にいる子供だけが剣を捨てない。そしてそれを誰も止めない。
「そこの子供、お前だけは降参しないんだな? 私の仲間は容赦ないぞ?」
――報告、先程と同じ精神攻撃を受けています。その子供が術者です。
「お前か!! 悪さをしてるのはお前か!」
大声で怒鳴ってやった。
手は出さないが怒るときは子供でも容赦はしない。いや、躾の為にも怒ってやる。
子供は剣を落とし後ろに倒れて行く。
私は【威圧】を持ってませんが。そこまで怖かったのか? それならさっさと降参しろよ。
周りの者が子供に駆け寄り声を掛けている。
「冥王様!」「冥王様」「大丈夫ですか」「冥王様?」・・・・・・
はい? こいつが冥王? この子供がか?
あ、ホントだ冥界の王って称号が付いてるわ。
【鑑定】
名前: ハデス♂55018歳 冥王LV77
HP655 MP696 攻撃力565 防御力456 素早さ432
スキル:【再生】【誘惑】
ユニークスキル:【統率】【冥界創造】【転送】
称号: 冥界の王
精神攻撃もユニークスキルじゃなくスキルだったんだ。尚更弱いはずだよ。
こいつらは【統率】あるから逆らえないのか? でも冥王がこんなに弱くていいのか?子供でも無いし。
うちの連中でも、こいつに負けるのって誰もいないぞ? 弱すぎだぞ冥王
。
状態:気絶か、回復させて事情を聞くか。
いきなりの精神攻撃で頭には来たが、城をここまで破壊したら怒りもどっかに行っちゃったね。弱い者いじめしてるみたいだ。
逆にゴメンって感じだ。
冥王に回復魔法を使ってやる。冥王は意識を取り戻した。
「う、うーん。」
「冥王様」「冥王様」「冥王様」「冥王様」・・・・・・・
「奴らは帰ったのか?」
取り巻きは何も言わない。
「おい子供、お前が冥王か。まだやるのか?」
「ひっ! まだいるではないか。誰かなんとかいたせ。」
「そりゃ無理だろ、周りにいる奴らは私達より弱い。私達に勝てると思ってるのか?」
「・・・・・。」
「なんで攻撃して来たのか知らないが、売られた喧嘩は買うぞ。まだ私達に喧嘩を売るのか?」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんな・・・・・・・
冥王はずっと謝り続ける。
――報告、再度精神攻撃を受けました。
「・・・・・。」
懲りないね、こいつも。
どうやったらこいつを諦めさせられるんだ? だから真の勇者は封印にしたのか?
でも、他の魔王なんかはやっつけたみたいだしなぁ。
「おい! お前の精神攻撃は私には通用しない。だいたいお前は1300年前に封印されたんじゃないのか?」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんな・・・・・・・
まだ謝り続けている。
精神攻撃もずっと続いてるようだ。
もうやっつけちまってもいいかな、面倒くさくなってきたよ。
私は刀を抜いた。チャッ
「ひっ!」パタン。冥王はまた気絶した。
「・・・・・。」話しができない。
「誰か話しが出来る者はいないか? このままじゃ冥王を倒すしかないぞ?」
「それは困ります。冥王様を助けてください。」
「お前は?」
「冥王様の腹心ミノスです。」
「ミノスか、こいつずっと私達に精神攻撃をしてくるんだが何故なんだ? 話しもできないぞ。」
「それは冥王様のいつものやり方です。一度精神支配した後に話しを聞き解放するのです。」
「でも、私達には通用しない。こいつにはそれがわからないのか?」
「今まで精神支配が出来なかったことが1度しかありませんので。」
「それって1300年前の勇者か?」
「そうです。その時は謁見の間が破壊されただけでした。」
勇者も怒ったんだ、そりゃいきなりの精神攻撃は頭にくるよな。
でも城を全壊させる程でも無いんだよな。
「城の破壊はちょっとやりすぎたとは思ってる。こいつが冥王なら話しができないか?」
「ちょっと・・・・ですか。あなた達に逆らうと冥界全体が滅ぼされそうです。何とか冥王様を説得しますので、時間をもらえませんか?」
「どのぐらいだ?」
「せめて1日もらえませんか?」
「1日はダメだ長すぎる、10分で説得しろ。できなければ殲滅する。」
嘘だけど、これぐらい言わないと本気で説得するように見えないんだよな。姑息な罠とか張りそうだし。
後ろの皆さんは嬉しそうな顔してますけど、殲滅なんてしませんからね。
冥王の取り巻きが集まって相談している。
冥王を私達から見えないように取り囲んだ。何かが淡く光ったようにも見えた。
「10分経ったぞ、説得できたか?」
「いえ、冥王様は結界の中に封印しました。これで500年は誰からも干渉されません。私達は滅びるかもしれませんが、冥王様がいる限り冥界は何度でも復活しますから。」
【冥界創造】ってやつか。別にいいんだけどね、元はダンジョン核の相談に来ただけだし冥界を破壊する気も無いし。
でも、全部が一方的過ぎて納得はできないよな。
「カイン、ムロ、お前達の【結界】で解析できないか?」
「御意。」「やってみる。」
2人は冥王に張られている結界の解析をしたが結界を破ることはできないようだった。
「申し訳ございません、力及ばずできませんでした。」
「僕もダメだった。結界ではあるみたいなんだけどなぁ」
「わかった、ちょっとどいてろ。」




