第128話 森の権利
ブロースパイダーはアーリー達が食べると言ってたので、今まで獲っていた別の魔物をそれぞれの木の周りに4体ずつ出してアーリーの所に全員で戻った。
アーリーは人型になって迎えてくれた。
なんだろ。母親的な魔物が人型になると何故私のストライクゾーンになるんだろう。
年齢的な見た目は皆より少し上ってぐらいなんだが物腰というか仕草というか見た目も雰囲気もいいんだよな。こういう感じで人間の中で近いって言ったらメリアーナが一番近いか。でも奴は仕事一筋って感じだからな。
それどころではないか、報告だな。
「アーリー、木を4本植えて来た。餌になる魔物も何体か撒いて来たが、後の事は頼むぞ。」
「かしこまりました。」
「今日だけで大量のブロースパイダーを皆で排除したんだが、必要だろ?どこに出せばいい?」
「まぁ、それはありがとうございます。ではこちらでお願いします。」
食糧庫の部屋があり、満タンになるまで出してやった。第2倉庫と第3倉庫まであったがすべて満タンになった。
残りは収納の指輪を渡し、外に出て渡してやった。
必須アイテムは必要ないだろうけど、仲間の証だ。全種類渡して説明してやった。
「ブロースパイダーには勝てるだろうけど、またバロースパイダーが出て来たらどうするんだ?勝てるのか?勝てないのなら『念話』で私達を呼んでくれてもいいからな。」
「もう今なら大丈夫でございます。覚醒した事でアーミークィンになりましたので。」
「アーミークィンって今までと同じじゃないのか?」
「はい、違います。この森のアーミー達の女王でございます。」
どういう事だ?アーミー達?
「アーミー達ってなんだ?」
「説明いたしますね。軍団を作る魔物は、弱い魔物が強い魔物に対しての対抗策でございます。」
「うん、そこはわかる。」
「軍団を作る魔物はアーミーアントだけではございません。」
「そうだろうね。」
「この森にも軍団を作っている魔物の種類は多いのです。アーミーラット、アーミードッグ、アーミービー、ホーネットアーミー、アーミーダブなど他にもたくさんいます。他にもアーミーアントの巣はありますし、その長たる者になったのです。」
「それは凄いな、でも高ランクの魔物には敵わないんだろ?。」
「軍団と群れでは統率力が違いますので、Aランクまでなら負けることはございません。それもこれもタロウ様の従者になったおかげでございます。この森の事はご安心ください。」
「大したもんだ。でも援軍はいつでも出すから遠慮なく知らせてくれ。」
あんまり子供を増やすと人間からの排除対象になるから気を付けろよと言ってアーリーとは別れた。
どっちに転送ポイントを作ろうかと悩んだが、米の木の方に作っておいた。
帰りの森の道中もブロースパイダーが残っていたから通るのに邪魔な物だけ排除しながら進んだ。
残りはアーリー達が頑張るだろ。
バンブレアム帝国の冒険者ギルドに帰って来てオーフェンに報告した。
「完了だ、アンプラリアが大量発生していたよ。」
「そうだったんですね、それは厄介な魔物がいましたね。排除は・・・できたんですね。当然でしょうね、わかってますよ。」
「何1人で納得してるんだ? それはいいが、あそこの森って誰の所有なんだ?」
「誰もいないと思いますが。バンブレアム帝国領内ではありますが、誰も管理を任されていないと思いますよ。」
「じゃあ、買えるのかな?」
「それは国の管轄なのでわかりませんが、先日まで毒に侵されていましたし今なら爵位を持って無い方でも買えるのではないでしょうか。買うんですか?」
「買いたいと思ってる。いくらぐらいするんだろうな。」
「安いとは思いますが、広大な場所ですからね。金貨2000枚ぐらいはするのではないでしょうか。」
え、それぐらいなら買えるな。アーリーや米の保護にもなるし買ってしまおうか。
「どこに行けば買えるんだ?」
「城です。」
「また城か。もういいんだがなぁ。」
「でも行かないと買えませんよ。」
「そうだな。」
「タロウさん、Sカード冒険者についてはアンプラリアが大量発生していたのですから諦めてはいますが、何か遺品になるようなものは落ちてませんでしたか?」
「あっ!! 忘れてた!」
アーリーが保護してるって言ってたよな。忘れてたよ。
「どうしました? あったのですか?」
「いや、たぶん生きてるよ。」
「どういうことですか?」
「保護されているって聞いてたんだが見て来なかったな。明日にでも行って来ようか。」
「保護されてるんですか。良かったです。生きているのなら彼らもSカードです、自分達で帰って来るでしょう。」
「それでいいのか?」
「結構です。」
意外に冷たいんだな。ここのエースだろうし期待も大きいんだろうな。
さっき遺品の確認もしてきたし、冷たい訳でもないんだろう。ホッとした顔もしてたしな。
冒険者ギルドを後にしてアジトの屋敷に戻った。
今日も色々あったな。
帝王か、短剣にはそんな秘密があったんだ。
でもなんで私が持って光るんだ?ここの王族と血縁関係にはないぞ?
異世界関係者だからか? それなら勇者トオルも光るだろうし、奴は光らなかったよな。
最後は逃げて自爆したけど。あ、あれは私のせいでもあるか。
【通過】を盗ったからな。あいつは捕えられてどうなるんだろ? 勇者には甘いはずだし処刑ってことにはならないだろう。
帝王以外にも魔王、海王、冥王の4王の討伐の話もあったよな。
今もいるんだろうけど表立って人類を蹂躙するって感じでも無いしな。
この辺りは仲間の方が詳しいかもな。
ジョーカーも何か話があるって言ってたけど、急ぎでないなら明日にしてくれって断ったんだよな。今日は色々あったから悪いけど後回しにさせてもらったよ。
アーリーを仲間にして米の件も何とか自前でできそうだし、いい気分転換にもなったよ。
城巡りも終わったし、あと残っているのはマーメライメント王国か。
ロンレーンの鍛冶屋も最近行ってないな。薬屋ギルドのフェリアスさんも調合方法が分かったのかも気になるし纏めて行ってみようか。
エンダーク王国のアンジェラード伯爵は勇者召喚の事を教えてくれるって言ってたしな。
飯屋のその後も気になるし。他にも何かあったような気もするな。
やることがドンドン増えて行くな。
今のところ情報もあまり進展が無いし、やれることをやっておこうか。
まずは明日、森が買えるかどうかをバンブレアム帝国の城で聞いてからだな。
翌日、朝食の終わりにジョーカーに声を掛けた。
「ジョーカー、何か話しがあるって言ってたな。今でいいなら聞こうか?」
「宜しいですか、お願いします。」
「で、どんな話しなんだ?」
「はい、ちょっと申し上げにくいんですが、私とエースにはもう1人兄弟がおりまして、その妹の事なんですが。」
「なんか言いにくそうだな、なんでも構わないぞ言ってみろよ。」
「はい、ありがとうございます。その妹なんですが、先日久し振りに念話で連絡が来まして最近ダンジョンにハマってるようなんです。」
「お前達と一緒じゃないか。」
「ええ、そうなんですが、あまり自慢をするものですから私が行ってるダンジョンの難易度は高いぞですとか、私の持ってる武器は凄いぞとか負けじと言ってしまったんです。」
「あー、なんかわかった。それでお前は浮遊城のダンジョンに妹を連れて行きたい訳か。」
「お察しの通りです。いいでしょうか?」
「部外者はあまり好ましくないが、お前とエースの妹ならいいか。レベルはどうなんだ?うちのダンジョンでもクリアできるほどなのか?」
「それは無理です。1階層もクリアできないでしょう。弱いんです。」
「じゃあ、ダメじゃん。お前は妹を殺す気か?」
「いえ、そういうつもりは全くありません。ただ、口が達者なものですからこちらもついムキになってしまって。」
兄妹ってそういうところはあるよな、わかるよ。
「その妹はどこにいるんだ?」
「コーネライ湖です。」
「え? お前達が仲間になった時いなかったじゃん?」
「あの時は湖の底にあるダンジョンに籠ってたんです。」
「あの時も籠ってたんならお前の妹っていつからダンジョンに入ってるんだ?」
「もう10年は入ってると思います。」
ダンジョン内にいたんなら私の声も届かなかっらというのはわかるが10年入りっぱなしって。
「10年もダンジョンに入ってるんなら相当強くなってるんじゃないのか?」
「いえ、あそこのダンジョンはFかGクラスの魔物しか出てきません。10年頑張ってもレベルも10上がるかどうか。最近ようやくダンジョンマスターを倒したらしくダンジョンマスターキラーになったことを自慢してきて煩いんです。」
そんなダンジョンに10年?確かに弱そうだ。
しかし、そんなダンジョンでもダンジョンマスターキラーって称号が付くんだ。
でも、ダンジョンがあるのか。うちの所有物にできないか? 森を買うと湖も付いて来るだろうし、あとはこいつらの許可を貰えば。
「そのダンジョンってイチジロウに改造してもらって、うちの連中で使うことってできないか?」
「それはいいですね! 大賛成です! エースもそう言うと思います。」
よし、ダンジョン改造の許可はもらったぞ。あとは購入するだけだな。
「ボクも賛成だよい!」
え? お前も聞いてたの? 食堂だからね。
「イチジロウ、わかってるとは思うが。」
「はいー! 内緒ですよねい?」
「ああ、そうだ。」
ジョーカーとココアを連れてバンブレアム帝国の城までやって来た。
ジョーカーも馬になれるから今日はリクを連れて来なかった。
ダンジョンの話になるから連れて来るのは少ない方がいい。
従者の龍系で馬になれないのってクィンだけなんだよな。馬に成れないクィンがおかしいのか皆が成れるのがおかしいのか。魔物の基準はいつもながらわかりません。
城門の受付で土地購入の相談をしたいと尋ねた。
名前も伝えて待っていると案内係りがやって来て王様の所に通された。
なんで?
王様は関係ないだろう?
執務室の様な所だった。私達は部屋に入り挨拶をして要件を言った。
「こんな事、王様に相談するのかわからないがここに通されたからな。コーネライ湖のある森一帯を購入したい。」
王は目を瞑り、少し考えた後答えた。
「コールの森だな。わかった、あそこの森は其方の管轄領とする。」
「管轄領って私はただ購入したいだけなんだが。」
「そなたはもう公爵になっておるからどこの管轄領にするか決めかねておったのだ。昨日はいらぬと聞いておったしの。希望の管轄領があるのならそれでよいではないか。」
「今、公爵って言わなかったか? 公爵は世継ぎの爵位だろ? なんでそんな事を勝手に決めるんだよ。帝王にはならないって言っただろ?」
「確かに公爵は世継ぎの爵位だが、王にならぬ者の方が多い。別に爵位などどれでも同じではないか。国政には関わらぬのだろ?」
「確かにそうだけど。なんか騙されてる気がするなぁ。」
「ふぉっほっほっほ。コールの森をタロウ公爵が管轄する。それで其方の土地になる。何か問題でもあるか?」
「問題だらけだよ。」
「ふぉっほっほっほ。あの森は其方が浄化してくれたとも聞く。其方が治めれば誰も文句は言うまい、希望者が多くて迷っておったところだ。丁度良いタイミングであった。」
「話しが早いのは私も嫌いじゃない。納得は出来てないがどうせ言っても聞かないみたいだし、そうしてもらうとするか。」
10分ほど待たされて準備ができると、表彰されるように賞状を読まれ卒業証書を入れる様な丸筒にその賞状を入れた後、丸筒ごと領地の管轄認定書を渡された。
ついでに勲章や公爵の任命書など色々渡された。もう騙されついでだ。
簡易的ではあるが、王自ら渡してくれた。
一応、税について聞いてみたが「いらぬ」と言われた。
結果、タダで貰った事になったが、タダより高い物は無いという典型だろと思った。
同じタダだけどこの前の飯屋のオゴリの話しとは全然違うね。
勇者トオルについても聞いてみた。
流石に今回は反省の意味も有り、1か月牢屋に監禁されるらしい。
これで当分あいつも来れないだろう。
もう城には用事が無いからジョーカーに馬車を引いてもらいさっさと森に向かった。




