第122話 野党のアジト
勇者トオルを利用しようとしたのは本当だろう。
悪魔はトウベイ・スズーキに化けて勇者トオルに近づいたが私に捕まった。
そんな私を仲間の所に行くように仕向けた。悪魔が6体もいれば人間など簡単に料理できると思ってたんだろう。
それが逆にやられたから焦ってるに違いない。何をするかわからないぞ。
娘にしてもさっきの奴の様に使い魔を使役して変身させてるならいいが、本物の娘だったら人質にされてるかもしれん。急がなければ。
ひとつわからないことがあるが、今は先に確認だ。
娘を送った宿に着いたが娘はいなかった。宿の者に聞いたが行き先は聞いて無いと言う。
急いで詰め所に行くとまだトウベイ・スズーキがいた。娘もここに居た。
2人を【鑑定】したが人間だった。
よかった、予想が外れたか。
慌てて飛び込んできた私をトウベイ・スズーキも娘も詰め所の連中も不思議な顔をして見ている。
サンゼルマン子爵の屋敷に行った騎士団も帰って来て私を見ている。
「タロウ様、どうしたんですか?」
騎士団長が尋ねて来た。
「どうやら私の勘違いだったようだ。それでトウベイ・スズーキは釈放されるのか?」
「はい、今釈放の手続きが終わった所です。これですぐに釈放されます。」
「それは良かった。少しトウベイ・スズーキと話してもいいか?いや、釈放なら飯でも食べながらがいいか。もう連れていってもいいのか?」
「どうぞ結構です。」
そうなんだよな、あんなに自害してばかりの奴だし、勇者トオルの時に短剣で平伏した奴が悪魔なんておかしいとは思ったが、やっぱり違ったな。
じゃあ、さっきの悪魔は嘘を付いたのか?それは無いと思う。じゃあ、最後の悪魔はどこに行ったんだろう。なぜトウベイ・スズーキに化けていると言ったんだろう。
昼食には遅いし夕食には早いが飯の方がいいだろう。
食堂を見つけ3人で入った。
「まずは改めてお礼を言わせてください。娘を助けていただきありがとうございました。私の事も色々とご尽力くださり申し訳ございませんでした。」
横で娘も頭を下げていた。
「それはいいんだ、頭を上げてくれ。周りが見てるだろ。」
頭を上げたトウベイ・スズーキは涙を流していた。
「お前これからどうするんだ?行くところはあるのか?」
「当てはありませんが、ここは中央の都市バンブレアム帝国です。何とかなると思います。」
「お前って貴族だったんだよな?」
「はい、元貴族です。妻に裏切られて娘と2人エンダーク王国から追放されました。」
うわっ、そういう話しは聞きたくないなぁ。聞くとお節介を焼いてしまうかもしれないし話題を変えよう。
「行くところが無いんなら、私に雇われないか?宮廷作法を教えて欲しいんだ。報酬は弾むぞ?」
「それは願っても無いお話です。是非こちらからお願いしたい。」
「ただ、この国には私は家を持って無いからなぁ。明後日から色んな国に回るので2日で覚えられるだけ覚えたいんだ。その後はそうだなぁ、マーメライの町に屋敷があるからそこで住むことにしないか?」
「そこまでしていただけるのですか。私で役に立てることなら何でも致します。」
「契約成立だな。じゃあ、明日からよろしく頼む。それと聞きたい事がある。」
「なんでしょうか。」
「勇者トオルの所には悪魔に頼まれて潜入したんだよな?」
「左様です。」
「悪魔はいなかったのか?」
「いました。」
「どんな奴だ?」
「私に化けていました。」
「え? お前が2人いたってこと?」
「そういうことです。」
「野盗の連中は何も言わなかったのか?」
「ええ、別に誰にも何も言われませんでした。」
そこまでは見て無かったな、っていうか何で誰も言わないんだ?どうなってんだ、ここの奴らは。
先に潜入させて同じ奴に変身すれば潜入は簡単だろうが、変に思われるだろ?そんな考えは無いのか?それを受け入れる野盗達もどうなんだ?理解できない事を考えてもわからないか。アジトには勇者トオルもいるのかな?
「勇者トオルっていつも急に出て来るんだが、どこにいるか知ってるか?」
「勇者様は城にいらっしゃいます、私達は町の外のアジトにいましたが。」
「そのアジトの場所を教えてくれるか?」
「ええ、もちろんです。」
食事を終え娘を宿に置いて、私とトウベイ・スズーキは町の外に出た。
『念話』でリクを呼んで馬の姿で町の外で待っててもらい馬車を引っ張って貰った。
もう日が暮れかけていたので野盗のアジトに急いだ。街灯など無いが暗くなってもリクや私は問題無い。途中で日は暮れてしまったがトウベイ・スズーキが方向は覚えてくれていたので、偶に光り魔法で方向だけ確認しながら野盗のアジトに向かった。
アジトの近くだと言われてサーチで確認した。確かに大勢の人間が確認できた。
トウベイ・スズーキには絶対馬車から降りないように言ってリクと2人で野盗のアジトに向かった。
野盗のアジトは街道から少し森に入った所に少し大きめの家があった。
街道からはうまく死角になってて、街道から見ても家の明かりが見えない場所に建っていた。
見張りも無く窓から家の中が覗けた。
無防備すぎるな。罠でもあるのか?
「あれ? とーちゃん、さっきのおじさんがいるよ?」
「本当だ、あれが悪魔だな。」
【鑑定】で確認するとやはり悪魔だった。さてどうするか。野盗も一緒にやっつけてもいいんだが、人は殺したくないしな。
「あいつだけを捕えるか排除したいんだがなぁ。」
「そんなのおいらに任せてよ。」
「できるか。罠があるかもしれないから気を付けるんだぞ?」
「わかってるよ、ダンジョンの罠で鍛えてるよ。」
リクはそう言うと【隠形】で気配を消しアジトに入って行った。横にいる私でも見失いそうになったぐらい見事な気配の消し方だった、見事なもんだ。
罠は無かったようだ。
リクは悪魔の後ろに回った途端すかさず刀で首をはねた。問答無用であった。
首が床に落ちる前に悪魔を収納した。
容赦無いな。
でもグズグズしてたら野盗共が悪魔に人質にされるとか、殺されてたかもしれないから先程のリクの行動は正解だな。
リクが野盗のアジトに入って悪魔を排除して戻って来るまで10秒ぐらいしか掛かって無いんじゃないか?リクは暗殺者にもなれるぞ。
町に戻りトウベイを宿で降ろして詰め所に寄った。
野盗のアジトの場所を騎士団に伝えてジャンの背中のアジトに帰った。
まだ皆食事中だった。
食事は大体イチジロウが作ってくれるが皆作れるし、私もここで食べないこともあるから待たずに食べるようには言ってある。
先にココア達の依頼の件を聞いた。
討伐依頼が2件だけだったので、すぐに終わったらしい。
エンダーク王国の食堂のダンジョンの件がどうなったかも確認した。
ダンバカ達は1時間も掛からず帰って来たそうで、全く大したことが無かったらしい。
「まさかとは思うが、ダンジョン改造なんかしてないだろな。」
イチジロウが付いて入って行ったから何かやったんではないかと怪しんでたんだ。
全員が目を背ける。
やったんだな。はぁ、どうしてお前達はそうダンジョンの事になると団結力が高まるんだ?
「おいお前達!」
全員ビクッってなる。イチジロウなんか飛び上がってた。
「あそこは私達のダンジョンじゃないからダメだ。別の所で作ってやるから元に戻せ。」
ダンジョン核がもう1つあるからね。
ケンジの所で1つ、デルタの所で1つ、アイスゴーレムの所で1つで3つ取ってたけど、世界樹と洞窟ダンジョンで2つ使ったから後1つ持っている。
皆こっちを向いて目を輝かせる。
「ホント?」「嘘じゃないよね」「絶対!」「マジ?」「ほんとにー」「やったー・・・・
「その前に、やっておくことを言うぞ。」
もうダンジョンがかかってるから皆の目の色が違う。食いつき方が半端ねー。
「最近生まれた奴らってどこのギルドにも登録してないだろ?そこでだ、全員各地に散って冒険者ギルドのCランクカードを取得して来る事にしよう。条件もあるぞ。1つ目は、どこに誰が行くかは私が決める。2つ目、ウルフォックスの名前は出さない、ということはGランクからになるぞ。3つ目が、当たり前だが自分達が魔物であることがバレてはいけない、勿論必須アイテムもバレてはいけない。と言うのが条件だ。このミッションが完了したら、もう1つダンジョンを作ってやる。」
指を折りながら話してやる。
みんなギャーギャー言い合っている。できないだの頑張れだの余裕だだの。
もうやる気でいる、私が言うとやるのは決定になるんだな。反対する者はいなかった。でも、こいつらなら余裕だと思うな。
サジも持って無いから一緒に行かせるとして、3勇者をどうするかだな。
実力的には問題無いからウルフォックスでいいか。鎧にもウルフォックスのロゴが入ってるしね、勇者だとバレたら面倒だもんな。
「主様、私からも1つお願いしたい事があります。」
お?なんだ珍しいな。
「なんだココア。」
「主様の【クロスランド】で誕生した者達は皆主様の事を『父ちゃん』と呼んでますが、如何なものかと思います。主様から言っていただけませんでしょうか。」
それは私も思ってたんだ。辞めさせようと思った事もある。でも、それをするとドレミまでが『ご主人様』とか『タロウ様』って言うようになるんだろ?だから躊躇してたんだよ。
ドレミの『とーちゃん』は捨てがたい。
でもララとロロの『兄ちゃん』は許可したからなぁ。
よし!一度線引きをしよう、いい機会だ。
「よし決めよう。ヒマワリとヒナタとリクはもうずっと呼んでるから許可しよう。それ以外で【クロスランド】で生まれた者達は『タロウ様』と呼ぶことにする。」
「「「「「「はーい。」」」」」」
え? 軽っ! 私は結構悩んだんだがな。
「これでいいかココア。」
「はい、ありがとうございました。」
ココアも納得してくれたようだ。




