第113話 商人ギルド
西門に向かって歩いて行くと、色んな店が建ち並ぶ商店街に出た。
服屋、道具屋、八百屋、雑貨屋、食堂、食堂でも魔物の肉専門店や海産物専門店、ファストフードのような店、酒屋もあれば酒場もあった。同じような店も幾つもある。幾つかの店は閉まってたが、店構えからすると夜だけの店なんだろう。元の世界ではよく行ったけどなぁ、こっちでも行きつけの店を作ろうかなぁ。とか考えながら商店街を抜けるとそのはずれに食堂があった。
ここの商店街は西洋風ではなく日本の店構えに似ている店が多かったが、この店は正に瓦屋根でドアでは無く引き戸の食堂だったのですごく気になった。
人の名前も日本風が多かったし、あだ名だけど。勇者召喚を多く行っている影響なのかもしれない。勇者はなぜか日本人が多いようだ。
その店がどうしても気になったし、昼時でもあったので入ってみることにした。
一膳飯屋というか大衆食堂だった。
昼には少し早いが昼の書き入れ時にも拘らず、客は1人もいなかった。
大丈夫かなぁ、不味いのか?客が1人もいないぞ。
「いらっしゃいませ。すみません、お客さん。今日も仕入れができなくて何も無いんです。申し訳ありませんが、また来てもらえますか?」
そう言われたが、私はメニューのお品書きを見て答える事ができなかった。
カツ丼、親子丼、海鮮丼、焼き飯、炊き込みご飯、おむすび・・・・・
ごはん?あるのか?親子丼って卵もあるのか?魔物の卵って割ったことが無いので分からないが、食べれるのか?
「このメニューって、今までは出してたのか?」
「はい。先々代の勇者様が持っていた能力で出来ていたお米ももう無くなりまして、どうすればいいのか困り果てているんです。もしかしたら、また実るかと思って店を閉めずにはいるんですが、別のメニューに変えようかと思ってるんです。でもうちの旦那が頑固者で中々変えてくれなくて。」
「詳しく教えてくれないか?勇者の力って?米はどこに実ってたんだ?」
「すみません、それを教えることはできません。それは当時の勇者様とうちの先々代との約束なんです。」
そういうのは教えてもらえないんだろうな、でも何とか知りたいな。
わたしなら何とかできるかもしれないが、それをどうやって伝えればいいんだろうか。
「私は冒険者なんだ。もしかしたら役に立てることもあるかもしれない。その気になったら冒険者ギルドに依頼してくれ。私の名前はタロウと言う。自分で言うのも変だが、これでも優秀な冒険者なんだぞ。」
「冒険者でしたか。そんな格好だからわかりませんでしたよ。」
最近はベッキーの店で買った服かユニコの作ってくれた服しか着てないからな。皮の鎧すら着ていない私は冒険者には見えないだろうな。
「私もご飯が大好きなんだ。私の故郷にもあったから協力出来ることもあるかもしれない。いつでも言って来てくれ。」
そう言い残して店を後にした。「旦那に相談してみます」とは言ってくれた。
どんな能力なんだろ?城に行けばわかるのかな?いやいや、今日はもう行きたくないぞ。
また今度だな。晩餐会にも招待してくれるって言ってたからその時にでも聞けるだろう。
店を出て少し歩くと商人ギルドがあった。
私は初めて見るが、ショーンとララとロロは商人ギルドの会員でもあった。
商人ギルドの前で何か揉めているようだった。
近付いて見てみると、猫の獣人が2人で何かお願いしているようだった。
物乞いでは無さそうだが、なんだろう?気になるな。野次馬根性もあるんだが、その獣人は2人とも子供の様なので気になったのだ。
皆、遠目に見ているので私も同じように見ていた。
「お願いします、私達を雇ってよ。丁稚にしてよ。お願いします。」
少し大きめの獣人の子がずっとお願いしている。小さい方も同じように「お願いしますお願いします」とずっと頭を下げている。
もう何人かに断られているようだった。
私はララとロロが来た時を思い出してずっと眺めていた。
最後の1人にも断られ、商人ギルドから出てくる者もいなくなった。今は昼だから出入りする者も中の者も飯でも行ってるだろうから、人の出入りはもう少し待たないと無いだろうな。
ずっと眺めている私と獣人の子の目が合った。
ツカツカと獣人の子がこっちに歩いて来た。
「あんたは商人?」
「いや違うぞ。」
「やっぱり違うんだ。」
残念そうに商人ギルドの入り口に戻って行った。
隣で見ていた野次馬が
「可哀相にねぇ、もう1週間ぐらいやってるよ。だれか雇ってあげればいいのにねぇ。」
私が立っていたのは服屋の前だった、服屋の人なんだろう。私に声を掛けて来た。
「そんなにやってるのか。」
「そうなんだよ、いつも最後はここの警備に追い払われるんだよ。そのやり方もだんだん酷くなって行くのに、あの子達もよく諦めないねぇ。でも獣人だから駄目かもしれないねぇ。」
この国でも獣人は差別されてるのか。
ここで私が出て行くと、また事が大きくなり従者が増えるってパターンになり兼ねない。
自重した方がいいんだろうな。でも、事情を聞くぐらいは・・・いやいや、んー。
やっぱり聞いてみるぐらいはいいんじゃないか?あんな小さな子が頑張ってるんだぞ?応援してやろうじゃないか。
私は獣人の子に近寄って尋ねた。
「なぁ、なんでそんなに商人になりたいんだ?もう1週間も頑張っているそうじゃないか。」
「なんでって私には夢があるんだよ。村でもあんたは【商才】があるから商人になった方がいいって言われてたんだ。だから村を出てこの町に来たんだよ。」
「夢? 夢ってどんな夢なんだ?」
「自分の店を持ちたいんだよ。店を持って大きくして稼いで私達を育ててくれた村の皆に恩返しするんだ。」
「いい話だな。村の人が育ててくれたのか?」
親は亡くなったんだろうなぁ。
「そうなんだ。だから私が稼いで皆に恩返しするんだよ。」
「親は亡くなったのか?」
獣人の子は頷いた。
「そうなんだ。だから弟のユウトが15歳になるのを待って村から一緒に出て来たんだよ。」
「よく2人でこの町まで来れたな。」
「買い出しに来る村の人と一緒に来たんだよ。その人はもう帰っちゃったから絶対に雇って貰わないと困るんだよ。」
必死になるわけだ。でもこの話し方ではな。もちろん丁稚として雇えば教育もするんだろうけど、獣人だしな。望みは薄いよな。
でも待てよ、商人の仲間か。欲しいとは思ってたんだ。従者にならなくても仲間ではいれるだろうし、私の道具って商人向きでもあるんだよね。収納に転移、これだけでも商売ができるよな。商売ができて町に拠点が作れたら毎回町の外に転送ポイントを作らなくて済むしな。
アリだよな。
「1つ私から提案があるんだが、話を聞かないか?」
「どんな話? 商人になれるんだったら聞くよ。」
「ああ、お前達を商人にしてろう。だがお前には教育も必要なようだ。私の仲間には商人ギルドの奴もいるから話を聞くか?」
「本当かい!? 商人にしてくれんのなら話を聞くよ!」
「先にギルド登録できるんならやってしまおうか、話はそれからだな。私の名前はタロウだ、冒険者をやっている。」
「冒険者?全然見えないね。私はピアって言うんだ。こっちは弟のユウト。ユウトは【鑑定】を持ってるんだ、だから商人向きなんだよ。」
ユウトは頭を下げた。
こっちも教育が必要みたいだな。言葉使いというより言葉選びからになりそうだな。
【鑑定】
名前: ピア
年齢: 16
種族: 獣人(猫)
加護:
状態: 普通
性別: 女
レベル:5
HP 35/35 MP:31/31
攻撃力:31 防御力:29 素早さ:36
魔法:
技能: 採取(3)・料理(5)・裁縫(3)・掃除(3)
耐性: 毒(2)
スキル: 【商才】0【変身】2
ユニークスキル:
称号:
名前: ユウト
年齢: 15
種族: 獣人(猫)
加護:
状態: 普通
性別: 男
レベル:4
HP 38/38 MP:25/25
攻撃力:28 防御力:30 素早さ:28
魔法:
技能: 採取(5)・料理(2)・掃除(1)
耐性: 毒(3)
スキル: 【鑑定】0【変身】1
ユニークスキル:
称号:
よし加護は付いて無い。しっかし弱いな、でもこれが普通か。【商才】と【鑑定】か、確かに商人には向いてそうだな。
ララとロロの時より弱いぞ。あの子達は獣人でも虎の獣人だから強いのかもな。出会った時は弱いと思ったけどね。
歳はこの子達の方が少し上みたいだけど、獣人でも一般人と変わらないな。
【商才】ってどんなスキルなんだろ?
「さっき【商才】があるって言ってたけど、どんなスキルなんだ?」
「スキル? 私は村の人に【商才】があるから商人に向いてるって言われただけだよ。」
スキルだと思ってないのか。交渉とか計算とかそういうのかもな。
私達は商人ギルドに入った。
今は昼休憩中のようで、受付には誰もいなかった。
掲示板に商人ギルドの入会規則が貼ってあったので読んでみた。
Gランク 丁稚 店に奉公できる。 年会費不要 更新不要 但し、店に解雇されればカードは失効。
Fランク 番頭 店の金を扱ったり商品を管理できる。 年会費 銀貨1枚 更新期限1年 但し、店に解雇されればカードは失効。
Eランク 店主 店を持つことができる。 年会費 金貨1枚 更新期限1年 但し、番頭を5年勤めなければ資格は無い。
Dランク 店主 店を持つことができる。 年会費 金貨10枚 更新期限1年 番頭経験は不問。但し、自分が店主となり管理する事。
Cランク ブロンズオーナー 複数の同一種の店を持つことができる。 年会費 金貨50枚 更新期限1年 番頭経験は不問。他人に名義を貸したり複数の店を経営できる。
Bランク シルバーオーナー 内容はCランクに準ずる。年会費 金貨100枚 更新期限1年 他国との取引もできる。
Aランク ゴールドオーナー 内容はCランクに準ずる。年会費無し 更新不要 Bランクで国家への貢献度が高いと王に認められたものだけがなれる。
以上の項目が守られていないと判断されればカードは失効、懲役3年の刑になる。
厳しいな。年会費を払って店を出して何の得があるんだ?
確かにカードがあれば国や町への出入りが出来るようになるが、それだけの為に商人ギルドを選ぶメリットってあるのか?
こっちにも何か書いてあるな。
商人ギルドに入れば融資が受けられます。ランクによって金額も異なります。
商人ギルドに入れば出店先を選べます。
商人ギルドに入ればギルドが流通を斡旋します。
商人ギルドに入れば護衛を格安で雇えます。
商人ギルドに入れば店の改装も格安で行えます。
商人ギルドに入れば従業員の斡旋も致します。
商人ギルドに入れば収支計算も代行します。
商人ギルドに入れば税の控除もあります。
売り上げランキング上位に入れば特典もございます。
悪い事ばかりじゃないんだな。そりゃそうだよな、利に聡い奴がなる職業なんだから、マイナスばっかりじゃなる奴はいなくなるよな。
まだ時間はあるし先に飯を食べようか。




