第109話 もう一人の勇者
1人になり考えたが、今のタイミングを逃せばまたズルズル先延ばしになるだろうと思い、ハルとモイチがいる屋敷にやって来た。
2人は自分の部屋を決めた所だった。2人を呼び、この屋敷の食堂に来てもらった。
こっちの屋敷も同じ調度品にしてあるので、どっちの屋敷にいるのかわからないぐらいだった。
「もう1つ話があるんだ。」
「なんでしょうか」ハルが代表して答える。
「ケンジの事なんだ。」
「はい。」
「実は生き返らせる事ができるかもしれない。」
「え!?そうなんですか?」
「ああ、それでお前達の意見が聞きたい。やったことが無いので出来るかどうかはわからんが、ケンジを蘇らせてもいいものか悩んでた。」
「ケンジを生き返らせることができるんなら、お願いします、生き返らせてあげてください!」
「僕からもお願いします。さっきは覚えてないって言いましたがちゃんと覚えています。一番小さな子だったのに一番頑張ってたし、人気者でした。忘れてはいません。」
私に気を使ってあんな風に言ってくれてたんだ。優しい勇者だ。だから勇者って言うのかな。蘇らせ無かった時の責任が重くなって来たな。
「わかった。できるかどうかは本当にわからない。始めてやるんだからな。でも、蘇生の薬は教えて貰ったしケンジは私が持っている。今やってもみてもいいか?」
「「はい、お願いします。」」
私は頷きケンジを出した。
「ケンジ!」「ケンジだ!」
蘇生薬も出した。
どうやるんだろ?振りかけるのか?飲ますのか?飲めないだろう、死んでるんだから。
振りかけるってどこに?顔か?胸か?ストックはいくらでもあるから色々試してみるか。
まずは口に入れてみた。
ケンジの身体が淡く七色に光り出す。何らかの効果があったようだ。
【鑑定】
名前: ケンジ
年齢: 16
種族: 人族
加護: なし
状態: 瀕死
性別: 男
レベル:13
HP: 1/314 MP:410/410
攻撃力:167 防御力:157 素早さ:131
魔法: 火(2)・水(2)・土(1)・風(2)・氷・雷・闇・光・召喚(5)
技能: 剣(3)・槍(1)・弓(1)・錬成(9)・研究(7)・採集(1)・解体(1)・回避(2)・遮断(2)
耐性: 熱・風・木・水・雷・
スキル:【収納BOX】6【鑑定】2【勧誘】Max【再生】2
ユニークスキル:【盗む】
称号: 南の元勇者
従者:
おお!生き返った!凄い薬だな!
あ、でも瀕死だ。HPが1だ。全回復薬だな。
全回復薬も飲ませた。
見る見る顔に生気が出て来た。
魅了も無くなってるな。
「ん、んんー。」
「生き返った!?ケンジ?ケンジ!」
「本当だ!生き返ったー!ケンジー!」
「ん?なに?何をそんなに騒いでるの?」
「あなた死んでたんだよ!今、生き返ったんだよ!」
「そうだよ!死んでたんだぞ!今タロウさんに生き返らせて貰ったんだぞ!」
大燥ぎする2人のテンションが高すぎて、ケンジは付いていけて無いようだった。
ようやく2人のテンションも下がって来てケンジに説明をしてやる。
「ケンジ?私の事は覚えてないか?」
魅了されてたから覚えてないだろうなぁ。
「いいえ、誰ですか?」
「私はタロウと言う冒険者だ。今お前を蘇らせた者でもある。」
「んー、死んでた実感が無いからわかんないけど、蘇らせてくれたんなら恩人だね、ありがとう。」
殺したのも私なんだけどね。これも言わないといけないな。後からわかる方が恨みを買う場合が多いからな。説明の後で言おう。
「いや、いいんだ。2人の願いでもあったからそれを叶えただけだから。」
「そうなんだ、ハルちゃん、モイッチャン、ありがとう。」
2人は涙ぐみながらウンウンと頷く。
「今の状況が分からないだろうから説明するぞ、どこまで覚えてるんだ?」
「エンダーク王国でシューラッドと地下の研究室に行ったのは覚えてるんだけど、その後がハッキリ思い出せないよ。」
じゃあ、私が殺したことも言わなくてもいいか?いやいや、知ってる者も多いし私の良心が許さない。言ってやらないとな。
「私がお前を見たのはダムダライド王国のロンレーンと言う町の東にあるダンジョンの最下層で組織を作り、シューラッドと共に従者にしたレッドワイバーンやオーガロードを使って子供達を攫い、攫った子供を生贄にして悪魔を呼び出していた。理由は知らんがエンダーク王国に恨みを晴らすためだったんじゃないかな。」
記憶が戻った所みたいで、酷なようではあったが言ってやった。
「ボ、ボクがそんな事をしてたの?」
「ああ、シューラッドに操られてたみたいだがな。お前はエンダーク王国の者に追われて崖から落ちて死んだことにもなってたぞ。」
「そうなんだ。シューラッドに操られてたんだ。でも子供を生贄ってそんな悪い事もしてたんだ、シューラッドを信じてたのに。死んでたんなら生き返らせなくても良かったんだ。」
「ああ、悪い事をしてた。だから私がお前を殺した。」
まだ刀で斬られたままの跡が残っている服を指さして言った。
「そうだったんだね。ありがとう。じゃあ、もう一度殺してよ。ボクは悪い奴なんだろ?」
「もう私が1度殺したんだから、悪いケンジはもう死んだんだ。これから良い事をすればいい。勇者なんだろ?」
「それでいいの?」
私は大きく頷いてやった。
ケンジはハルとモイチを交互に見て涙が溢れて大声で泣きだした。
ハルもモイチも一緒に抱き合いながら泣いていた。
こっちの屋敷は勇者用にしてやろう。
サジを呼んでもう1つの屋敷に引っ越しさせた。
今、シューラッドの事を聞いてもダメだな。答えは1つしか帰って来ないだろう。
生き返らせるな、だろうな。もう少し時間を置いてから聞いてやろう。
もうすぐ皆が帰って来るだろうから、食事の用意でもするか。
私は真ん中の屋敷に戻り、食事の支度を始めた。
何人分作ればいいんだ?ジャンはいらないだろうから32人分?
多すぎるぞ!いや、自分のせいか。仕方が無い作ろう。
人数が増える度にコンロも増やして行ってるから今では6つIHコンロ風の魔石コンロがある。
大鍋に水魔法で水を入れ、火魔法でお湯にしてからコンロの火力を強める。魔物の骨や野菜で出汁を取り、灰汁を取ったら調味料や酒で味を調える。今は砂糖もあるから良い味になる。後はぶつ切りにした魔物肉を煮込むだけ。簡単な料理だが、ランクの高い魔物肉は美味しいし町で買ってきているパンもあるから十分だ。これでも料理の熟練度はMaxだから味付けも上手い。
それを6つの大鍋で同時に行なう。後は皆が帰ってくるまで落とし蓋をして、とろ火で煮込むだけだな。
「タロウさん。」
「ん?ハルか。もう落ちついたか?」
「はい、すみませんでした。それとケンジを生き返らせてくれてありがとうございました。」
「私にも罪悪感があったから、ケンジが生き返ってくれて良かったよ。」
「それでケンジとも話をしたんですけど、ケンジも従者になれませんか?」
「なんで?別に従者にならなくてもここに居ていいぞ?お前ら二人は成り行きで従者になったみたいなとこはあるが、ケンジは別にわざわざ従者にならなくても。」
そうだよな、別にならなくても。もうこれ以上勇者が従者になるのは避けたいとこだ。
「そうじゃないんです。私達、従者になって何か力が漲って来るというか前より強くなったようだし、これからもっと強くなれそうな感じがわかるんです。心も何か暖かいものに包まれているような感じになって凄く気持ちもいいんです。それにこのアイテムでしょ。もうケンジも絶対従者になる!って。」
確かに自分が思ってる以上物が作れましたよ。自分でも凄いアイテムだと思ってますよ。でもそれでいいのか?アイテムの為に従者になれるもんなのか?別にアイテムぐらいやるぞ? 確かに加護付になれば通常よりは強くなれるけどお前らは勇者だから元々強くなれるんじゃないの? ベッキーも結構強かったぞ?
「も、もう少し考えてもいいんじゃないかな? 時間はたっぷりあるし後悔しないとも限らないし。一度従者になったら消せないんだぞ?」
「大丈夫だよ!お願いだから従者にしてよ。」
後ろからケンジが出てきた。モイチと一緒に陰に隠れて聞いてたようだ。
そこまで言うならいいかな。もう2人も3人も同じだな。
「わかった。ケンジ、私の仲間にならないか?」
「はい!」
私の額が光った。
「もう名前も考えて来たんだ。ケンって名前にして。」
はいはい、用意周到だね。最後まで付き合ってやるよ。
「お前はケンと名付ける。」
ケンは淡く光って覚醒した。
【鑑定】
名前: ケン(ケンジ)
年齢: 16
種族: 人族
加護: 佐藤太郎の加護
状態: 普通
性別: 男
レベル:13
HP: 512/512 MP:535/535
攻撃力:232 防御力:214 素早さ:293
魔法: 火(2)・水(2)・土(1)・風(2)・氷・雷・闇・光・召喚(5)
技能: 剣(3)・槍(1)・弓(1)・錬成(9)・研究(7)・採集(1)・解体(4)・回避(2)・遮断(2)・料理(2)
耐性: 熱・風・木・水・雷・身体異常
スキル:【収納BOX】6【鑑定】2【勧誘】Max【再生】2【錬金】1
ユニークスキル:【強奪】
称号: 南の元勇者
従者:
覚醒できたようだな。錬金が付いたか、元々才能はあったみたいだし私の影響もあるんだろ。盗むが強奪に進化してるな。注意しとかないとな。悪さをすれば【ロブギフト】で盗ってやるだけだ。釘だけ差しておくか。
「覚醒できたみたいだな。ケンジ言っておくが、【盗む】が【強奪】になった。盗む可能性が格段に上がってるはずだ。仲間や知り合いから盗るんじゃないぞ。」
「はい、大丈夫。ボクはそんなことしないから。信用してくれていいよ。」
「お前は正義感が強そうだから安心しているが、そういう奴こそ道から逸れると危ないからな。その時は私が【強奪】を盗ってやるからな。」
「はい、その時はお願いします。」
ケンジはそう言って笑った。




