表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第一話.ハーレム王に俺はなるっ!

「ふむ。きみが森で倒れていたという、旅人か」


 玉座に座る初老の男性は、青年を見ながらそう言った。頭には王冠をつけ、体には高そうなローブをまとう。あごひげをいじりながらそう言った男性はまさしく、王の風格を携えていた。


 多くの兵士が見守る中、詰問されている青年は場違いにもよれよれのTシャツとジーパンぼさぼさの髪をかきながら、挙動不審に視線を切った。


 浅上輝樹、20歳。浪人二年生である。


 どうしてこのようなことになってしまったのか。


 輝樹は気が付くと森の中で倒れていた。と思ったら、体長は五メートルを超える顔が三つ着いた犬のバケモノに襲われたのだ。


 森の木々をなぎ倒しながら暴れまわる犬のバケモノ。まわりには槍や剣を持つ武装した兵士たちが100人余りかこっていた。


 何を言っているかはわからないと思うが、それは現実だった。


 そして、どうしてだろう。犬のバケモノに襲われ、そして……。


 輝樹は身を守ろうと腕を振り上げた。その瞬間、耳をつんざく悲鳴ととも、顔が一つ減った犬の亡骸だけが、その場に残されたのである。


 四代魔帝は一人、獣王ケルベロス。

 とかいう肩書の存在であったことを知ったのは、ここに連れられてくる兵士たちの馬車の中だった。


「あ、あの、おれは気づいたらあそこにいて、その」

 自慢じゃないが輝樹は顔見知り。二年も通っている予備校ではいまだに会話ひとつする友達すらいないくらいなのだ。


 そんなわけでこんな仰々しいメンバーに囲まれたのでは上がってしまうのも当然だろう。


「固くならないでくれたまえ。あなたは魔帝を倒した勇者なのだ。……これは神の思し召しかもしれない。魔王を倒す、唯一のすべなのだと、ね」


「魔王……」

 輝樹はわずか逡巡する。受験勉強のさなか、いや一日の大半を、輝樹はアニメやラノベに費やしてきた。


「おれは、異世界にきてしまったのか」


「きみは異世界からきたのか? 確かに伝承ではそのような話があるというのは聞き及んでいる。しかし……異世界人がそれほどまでに強い力を持つとは聞いたことがなかったが」

 そう言って王は隣にいる大臣を首で示す。


「勇者様。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「あ、浅川輝樹です」


「輝樹殿。ぜひとも魔王を倒してはいただけないでしょうか?」


「……」

 ちょっと待て。


 だいたい輝樹はただの浪人生だ。彼女はおろか友達はいない。ただのキモオタだ。きっとケルベロスを倒したのは偶然なのだ。そんな自分に……


「魔王を倒した暁にはこの国を挙げてあなたを称えよう。どうか、どうか。このままではこの世界は」

 だけど、闘う力があるのなら。


 ぎゅっと輝樹はこぶしを握り締める。


 何もなせなかった個の右腕に、今は力があるのなら。


 世界を救う……。

 夢見なかったわけじゃない。憧れなかったわけじゃない。


 英雄にずっと憧れていた。ここじゃないんじゃないかって、ずっと。自分が輝ける世界がどこかにあるんじゃないかって。


 ならっ!


「やります」


 この世界を救う。

 そして、作り上げる。


 美人奴隷に獣人にエルフ、お姫様だって当然候補さ。


 そう、ハーレム王に俺はなるッ!!!


「ありがとう勇者殿っ!」

 王は立ち上がって感謝の意を示す。その瞬間、周りの兵士たちも沸き立つ。


 こんなように誰かに期待されたことなんて、地球にいたころは一度もなかったのだ。


 思わず、輝樹は微笑む。


「しばらくは城に滞在してくれ。旅の準備も時間がかかろう。勇者殿よりは力が劣るが、国を挙げての英雄をそなたの部下として加えよう。今宵は宴じゃ。大臣よ。勇者様を盛大にもてなすのじゃ」


「かしこまりました」

 大臣はうなずくと近くにいた部下の人間に対して支持を飛ばしていく。


「さて、王宮内に部屋を用意しよう。夕食の儀までしばし待たれよ」


「ねえ、パパ」

 と、王がそう言うと隣にいた少女がそう言って王の服の袖を引く。


「なんじゃ、ミルフィー」

 見るところ高そうな服を着ているし、姫殿下であろうか。


 透き通るような青い髪を揺らす少女だった。ゆったりとしたローブは体つきが分かりにくくなっているものの、かなりの居乳であるということだけはうかがえる。

 というかもうマジモンの美人なのである。


 もしかして、魔王を倒したあかつきにはあの子と、なんて……。


 輝樹が思わず鼻の下を伸ばした時である。


「今夜は私が勇者様の部屋に行くね」

 そう言ってミルフィーと呼ばれた少女は輝樹の方を見たのだ。


 そしてわずかに頬を高揚させながらにっこりとほほ笑んだ。


「ミルフィーよ。きょ、今日はわしとの約束があったではないか」


「もーお。パパ、勇者様にとって、今日は、この世界に来て初めて、なんだよ」


「し、しかし」


「がまんして」

 そう言ってミルフィーは王の唇を自身のそれでふさいだ。


「ん。ちゅ……む」


「――!?」

 王室内に唾液の絡まる音が響くほど二人は濃厚なキスをしたのである。


 息がとまるほどに濃厚な接触。次第に二人の口元は唾液で汚れていく。そうしているとそのまま体を密着させた王はミルフィーの服の裾をたくし上げる。


「陛下。客人の前ですぞ。そのような」

 大臣が叱責するように声を上げる。


「す。すまんな。わが娘ミルフィーは王国一の美人。今宵は勇者殿にゆず……なんだと!」

 と、王は輝樹を見て驚愕したように声を上げる。


 いや、王だけではない。周りの兵士たちも同様だった。なんだ? 王と姫のキスを見ても動じなかった者たちが輝樹を見て何を驚くというのだ。


「まあ、ごりっぱですわ」

 わずかに胸を上下させながら、楽しそうに姫がそう言う。その視線の先。


 輝樹の股間である。

 

 まったく見事にテントが張っていたのである。


「し、失礼ですが勇者様。なぜそのような」

 と、大臣が驚いたように言う。


「え?」

 と、輝樹も気づいて思わず前かがみになる。


「いや、なんでもないっ!」


 貞操観念は国それぞれ。地球でもあいさつ程度にキスをする文化もあるから……まあディープキスするような文化は聞いたことがないが。とにかく、そんな文化があってもおかしくはないかもしれない。


「なぜ、キスくらいでそのような。いくらミルフィーが美人だとは言え」


「陛下」

 と、すぐさま大臣が耳打ちする。


「なにっ! ばかなっ! いや、しかし、確かに合点がいく。一撃で魔帝を屠ったというのならそれは伝説の存在と言えるかもしれぬ。いや、しかしそんなものが本当にこの世に実在しているというのか?」


 何度も繰り返し王は自らに問う。そして、たまらず輝樹を見る。


「のお。勇者殿、そなた、歳はいくつだ?」


「20歳です……けど」

「見ろ! ありえんじゃろう」


「たしかに20歳。なら、ありえない、でしょうか」

 しゅんと大臣は反省したように頭をもたれる。


「?」

 いったい、何を言って。


 そうしていると息をわずかに荒げた姫殿下は輝樹に近づいてきたのである。


「勇者様。よろしくお願いいたしますね」

 そんなことを言いながら、ミルフィーはいきなり輝樹に抱きついてきたのである。


「ぁあああああああああああああああああああああああっ!」


 なんてこと。


 現実世界においては一度だって女の子に抱きつかれたことはおろか、手を握ったことすらない。コンビニの定員さんだってお釣りの受け渡しの際にわずかに表情が曇る程度には、やばい人生を送ってきたのだ。そんな自分がこんな美人の女の子に、抱きつかれている。


 なんという幸福。ありがとう神様。この手に絶対的な力を宿らせてくれてありがとう。


「元気ですね……」

 と、フローレは驚いたように言う。


 当然のこと、輝樹のそれは限界まで膨れ上がっていたのだ。


「まるで童貞の少年のよう……」

 と、そう言ったのである。


「っ。な。あ……」

 輝樹は思わず視線をそらす。


「え?」

 姫が唖然としている。


 輝樹は当然のこと、童貞だ。というか女の子の手も握ったことがないのに、童貞じゃなかったとしたら、それはいろいろ圧倒的にやばい方向での方法しか考えられないわけで。輝樹は当然普通の感覚を持ちしオナニストなので、まごうことなき童貞なのだ。


「ま、またれよ!」

 と、王が驚いたように声を張り上げる。


「なあ、勇者殿。その、正直に答えてはくれまいか。そなたは……」


 そして王は息をのむ。ゴクンとためて飲まれた唾液の音が、室内に響くほどに、その一言に全員が集中し、静寂が包み込む。



「童貞ではあるまいよな」

 それを聞いたのである。


「いや、すまない。冗談じゃ。アハハ。予は何をバカなことを言っておるのか。まったく大臣が変なことを言うから」


「……ですが」


「なに?」


「童貞、です、が……」

 なんなのだ、この羞恥プレイは。


 輝樹が童貞だからなんだというのだ。それが勇者討伐と何の関係があるというのか。



「えええええええええええええええええええええええええええええ!」

 が、部屋中の全員が声を張り上げたのだ。


「ほら、陛下見てください。言ったとおりでしょう。時を費やした童貞は圧倒的魔法力を身につける。古き言い伝えのとおりです」


「いや。しかし、なぜじゃ、そなたは、もしや魔王と戦うために今まで修行を重ねてきたのか?」


「は?」


「いや、それにしたっておかしい。20歳で童貞なんて、どうしたらそんな貴重な存在になれるのか想像もつかーーーーんっ!」


「ほっといてくれーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

 王の絶叫と輝樹の悲鳴がとどろいたのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ