困惑
今回はママンとパパンは出てきません。
というよりしばらく出てきません。
ーーツォルフェライン国立魔法学院。
それはツォルフェライン国唯一の魔法学院であり、魔力を持つ者はどんな身分であろうと15歳から18歳までそこで学ぶことが強制される。
そこでは今、長い春季休暇を明かし、始業式が始まっていた。
ーーそこに、大きな嵐が巻き起こった。
「え‥‥‥うそ。」
「アイリーン様っ‥‥‥?」
「アルフレッド様と、何で‥‥?」
長い、腰まである黒髪を結わずにたらした小柄な少女と、顎の辺りで切り揃えた艶やかな赤毛の長身の青年が仲むつまじげに寄り添い、腕を組みながら歩いていた。
「あら‥‥‥見られてしまっていますわ?殿下。」
「構うな。己達は最早家族公認の婚約者なのだ。知られてまずいことなど、一つもないだろう?」
「まあ。」
穏やかに笑いながら2人は見せつけるように言葉を交わす。
何も知らないーー終業式でのあの茶番を見ていた者達の間に起こった衝撃はお察しします状態だ。
「ーーアイリーン・ミスシアート!!これはどういうことだ!!」
突如響いた無遠慮な大声に2人は思わず眉をひそめる。
しかし、ソレは一瞬のことで、アイリーンはいつものように令嬢然とした微笑みを張り付かせ振り返った。
「あら、カシム殿下。何の御用ですか?」
「貴様‥‥‥!手紙を無視した挙げ句『何の御用ですか?』だと!?」
そういって淡い金髪の青年は怒りに顔を赤くした。
周りには売春婦‥‥ゲフン。ユリアとその取り巻き(逆ハーメンバー)もいて、こちらを睨みつけている。
「あら‥‥だって殿下はわたくしとの婚約を破棄したのでしょう?そのような人と喋る言葉なぞありません。」
「貴様‥‥!」
緑の瞳がぎらつき、此方を見すえる。
それを見て、アルフレッドーーアルシアは前に出た。
「ーー下がれ、カシム。彼女はもうお前の婚約者ではない。お前の婚約者はハルドゥーク男爵令嬢だろう?」
「うるさい!妾腹の貴様に話す言葉はない!!」
その言葉に、アルシアは悲しそうに顔を歪めた。
それを見て、必死にアイリーンは怒鳴りそうになるのを堪える。今怒鳴ったら、計画は全て水の泡だ。
そうして必死に耐えていると、更にアイリーンを苛立たせる出来事が起こった。
「カシム様‥‥‥‥!お兄様になんて言うことを‥‥‥!!」
「!ユ、ユリア!その、これは‥‥‥。」
ざけるな売春婦てめえはお呼びじゃねぇんだよ!!
心の中で罵倒しながらもアイリーンはアルシアに目配せする。それを見てアルシアは一つ小さく頷いた。
「‥‥‥お心遣い、感謝する。ハルドゥーク男爵令嬢。」
ひどく甘やかに、ユリアにアルシアは微笑んだ。
ーー誤解の無いように言っておくと、一応“アルフレッド”は攻略対象である。そのアルフレッドの立場にいるアルシアは、まあ、かなりの美貌の持ち主だ。具体的にいうと、色気が半端ない。
「え‥‥‥‥あ、その。」
予想通り売春婦は頬を染め、熱い眼差しをアルシアに注ぎ始めた。
ーーよし、堕ちた。
若干ドン引いて助けを求めるアルシアに一つ小さく頷き、話しかける。
「殿下、いえ、アルフレッド様。わたくし、ここには居たくないですわ。」
「そうか?では、己達はこれで。」
再び微笑み、腕を絡ませ仲むつまじげに2人は愚王子達の前から去って行った。
それを、ユリアは瞳に冷たい炎のような眼差しでジッと見ていた。
とまあ、久し振りの愚王子達でした。
‥‥‥側近達をどうだそう。やばい出し損ねまくってる。