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戦略

最後シリアス?です。

 穏やかに笑みを浮かべながら、ヒューズ・ミスシアートは庭で紅茶を飲んでいた。柔らかな風が吹き、色とりどりの美しい花が揺れ、のどかで平和な光景が広がっている。


 「え、ちょ、それなしぃぃぃ!?」


 「オホホホホホホホ!! ‥‥これぐらいどうってことあるわけないわよねぇー? この《ピーーーーー》!!」


 ‥‥目の前では、愉快犯(エレボス)VS鬼子母神(エリザベス)の泥臭く血なまぐさい争いが繰り広げられているが。

 長い緑の髪を一つに縛り、現役時代の服を着ながらハイテンションで刀を振り回すエリザベスを見てヒューズは目を細める。今日もうちの嫁は綺麗だ。

 ドッカンバッキンポロッ等の音が聞こえるが気にする者は誰もいない。それもその筈、今、ミスシアート家には使用人が一人もいないのだから。


 「もー分かった分かった!! 僕が悪かった!! ごめんなさい!!」


 「分かればよろしい。」


 「えー‥‥もう少しやりたかったわ。」


 片手を上げて降参の意を示すエレボスにヒューズは満足げに頷き、エリザベスに待ったをかける。不満げに眉をしかめながらもエリザベスは攻撃をやめた。


 「さーてと、どうしてアイリーン達に襲撃の計画や、落胤の情報を教えたりなんかした? あれか? 俺たちにバレなきゃ何をやってもいいって思っていたか? 後、虫の息な襲撃者拷問すんじゃねーよ。死んだらどーしたボケェ。」


 息も絶え絶えで倒れているエレボスにヒューズは容赦なく責め立てる。便所座りをしながら隠密頭を見下ろし暴言を吐いている様はとても由緒正しい伯爵家の当主には見えない。控えめに言ってもヤンキーだ。


 「えー‥‥だって面白そうだったんだもん。」


 「「あぁ?」」


 二人の凄みに気づかず、エレボスは真新しい玩具を貰った子供のように(いつもは死んでいる)目をキラキラと輝かせて熱弁し出す。


 「まさか、自分を囮にして証拠を手に入れようだなんて、そう考えるだなんて思ってもみなかった!! それに久しぶりにゼクスの本気も見れたし!! ‥‥て、げ。」


 興奮しながら喋っていたエレボスだが、目の前の伯爵夫妻から発せられる負のオーラに気がつき、顔を顰める。にっこりと、天使のようや微笑みを浮かべながらエリザベスはエレボスに近づく。


 「あなた。」


 「ああ、いいぞ。」


 刀を抜いて伺うエリザベスに、ヒューズは笑顔で許可を出した。ーー手には、魔方陣が煌めいている。


 「ちょっとまってタンマ!! 話せば分かる!!」


 「「問答無用!!」」


 どこかで聞いたようなやりとりをしながら、同時に二人はエレボスに攻撃を繰り出したーー











 「ではエリ。バスティアン騎士団長に例の件、よろしく頼む。」


 「OK! あなたも頑張ってね。」


 ボロ雑巾のように伸びているエレボスを華麗に無視してエリザベスは颯爽と屋敷から出て行った。いく間際にエレボスをしっかりと踏むことを忘れずに。


 「‥‥で? いつまで地面に寝転がっているんだ? この程度じゃ本当は痛くもかゆくも無いはずだろう。」


 その言葉に、エレボスがぴくり、と反応する。そして何事も無かったかのように体を起こす。


 「少しぐらい、手を抜いて欲しかったなー。」


 ポンポンと体に着いた埃を払いながら口を尖らせてエレボスは訴える。それを、ヒューズは片手に持っていた魔術書を開きながら答える。


 「手を抜くとお前調子に乗るだろう。後、お前は息子に対しての愛情表現が歪んでいるぞ、激しく。」


 「えー。ギャースカ言ってて可愛くない? 本気で()りに来ているところとか。」


 実はエレボス、とんでもない親バカである。しかしその愛情表現は凡人には理解できないししたくも無い代物であるが。


 「‥‥可愛い子には旅をさせよという諺もあるが、お前のはただの虐待だ。絶対にお前の愛情表現は伝わってないぞ。」


 ハアッとため息をつきながらヒューズは胡乱げにエレボスを見やる。くつくつと愉しげに笑いながらエレボスは答える。


 「えー。いーじゃん。あ、と。伝え忘れていたことあった。」


 「‥‥よく言う。エリがいなくなるまで待っていたくせに。」


 今まさに思い出した!! といわんばかりのエレボスの態度に若干の呆れを滲ませながらヒューズは呟く。それには何も答えず、エレボスはその唇を動かした。









 庭に、ヒューズは立っていた。魔術書をペラペラと捲りながら、心ここにあらずといったような面持ちで。

 エレボスは、もうここにはいない。仕事(・・)に戻っていったのだ。


 『失望させないでよー? 失望させない限り、“エレボス”は君を裏切らない。』


 そう、チェシャ猫のように笑いながら唄うように男は嘯いた。その笑顔は、いつものように作り物めいていて、酷く不気味だった。

 ボンヤリとしながら、ヒューズは考える。頭の中では、なぜ、どうして、の文字が浮かんでは消えを繰り返していた。

 先程、エレボスが教えた情報は、それ程までにヒューズの精神(ココロ)を揺さぶった。


 「なにを、考えているんだ‥‥? ‥‥アレックス。」


 かつての友の名を呟きながら、ヒューズは空を仰ぐ。

ーー手に持っていた魔術書には、“アレクサンドル・ツォルフェライン”の名が、刻まれていた。



因みに魔術書は短編、泡沫の記憶でヒューズを釣るためにアレクサンドル(アレックス)が部屋にあると言っていた珍しいやつです。ちゃっかりと貰っていました。

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