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説教

 「さーーーて? 若様? 御姫さん? なにか、言うことは?」


 「ぜ、ぜくす‥‥。」


 「ニート執事‥‥?」


 「だ ま れ」


 「「!?」」


 仁王立ちをしながらにっこりと微笑むゼクス。それを見て正座でガタガタと震えるミスシアート姉弟。

 前には恐怖のマジ切れゼクス。後ろには切れたゼクスにより積み上げられた男の屍。


ーー逃げ場は、ない。


 気のせいだろうか。ゼクスの後ろに鉈を持ったエリザベスが見える。にっこり微笑んで、鉈をフルスイングしている。


ーーこれは、やばいやつだ。


 「黙っていてごめんなさい!!」


 「勝手に行動してすみません!!」


 長年のつきあいから本能的に危機を察知しレオンハルトは顔を青ざめさせ、アイリーンは半ば泣き出しながら己達の愚かさを告白する。


 「‥‥へぇ~~~~~~~~。‥‥バカか。」


 にっこりどす黒オーラを振りまきながらゼクスは毒を吐く。『バカか。』の所で真顔になるのがゼクスクオリティ。普段ニコニコしている人物の真顔はそれだけでかなりの恐怖映像だ。


 ガタガタガタガタと震えながらアイリーンは頭を働かせる。説教(これ)から逃げるには、どうすれば良かったんだっけ?


 (ま、まずい‥‥! 最後にマジ切れさせたの、いつだったっけ‥‥!?)


 余談だがアイリーンが最後にゼクスにマジ切れされたのは四年前のこと。多くは語らないが世界最強の生物、“ONEE”(ゴリマッチョ)のレオンハルトに対する一方的ラブストーリーが関わっているとだけ記しておこう。


 「第一、御姫さん達は、今回のことどー思ってんすか? 何なの? 自分たちだけでどうにか出来ると思った? 何のために俺いんの? 無理すんなって言ったよね? 別にこの作戦自体にケチつけてんじゃねーよ? どんだけ、俺が、心配したと思ってる‥‥?」


 淡々と真顔のまま遠慮容赦なく口撃するゼクスにアイリーン達は顔を下に向ける。すると、急にゼクスが言葉を詰まらせる。不思議に思って視線を上げると、泣きそうに顔を歪める彼と目が合った。


 「‥‥頼むから、お願いだから、勝手に死ににいくような真似しないでくれよ‥‥!!」


 叫ぶように呟かれたその言葉に、二人は目を見開いた。ついで、思わず言葉が洩れる。


 「「ごめん、なさい‥‥。」」


 ‥‥心配をかけさせるつもりはなかった。勝算はあったし、どうにか出来ると思っていた。事実、レオンハルトはすぐさま駆けつけることは出来たし、ゼクスがいなくても対処は出来た。

 ーーだけれども、今回、あと一歩のところでアイリーンの心は壊れていた。防げたのはよかったものの、それを回避できたのはギリギリで、なかば奇跡のようだった。

 そんなことになってしまった最大の原因は、自分たちの無責任で傲慢な思い込みと、周りのことを考えなかった、浅慮な行動のせい。

 そのせいで、周囲に心配をかけた。そのことが、こんなにも悔しく、辛い。


 「‥‥反省、してるんすか?」


 疑わしげに聞き返すゼクスに二人は首がちぎれんばかりに縦に降る。己達の未熟さを、こんなにも実感したのは始めてだった。


 「「‥‥はい、もちろん。」」


 「なら良いっすよ。」


 「「ごめんなさ‥‥。‥‥へ?」」


 あっさりと出たお許しし思わず二人揃って唖然とする。おそるおそる顔を上げると、顔を両手で覆い、ゆっくりとへたり込むゼクスが見えた。


 「‥‥! もう、ほんっと良かった‥‥!!」


 小さく、掠れた声で呟いた彼を見て、どうしようもない罪悪感に襲われる。横を見ると、レオンハルトも同じらしい。小さく唇を噛んでいる。



 知らず知らずのうちに俯いていると、急に頭をぐしゃぐしゃにかき乱される。

 どうやらレオンハルトも同じらしく、目をきょとんとさせてぐしゃぐしゃになった頭を抑えながら上を見上げる。


 そこには、いつものように食えない笑みを浮かべ、飄々としたゼクスが立っていた。


 「さ、帰りましょーか。‥‥旦那様達には、詳細(・・)に報告しておきますから、ね?」


 「‥‥ひっ!?」


 「‥‥!!」


 片や悲鳴を、片や半ば真っ白になりながらその言葉に絶望する。今回の作戦は、アイリーン達の独断によるもの。

‥‥全てが終わったら、どうなるのか。それは神のみぞ知る。


 絶望のポーズと名高いそれをしながら落ち込む二人を見ながらゼクスは笑った。




†††††††††††††††††††††


 「今回(・・)は失敗だったか。」


 うっそりと微笑みながらと濁った瞳で男は駒を手の内で弄ぶ。狂気に満ちた笑みを浮かべ、男は駒を砕いた。

 水晶製のそれは、キラキラと光りながら、地に落ちる。


 「参謀(ビショップ)は消えた。(ナイト)は役に立たない。(タワー)(キング)はバカで扱いやすい。‥‥相手は、」


 嗤いながら、男は一人で駒を進める。

向かいの陣営は、一つも駒はかけていない。


 「‥‥だが、内部はガタガタ。」


 楽しそうに男は嘯く。

向かいの(キング)に手を伸ばし、ゆっくりと近づける。


 「‥‥お前に、その席は相応しくないっ‥‥。覚悟しろ、アレクサンドル・ツォルフェラインッ‥‥!!」


 その瞳には憎しみに染まり、冷たく光っていた。

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