回想
‥‥‥‥思ったよりこの連載が好評でガタブルしています。
ご期待に添えていなかったら申し訳ありません。
ーーー12年前、なにが起こったかというと、王都『リシュアンナ』に出向こうとしたミスシアート伯爵一家の馬車が転覆し、家族全員が3日間程生死の境を彷徨ったのだ。そして思ったこと。
「「「「どうしてこうなった。」」」」
前世の記憶を取り戻し、家族全員で頭を抱えた。しかも長女の友人がえらく嵌まっていた乙ゲーへ悪役転生してしまったのだということに気づき、そして、決意したのだ。
何が何でも没落して一般ピープルになろう、とーーー
まあいささか手遅れ感があったのだが。
「まあ、まさか生まれ変わっても家族でいれたのは予想外過ぎたわ。」
「それだけ縁が強かったというべきだろう。」
「あ、父さん。」
アイリーンの言葉にヒューズは答える。嬉しそうに顔を綻ばせる娘にヒューズは微笑んだ。
「それ以前に、まさか姉さんの友達がやっていた乙女ゲーム?ていう世界の、しかも悪役ポジに姉さんが収まっていたことに俺は殺意を抱いたね。」
そう言いながら綺麗に彼は笑った。これを彼曰く売春婦や似非王子が見たら軽く卒倒するだろう。何せ彼は常に無表情。顔の表情筋を動かすことは殆ど無かったのだから。
「さーて、私達これからどうなるんだっけ?」
母、エリザベスの言葉にアイリーンは満面に笑みを浮かべながら答える。
「はーい!!じゃ、説明!まずこの世界で悪役ポジにいる私の家、ミスシアート伯爵家は主人公、ユリア・ハルドゥークが誰を攻略しても、没落します!!因みに“レオンハルト”を攻略した場合は王子の思い人をとってしまったことで駆け落ちして行方を眩まし、ミスシアート伯爵家は後継ぎ不在でお家お取り潰しです!少なくとも原作では!!」
元気よく答えるアイリーンにヒューズは答えた。
「別にいいぞ。元々俺たちは一般的なジャパニーズピープルだ。貴族とか無理、面倒。つかどうせ没落すんなら精一杯嫌がらせしよう、国に。」
身も蓋もないヒューズの言葉に突っ込むものは存在しない。
当たり前だ、なんせ今回のことで彼らの怒りの臨界点は限界突破、成層圏を突き抜けている。むしろヒューズの言葉はまだ生温い。
「あら、だめよお父さん。ほら、ここはあれよ、生まれてきたことを後悔するレベルの苦しみを与えなくちゃ。」
「既に準備は完了しているぞ。いつでも殺れる。」
語尾に音符でもつくかのようなエリザベスの台詞に同調するのはレオンハルト。
「だめに決まってんでしょ!私の願いは自由になることなんだから!!変な気は起こすなよ!?」
何よりもうあのクソ男たちに会いたくない。と婉曲的に言うと苦々しげに、ド直球で言うと面倒臭そうな顔でアイリーンは叫んだ。しかし、その後ニヤリと笑い、家族の顔を見回す。
「まあでも‥‥‥‥あのクソ男どもがまだなんかしようとしたら全力で潰すから。だって私だけじゃなくて、これからはレオンや父さん、母さんにも手を出すってことでしょ?」
そう好戦的に嗤った家族に皆もまた悪そうな笑みを浮かべる。
既に手は回し尽くした。後は、奴らが手を出すかださないか。
「まあ、十中八九手を出してくるだろうな。あいつらプライドだけは高いから。」
「まあ、でも来たら来たで潰せばいい。迎え撃つ準備は出来ている。」
「ふふっ‥‥‥‥‥楽しみだわぁ。」
三者三様に笑みを浮かべながら、彼らは席に着いた。そして、剣呑な話を打ち切り、穏やかな笑みを浮かべて彼らはお茶会を始める。なんせ久し振りの家族団欒だ。嫌な奴らのことは忘れてのんびりと過ごしたい。
ーーー王宮で、何が起こっているのかを知りながら。
ユルッとした説明ですが、まあ要する悪役令嬢は没落ルートです。全ルートで。次回は王宮の似非王子達のお話になります。