計画
ーー時間は、少し遡る。
「‥‥うーわ。若様えぐ‥‥。」
目の前で地獄狼をねじ切ったレオンハルトにドン引きながらもゼクスは先程の魔術を分析する。
(‥‥多分、あれは上級風魔法の一部だろうな。上半身と下半身の空気を正反対の方向に回して‥‥器用だな。)
本来魔術は同時に二つ発動させることはできない。どんな低級の魔術でも、それなりの集中力を必要とする。
つまり、レオンハルトがやったことを簡単に言うと右手と左手にペンを持ち、別々の公式を同時進行で1分の間違いもなく完璧に解く、というあり得ない芸当ということになる。
(なんつーか、若様が凄すぎて自身なくな‥‥っ!?)
突然、アイリーンの気配が消えた。
一体何が起こったのか分からず混乱するがすぐに冷静になる。レオンハルトに報告するために、ゼクスは建物の上から降りる。
「若様!! 御姫さんが消えた!」
「え、ゼクス? お前、帰ってたんじゃ。」
必死になってレオンハルトに報告するも、レティシアに先程の魔術について胸ぐらを掴まれていたレオンハルトはきょとんとして聞きかえした。がっくりとしながらゼクスはレオンハルトに言葉を返す。
「どこに護衛対象をおいて返る護衛がいますか! そんなことより、御姫さんが!」
「落ち着け。」
いつもアイリーンのことで暴走しているあんたにだけは言われたくねぇ‥‥! と思い、ふと疑問が浮かぶ。
‥‥なんで、こいつ冷静なんだ?
「‥‥なあ、若様、なんか俺たちに隠し事してないか?」
「な、何を言って、る?」
「相変わらずの隠し事できない残念クオリティで安心しました。」
さあ、吐けとにっこり微笑んで囁くと、レオンハルトは顔を真っ青にしてコクコクと頷いた。
「なん、だって‥‥?」
レオンハルトからアイリーンとの計画の一部始終を聞き、アルシアは絶句する。ちなみにレティシアには先に帰ってもらった。
計画を要約すると、アイリーンを囮にして誘拐させ、相手が何を考えているのか探り、かつ決定的な証拠をゲットする、というものだった。
「‥‥元々、姉さんの誘拐計画は存在していました。それを、今回は利用したんです。地獄狼の襲撃も、相手方が仕掛けた物で‥‥」
「若様ストップ。誰が御姫さん誘拐計画を若様達に教えた?」
「エレボス。」
「‥‥あのくそ親父‥‥!」
自分に暗殺技術や諜報技術などのあれこれを教えた義父へと殺意を抱く。いつか絶対に殺る。
『面白そうだから教えた。』と抜かす黒髪に黄金と紫闇のオッドアイの男の姿が見えた気がした。
「は、早く助けに行かなくては‥‥! 騎士を呼んでくる!」
アルシアはあたあたと慌ててアイリーンを救出するために騎士を呼ぼうとする。それを、ゼクスとレオンハルトは止めた。
「ストップ、殿下。」
「アルシア、待って。」
「なぜ!?」
顔を青ざめさせているアルシアに、ゼクスは答える。
「今回、証拠が欲しくて御姫さん達は動いた。なら、誘拐に関わった人間は俺たちで捕獲した方がいい。王宮の騎士を使ったら、証拠が相手に握りつぶされる心配がある。‥‥残酷なようだが、殿下、俺たちは国を信用していない。」
「‥‥そう、か、分かった。なら、私も行く。」
「「!?」」
アルシアの言葉に二人は思わず絶句する。
いま、この王子はなんて言った!?
「今回の件、王子として見届ける義務が私にはある。‥‥それに、私は親友がさらわれて『はい、そうですか。』と帰れるほど非情ではない。」
そういって、アルシアは微笑んだ。それを見て、ゼクスは早々に諦める。
こうなったら、この妹はテコでも動かない。
かつて、笑顔で母の侍女達をものすごく困らせていたのを遠目で見たことある。
直接会うことは無かったけど、彼女の性格は把握している。ため息をついてゼクスは喋り出した。
「‥‥ハァーー。分かりました。一緒に行きましょー。」
「なっ!?」
その言葉に、レオンハルトは目を見張る。この執事は何を言っているのだと、言おうと口を開ける。
「何を言って‥‥」
「いいのか!?」
不満げなレオンハルト、キラキラと目を輝かせるアルシア。正反対の反応をする二人を苦笑しながら見据え、ゼクスは続ける。
「ただし! 俺たちの言うことには従ってください。いいな?」
「了解だ!!」
元気よく返事をするアルシアに頷くゼクス。それに納得しないのはレオンハルトだ。
「勝手に決めるな‥‥!」
「‥‥旦那様。」
「よし行こう!!」
いまだ文句を言うレオンハルトを黙らせ、ゼクス達はアイリーンを探すために歩き出した。
「ここ、か?」
町外れのあばら屋の前に、ゼクス達は立っていた。不安げに呟くアルシアにレオンハルトは大きく頷く。
「姉さんの生体反応はここから出ています。まず、間違い有りません。‥‥では、」
「まーってくださいって。こーいうのは俺の役でしょーが。
‥‥罠でもあったら、どーすんすか。」
そういって、ゼクスは扉を開けようとしたレオンハルトを止め、かわりに扉に手を掛ける。
キィッという音を立てて、扉は開いた。
「御姫さん!!」
ーー目の前に広がったのは、今にも命を刈り取られそうな、主の姿だった。




