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誘拐

リヒャルトに攫われたアイリーン。

果たしてどうなるのでしょうか?

 ーー不敵な笑みを浮かべ、そこに立っているその男を、アイリーンは睨みつける。

 それを気に食わなかったのか、男ーーリヒャルトは鼻を鳴らした。


 「‥‥随分と生意気だな。自分の立場を分かっているのか?」


 「‥‥生憎と、この程度で悲鳴を上げるような柔な女じゃなくってよ。」


 皮肉を込めて言い返すと、リヒャルトは更にこめかみに青筋を浮かべる。


 「フッ‥‥強気でいられるのも今のうちだ。誰もお前なんぞを助けに来やしない。」


 「それはどうかしら?」


 令嬢の仮面をかなぐり捨ててハンッと嗤うとようやく何かがおかしいと気づいたのかリヒャルトは眉を寄せる。


 「‥‥これは驚いた。ミスシアート伯爵令嬢は随分と野卑びているらしい。」


 しかし見下している人間を軽んじる性格のせいか嘲るように笑いながら言葉を紡ぐ。

 ‥‥バカだ、こいつ。


 思わず残念なモノを見る心持ちになる。可哀想なモノを見る目で見られていることを気づきもせずリヒャルトはベラベラと喋り出した。


 「ハァ‥‥。全く貴方の父親は何を考えているんだ! この期に己の責務を放棄するなど‥‥!! この国がどうなっても良いというのか!」


 その顔は純粋な怒りに染まっており、彼自身が本当にこの国を大切に思っていることを切に現していた。

 ‥‥あのユリアにさえ引っかからなければ、実にこの国にとって大切な家臣になっていただろう。

 しかし、今彼が相対しているのはアイリーンである。愛国心?何それおいしいの?を地でいくアイリーンである。愛国心の吐露を聞かされても彼女はだからなに?で終わりだ。


 「‥‥結局、わたくしを誘拐した思惑は何ですの?」


 そう問うと、リヒャルトは我に返ったのか真っ直ぐこちらを見据えながら答えた。


 「‥‥私は、不可解だ。貴方の一族や、貴方自身の行動が意味不明すぎて訳が分からない。終業式の言葉といい、それ以降の行動といい、貴方がユリアを恨んでいるように見えない。

 ユリアを恨んでいるのなら、かつてのように小癪な嫌がらせをすればいいものの、決してしない。

 アルフレッド王子との婚約も、復讐かと思いきや、実質的な権力のない彼との婚約はむしろマイナス。意味などない。

 嫌がらせをと言われればそれまでだが、それにしては壮大過ぎるしそんなことに乗るほどあの方はそこまでバカではない。

 ミスシアート伯爵も、この国を見捨てるような発言をしたり‥‥いや、はっきり言おう。

‥‥まるで貴方達が、この国を、滅ぼすような、そんな予感がする。」


‥‥びっくりした。本当にびっくりした。まさかこいつが本当に優秀だなんて思っても見なかった。

恋は盲目過ぎる!! こんな優秀なら気づけよ真相を!! 私いじめやってない! いじめカッコワルイ!!


 「‥‥まあ、なんてことでしょう! そのように思われているなんて心外ですわ!! 誇大妄想が過ぎます!!」


 白々しく叫ぶとリヒャルトは苦虫を噛み締めたような苦い顔をする。


 「‥‥確かに誇大妄想かも知れない。だとしても、‥‥ミスシアート伯爵家は、力を持ちすぎた。」


 その言葉と共にパチンッと彼は指を鳴らす。

すると、彼の後ろに三人の男が現れた。黒い服を着、覆面をしていて素顔は分からない。纏う空気は、裏の人間のそれで、


 「たとえ、先程の言葉が私の誇大妄想だとしても、シュトラウス公爵家の名にかけて、不穏な芽は摘んでおかなければならない。

 『疑わしきは、罰しなければならない』 ‥‥まずは、一番警備の薄い貴様から。安心しろ。すでに貴様を餌にして伯爵を他の場所へ呼び寄せている。すぐに家族に出会えるさ。

‥‥あとは、頼んだぞ。」



 その言い終わるとリヒャルトは溶けるようにその場から消えた。

微動だにしない三人の男を見て歯を食い縛る。

 ‥‥甘く、見過ぎていた。ユリア・ハルドゥークに現を抜かしてたとはいえ、彼は公爵家の人間。警戒しなくては、いけない相手だった。


 ゆっくりと、男達は近付いてくる。懐からは、ギラリと妖しく光るソレ。

 ごくりと喉を鳴らして男達を睨みつける。

真ん中の男が、躊躇いもなくソレを振り下ろそうとしたーー




 あかく染まるコンクリートの地面。

転がる自分の体。馬乗りになっている男。何かを振り下ろしている。


 『くそ、くそっくそっ‥‥くそぉ‥‥!!!』


 『何でなんだよぉ!! 何で俺がぁ!! 俺の方が、上に決まってるのに‥‥!!』


 振り下ろされる度に、アツい何かが自分から零れる。

その熱さは、痛みだった。


 『死ねぇぇぇぇぇぇっ!!!』




 一瞬のビジョン。

一体、今のは何だったのか。

ただ、このままでは、自分は、あの時みたいに、






 「御姫さん!!」










誰かが、自分を呼んだ、気がした。

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