下町
「らっしゃいらっしゃい!! おいしい果物だよう!」
「かわいい小物はいかがぁ!」
わいわいと賑やかな通りを抜けてアルシアはほおっと息を吐く。
何もかもが初めてで、真新しかった。
「アルシア、どう?」
アイリーンの言葉に思わず破顔してアルシアは答えた。
「とても興味深いな‥‥! こんな体験は初めてだ。レティシア殿、感謝する。」
「いえ、この程度でよろしければ、いつでもおっしゃってください。」
ニコニコと微笑むレティシアにアルシアも微笑み返した。
ーーレティシア・ベルベットはたいそう変人の令嬢である、というのは社交界でも有名だった。
魔法の才に恵まれていながら、武術を好み、舞踏会よりも武道会、貴族の優雅な暮らしよりも下町の煩雑な暮らしを好む、と。
それは事実だった。
「レティじゃねぇか! 調子はどうだい!」
「おかげさまで順調だ。また新しい果物を仕入れたのか?」
「レティちゃん! さいきんどぉーお?」
「元気そのものだ。この小物可愛いな‥‥二つくれ。」
彼女は、下町を愛し、愛されている。
『鳥籠』や王宮で暮らしていた自分には、想像もつかない世界で、彼女は生きていた。
「どう? アルシア。」
「ああ‥‥。」
ニコニコと笑っているアイリーンにレオンハルト。
それを見て、何とも言えない気持ちになる。
小物にレティシアが気を取られていることを確認して、問いかける。
「‥‥本当に、この国を潰すのか?」
笑いながら暮らしている人々、貧しいながらにも、たくましく、幸せそうに生きている彼らを見て、愚弟のせいで彼らの生活を壊すのかと問いかけるとアイリーンとレオンハルトは互いの顔を見合わせる。
「‥‥そういえば、アルシアに作戦の細かいところ教えていなかったわね。」
「‥‥そもそも婚約者になる、と言うこと以外教えていなかったですね。」
引きつった顔をする二人に何やら罪悪感が芽生える。
いや、自分は何も悪くないだろう。
一人で自分にたいしてツッコんでいるとアイリーンは話し始める。
輝かんばかりの笑顔で。
「えっとね、単純に言うと、私達であのクソ王子達を抑えといて、父さん達でこの国を“平和的”に潰すために色々動いているんだけど。」
続けざまにレオンハルトが語り出す。
かなりの早口で、疲れないのだろうか? とそんなことをアルシアが思っていることは知らずに。
「まあ、要するにお隣のユーイェン公国と手を組んでこの国を乗っ取って貰おう、ということです。」
うん、何を言ってるんだ?
一瞬、何を言っているのか分からずキョトンとする。そして、サァッと血の気が失せた。
「ユーイェン公国と手を組んだ? ‥‥それこそ大丈夫なのか!?」
思わず叫んでしまい慌てて周囲を見渡す。
聞かれていたら、と思ったが周囲の喧噪のお陰か聞かれてはいなかった。
ほっと息をつきアイリーン達を睨みつける。
「別に、アルシアを信頼してないとか言うわけじゃ、ないのよ?
忘れちゃってただけで‥‥。」
「それは良い! 一体どういうことだ!!」
敵国と手を結び、国を乗っ取らせる、とは王族として聞き捨てならないこと、‥‥敗戦国は、どんな扱いを受けても文句は言えない。
元々因縁があるなら、尚更。
「大丈夫ですよ。貴族は僕たちの味方以外は知りませんが、民達に無駄な犠牲は出させません。ミスシアート伯爵家嘗めないでください。‥‥それとも、僕達はそんなに信用できませんか?」
真摯に訴えてくるレオンハルトに思わず言葉が詰まる。
‥‥そして、顔を下に向けた。
彼らに、助けを求めておいて、何を自分は偉そうに言っているんだ。彼ら(ミスシアート伯爵家)になら、それぐらいできるだろう。
というよりも、していることだろう。
少しでも疑った自分が恥ずかしい。
「疑って、申し訳ない‥‥!」
頭を下げる。
胸の内は、罪悪感でいっぱいだった。
「‥‥どうしよう、罪悪感が‥‥!?」
「耐えてください姉さん!! かく言う自分も押しつぶされそうですけど!!」
何やら姉弟でこしょこしょと話しているが良く聞こえない。
下げていた頭を戻し、首を傾げていると後ろから肩を叩かれる。
「アルシア殿、アルシア殿も何か欲しい物があるのではないか?
‥‥それとも、何か不満でも?」
どこか不安げに微笑むレティシアを見て頬を緩ませる。
案内して貰っている身の上でありながら、相手を不安にしてしまうとは‥‥。
「む、そうか、せっかくだしな‥‥。」
少々申し訳ないと思いながら、足を踏み出した、その時だった。
ーー爆音が、後ろから襲いかかった。




