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夜襲

ーーヒューズ達がフゥシェンと取引していた、その頃。


「いーち、にーさーん。しー‥‥。んー? こんだけかよ。」


何やらブツブツと数えながらゼクスは学院の庭にいた。

聞き手がいないにも関わらずゼクスは続ける。


「んー。メンドーだけど、御姫さんのために頑張りますかぁ。」


ゆっくりと歩みを進めるゼクスの瞳は、いつもの青色とは違う、銀色に輝いている。


「北五百メルに一人、東南百メルに二人、西南三百メルに一人。‥‥まずは、東南。」


そう言うと、一瞬にしてゼクスの姿はかき消えた。

東南の方角から小さい悲鳴が上がったことに、気づく者はいなかった。







「‥‥はーい、最後のひとーり。」


ニコリ、と笑いながら彼は一人の男の前に降り立った。

その男は憎々しげにゼクスをにらみつけた。


「なぜ、貴様のような一介の従者風情が、古ツォルフェライン正当剣術を‥‥!」


「あんたこそ一介の暗殺者のくせにかなりガッチリと型にはまった剣を使うな。‥‥あんた、騎士か。」


その言葉に、答える必要は無いと言わんばかりに男は顔を歪める。

それを見て一つ、ゼクスはため息をついた。


「まぁったく‥‥うちの御姫さんがなにをしたっていうんですかー? もしあんたがカシム王子のとこの奴だったらとんだ逆恨みだぜ?」


男を見下ろしながらゼクスは問う。

その問いの答えは意外なものだった。


「何を言っている? 私はカシム王子に仕えてはいない。そもそもその“御姫さん”とは誰のことだ?」


「へ?」


思わず口を開けてゼクスは男を凝視する。

なら何でこんな夜中にこんな場所に?


「‥‥あー。どういうこと?」


「それは私が聞きたい。」


謎の沈黙が場を支配した。たまらずゼクスは再度問いかける。


「えーと、あんたが狙ってる人は?」


「狙っているだなんて失敬な。私はとあるお方の依頼で物を運んでいただけだ。」


思わず顔が引きつる。

どういうことだそれは。

というよりも運ぶだけなのになんで四人も必要なんだよ。


「‥‥なんでそんな大がかり‥‥てか大人数で?」


「配達先のお方は私達の主を嫌っている。だから問答無用で受け取って貰おうと実力行使のための人材だが?」


「うおい!?」


思わずゼクスは頭を抱える。

男は眉間にしわを刻みながらゼクスに問いかけた。


「‥‥私の部下達は?」


「あー‥‥とりあえず生きてる。ギリ。」


「‥‥‥‥。」


無言の抗議にゼクスはソッと目を逸らす。

男は諦めたのかはぁっとため息をついた、その時だった。


「‥‥そこで何をしているのですか? ハロルド。」


「!? ルゥシェン様!!」


突然音も無く現れた水色の髪の男に男、ハロルドは顔を青ざめさせる。

その声の主を見てゼクスは目を見開いた。


「‥‥ここではそう呼ばないでください。今の私の名はルキンソン。ルキンソン・トゥンヤイです。」


心底嫌そうに顔を歪めるルキンソンだったが、ゼクスを見るとにっこりと微笑んだ。


「お初にお目にかかりますね。“フレッド”さん?」


クスリ、と笑いながら問いかけるルキンソンにゼクスは警戒を強めて詰問する。


「どこで、それを?」


「さてどこででしょう?」


ーーすると、ザァッと風が吹き、雲の隙間から洩れる月明かりが三人を照らした。

吹いた風のせいで、ゼクスの素顔が晒される。それを見て、ルキンソンとハロルドは信じられない物を見たかのように大きく目を見開いた。


「な‥‥!?」


「‥‥ここは冷えます。一先ず私の寮室でお話をしませんか?

‥‥色々と聞きたいこともありますし。」


呆然とするハロルドとは対照的ににルキンソンは先程の動揺を綺麗に押し隠し提案する。

ゆっくりと歩み出すルキンソンとその後ろをヨロヨロとしながら歩くハロルド。

その二人を見て、ゼクスもゆっくりと歩み出した。

ーーいつでも動けるように、暗器を構えながら。


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