主人
今回は前回初登場の二人組がメインです。
「はーなーせー。」
「離したらすぐお嬢様はお逃げになるでしょう?」
「“猫”のくせにーーー!!!」
「はい、私は旦那様の猫でございます。」
ジタバタと暴れていたテレジアは“旦那様”と聞いた瞬間に動きを止める。
ギギギギギッという音が似合うような動作で後ろを振り向いた。
「‥‥父上、」
「知ってらっしゃいますし、許可も頂いております。」
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「お静かにしていただけませんか? お嬢様。」
「全くだよねー。」
「「!?」」
何処か甘い、柔らかな第三者の声が響いた。
聞き覚えがありまくるその声に二人は顔を強張らせて振り向いた。
ーーそこにいたのは、榛色の髪に、紫の瞳の美少女と見まごう程の美少年。名を、デニー・クラウディアス。
「あは、おにーさまじゃない。なんのよう?」
「んー? 強いて言えばバカ妹から優秀な召使いを取り上げにかなー?」
冷たい、何かがバチバチとぶつかっている。
デニー・クラウディアスとテレジア・クラウディアスは仲が悪いことで有名だった。
優秀な兄に不出来な妹。周りの評価はいつもそう。
常に互いを比べられ、ついた呼び名は『凸凹兄妹』。
兄に見下されているテレジアを父、メーヴィスは気遣い、自身の猫、フレッドをお付きへと仕えさせたのだ。
それを、デニーはながらく不満に思っていた。
「父上だってさー。いい加減その猫を僕にくれても良いのに。不出来なお前には分不相応だってゆーのが分からないのかなぁ。」
「‥‥てよ。」
「んー?」
ふるふると震えるテレジアを挑発するようにわざとらしくデニーは首を傾げる。
「撤回してよ!! 私のことはどー言っても良いけど! フレッドをもの扱いするな!!」
「だぁって“猫”なんでしょう? なら問題ないじゃん。」
二人のケンカは常にフレッドが原因で起こった。
フレッドを欲しがるデニーに反発するテレジア。
いつしか二人の間にある溝は修復不可能なまでに陥っていた。
「‥‥落ち着いて下さいお嬢様。それに、若様。私は旦那様の猫でございます。貴方様の命令に従う義理はございません。」
慇懃無礼、という言葉そのもののように、頭を下げながらフレッドは答えた。
「ふーん。そっかぁ。なら‥‥。」
「そこをどいて下さいませんか?」
「マス、先輩の邪魔をしないでください!!」
「「「!?」」」
そういってデニーの言葉を遮ったのは水色の髪の青年に、桃色の髪の少女だった。
不機嫌そうに鼻を鳴らすルキンソンにデニーは苦々しい顔をする。
「‥‥トゥンヤイ先輩? まぁたユリアじゃなくてそんな女を構っているんですかー?」
「彼女は中々珍しい魔力の持ち主です。研究の一環で関わっているだけだと申しているでしょう? それよりも、先程ルドロス師が呼んでいました。早々に行った方がよろしいかと。」
「‥‥ふんっ。」
“ルドロス”という名を聞いた瞬間顔をデニーは青ざめさせて苦虫をかみつぶしたような顔をして去って行った。
それを見送るとルキンソンは口端に笑みを浮かべた。
「‥‥助けていただき、ありがとうございます。」
「‥‥ありがと。」
するとクスリとルキンソンは微笑んでフレッドを見つめた。
「‥‥いえ、それよりも。‥‥その“猫”が大事ならきちんと意思表示をしてなくてはいけませんよ?」
「!?」
「‥‥分かってるわよ。」
「バイバーイ!!」
では、と慇懃に頭を下げてルキンソンと手を振って元気よくサーシャは去って行った。
「‥‥助けて貰ったけど、あいつむかつく。」
「‥‥。」
頬を膨らましながら不満げにテレジアは呟いた。
いつもならすぐにそういった行動を嗜める(物理)フレッドはどこか上の空だ。
それを不信に思いテレジアは眉を寄せる。
「フレッド-?」
「!? いえ、何でもありませんよ。さあ、行きましょうか。」
一瞬大きく体を震わせたフレッドだか、次の瞬間にはいつもの無表情に戻り、ガッチリとテレジアの腕を掴んだ。
「いっ!?」
ギャアギャアと騒ぐテレジアを宥めながらフレッドは遠く去っていくルキンソンを睨みつけた。
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「ごちそうさま、美味しかったわ。」
「しゃぁっ! お粗末さまっした。」
綺麗に完食したアイリーンを見てゼクスは顔を綻ばせる。
明日は何を作ろうか、考えながら下げようとするとそれを阻まれた。
「‥‥どうかしたっすか? 御姫さん。」
「あ、あのね。」
目を泳がせながら、まるで今にも泣きそうな顔をしてアイリーンは呟いた。
「‥‥ゼクスは、私が、私達が没落しても、この国を終わらせようと動いても私達と一緒にいてくれる?」
思わず目を見張る。何を今更。この御姫さんは。
髪を掻きながら目前で泣きそうな顔をしているアイリーンに微笑みかける。
「‥‥御姫さーん? 忘れたんすか? 俺は、例え御姫さん達がなにをしようと、どうなろうと関係ありませんよ? ーー俺は、御姫さんの従者です。」
そういって、ゼクスは髪を掻き上げ、その顔を晒す。
ーーその、普段隠していた左目の上には、美しい容姿に不釣り合いな大きな古傷がついていた。
「なにがあっても、お側から離れませんからねー?
‥‥一生掛けて、お仕えします。それが、俺、“ゼクス・アランソン”が絶対に譲れない、一線ですから。」
そういって、ゼクスは主人に跪いた。
ーー窓からは、夕暮れの太陽が最後の日差しを射し、どこか悲しく辺りを照らしていた。
‥‥なんかイマイチギャグになりませんでしたね。
どーやったらギャグって上手くなるんだろう。




