従者
今回は甘いものを目指します。
妥当! 恋愛成分!!
ーードサリ、とアイリーンは寮室のベッドに倒れ込んだ。
サーシャ達との会話は予想以上に精神にダメージを与えたらしい。
あの女子会の雰囲気怖い。
「ニヒヒヒッ! だーいじょーぶ?」
「お陰様で、ねぇ!?」
「それはよかった。」
特徴的な笑い声を上げながらそう問いかけた少女にアイリーンは反論する。
榛色に橙色の瞳の、その美少女の名はテレジア・クラウディアス。
驚くべき事にアイリーンの同室の友人にしてあのデニー・クラウディアスの妹だ。
「御姫さーん!! なんかやつれってけどだいじょーぶっすかー!?」
「あたしに近付くんじゃないわよ!!」
「いつもより辛辣!?」
「おおー? ついにミスシアート先輩にも春がきたんですかぁ?」
「あんたも何言ってんのよ!?」
先程のサーシャ達との会話を思い出し真っ赤になりながら拒絶するアイリーンにショックを受けているゼクス。
それをニヨニヨしながら観察するテレジア。
すると、突然声が響いた。
「野暮な詮索はおやめ下さい。お嬢様。」
音も無く、一人の男が現れる。
そして、ガシリ、という擬音が似合う程勢いよくテレジアの頭を鷲掴みにする。
「お? フレッド?」
後ろからテレジアの頭を鷲掴みした、フレッドと呼ばれた男は大きくため息をついた。
黒い髪に瞳のその男はどこら異国風ですらある。
「いつもお嬢様が大変もうしわけありません。」
「いや、慣れたわ。」
「御姫さーん。俺ってなんかしましたっけぇ!?」
「フレッド-。いい加減頭を掴み続けるのやめてー。」
「「二人とも黙れ。」」
「「‥‥はーい。」」
ムッツリと黙り込んだテレジアに不満げなゼクス。
そんな二人を見てため息をつきつつフレッドは深々とアイリーンに頭を下げた。
「此度は当家の若様が大変もうしわけありませんでした。」
「‥‥おにーさまがごめんね?」
先程の表情を消してしょんぼりとしてしまったテレジアにアイリーンは苦笑する。
‥‥いつもこんなんだったらいいのに。
「別にいいわよ。あんた達が悪かった訳じゃないし。」
「そっかぁ!!」
にぱっと笑ったテレジアにアイリーンは青筋を浮かべる。
どうしよう、すごい殴りたい。
「‥‥御姫さーん。そろそろ放置はきついっす。」
「‥‥ちっ!!」
「舌打ち!?」
「アイリーン嬢。それぐらいになさったらいかがですか?そろそろウザったいです。」
「‥‥俺、泣いてもいい気がする。」
「ドンマイ!!」
どこか遠い目をするゼクスに無責任な励ましを送るテレジア。
それを見てアイリーンとフレッドの心はシンクロした。
なんか、むかつく。 と。
「‥‥お嬢様。今日は図書棟に行きましょうか。マナーを含めて復習しなくてはいけないところが大量にありましたよね?」
「ゼクス! 早くこっちにきなさい!! 今日のおやつはミルフィーユがいいわ。」
「い、いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!!!」
「!! 了解しました!!」
片や絶望を、片や歓喜を満面に滲ませてそれぞれの場所へと二人は戻って(連れ去られて)行った。
「待っててくださいね! すっごいミルフィーユ作りますから!!」
「‥‥ふんっ。」
その、満面の笑顔を、なぜかアイリーンはまっすぐに見ることができなかった。
‥‥恋愛成分って、強いですね。




