奇策
わーいやっちまったぜぇぇぇぇぇ!!!!
‥‥投稿しちまった‥‥。
現実逃避も大概にしようよ私‥‥。
ルキンソン・トゥンヤイは笑みを浮かべ、固まっていた。
『あら、どういたしましたの? トゥンヤイ殿? 』
「色々と言いたいことがありますが、私は貴方に水晶伝達魔道具の番号を教えていなかったのはずですが?」
『細かいことはお気になさらず。』
そういって妖しく艶やかな黒髪の少女ーーアイリーン・ミスシアートは水晶越しに笑った。
なぜだ。
この番号はごく個人的なもので第二王子にも、ハルドゥーク男爵令嬢にも教えてはいない。それを、なぜ。
『カシム様にもユリア様にも教えていないのに‥‥‥というお顔ですわね。』
「!?」
まるで心を読んだかのようなその言葉に、内心動揺しながらも自分は笑みを貼り付ける。
大丈夫。きっと誤魔化せる。
『ところで‥‥‥自立するためのパトロンをお捜しだとか?ーーールーチア魔道教団第二幹部のルキンソン・トゥンヤイ殿?』
「!? なっ‥‥!?」
何故、バレている!?
独立の件もそうだが、なぜ、自分が、ルーチア魔道教団所属で、幹部だと!?
『ミスシアート伯爵家を馬鹿にしていらっしゃる?このぐらいの情報、簡単に手に入りますわ。』
「なら、なぜ‥‥!? 」
なぜ、あの時、なすすべもなく!?
『わたくし、元々王妃にだなんて、なりたくなかったのですわ。よって、流れに身を任せておりましたーーー回りくどいお話や、関係の無いお話は置いといて、本題に入りましょうか。』
突然、空気が変わった。
画面越しでも分かるほどの、重いプレッシャー。
逆らったら、殺される。
『わたくし、アイリーン・ミスシアートは、ジッリョネロ商会の代表取締役として、貴方を専属の魔道師として雇いたい。ーーー拒否権は、ない。』
その言葉に、今度こそ気が遠くなった。
ーーージッリョネロ商会。
それは、この国に住む人間の中で、それどころか他国にさえ、知らぬ者はいないと思われる大商会だ。
こっそりと真実鏡を発動させる。
ーー嘘は、ついていなかった。
頭を必死で働かせながら、考える。
「‥‥‥報酬は? 」
拒否したら、命はない。
しかし、どうしてもそこだけは聞きたかった。
『時々貴方が発明した魔道具を提供したり、魔道書を書いてくれたら、後は好きにしてくれて構いませんわ。まあ、他にもやっていただきたいことはありますけど。』
あまりにも破格な、破格すぎる条件。
思わず裏を疑ってしまうが、自分の魔法により、彼女の言葉に嘘はないことは証明されている。
「‥‥“他の”とは? 」
『復讐のお手伝い、かしら? 』
その言葉に笑う。なんだ。
「ーーーいいでしょう、その申し出、受け入れます。」
微笑みながら答えると、一気に場を支配していた謎の空気は霧散する。
それにホッとしながら彼女の言葉を待った。
『よかった。あ、あと、レディの心の中を覗くなんて、野暮なことはなさらないように。嫌われますわよ?愛しの仔猫に。』
その言葉に、再び固まる。
そんな自分を嘲笑うかの如く、水晶伝達魔道具はプツリときれた。
●○●○●○●○●○●○
「どーどー!!! 落ち着いて若様!! 」
一方水晶伝達魔導具をきったアイリーンの寮室はカオスの坩堝と化していた。
「これが、落ち着いていられるかあぁぁぁぁぁ!! あいつ! 姉上にぃぃぃぃ!!! 」
髪を振り乱して暴れるレオンハルトにそれを抑えるゼクス。
それを見て見ぬ振りをしながらアイリーンは答える。
「安心しなさい。ちゃんと釘は刺したわ。」
すると、今まで固まり、何も言わなかったアルシアがおそるおそるアイリーンに問いかける。
「ア、アイリーンはジッリョネロ商会の代表取締役だったのか‥‥!? 」
その言葉にクスリと笑う。
ーーー前世の私は、お菓子作りや料理が趣味だった。
その時に色々と作っていた物をこちらで再現し、売ったら大成功。いつの間にか大商会へとのし上がっていた(ちなみに今売っているのは食品、化粧品、本など。)。
「まあ、色々と、ね? 」
そう言うと若干気圧されたようにアルシアはコクコクと頷いた。ナニその態度。アイリーンちゃん悲しい。
「で、なーんで御姫さんはあいつと連絡とったんすかねぇ? 」
すると、後ろから絶対零度の眼差しを感じた。
「え、ゼ、ゼクス?どうしたの?目が笑ってないわよ。」
「いいから答えろ御姫さん。」
間髪入れずに即答するゼクスにアイリーンは背筋を凍らせる
これはマジだ。
「は、はい!! 」
ナニこの人怖い。いつもと違う。
そう思いながらアイリーンは言い訳を開始する。
「えーとね、あっち方面からの情報が欲しかったのと、単純に質の良い人材が欲しかったからです。それにあいつは私に直接なにかをしたことなかったし。」
「情報収集ならニート執事がやるし、質の良い人材は俺がいますよねぇ!!! そして手を出していなくても姉さんを守らなかった時点で敵です!! 」
くわっと泡を食ったように噛みつくレオンハルトを落ち着かせつつ、アイリーンはそーっとゼクスを見る。
眉間に手を置いて、深いため息をついているゼクスに思わずポツリと言葉をこぼした。
「あ、あんたが‥‥‥大変そーだから、情報収集楽になるかなーって、思ったのに‥‥‥。」
「「「‥‥‥‥。」」」
空気が固まった。
何だか居づらくなってこっそり出て行こうとするとガッチリと腕を捕まれる。
「‥‥御姫さん。」
「な、なによ!? 」
「気持ちは嬉しい。ありがとな。けど、無茶だけはするな。」
ヘラリ、と笑いながらも真剣なその瞳で見てくるゼクスに思わず頭の中が真っ白になる。
気がつけば殴りかかっていた。
「グベラッ!? 」
「ゼクスの癖に生意気なのよ! 」
そういって今度こそ部屋から走って出て行った。
何だか、ほっぺたが異様に熱くて、心臓がうるさかった。
とにかく、この思い通りにならない感情をどうにかしないと、そう思いながら、アイリーンは走って行った。
あっまぁぁぁぁぁいいいいい!!!
当社比の百倍今回は甘い!!!
ラブ難しいーよぉぉぉぉぉ!!!
あと少しで完全復活できます。
長い間、大変お騒がせしました‥‥。
短編も、よろしくお願いします。




