それが罰だというのなら。
もうやめてほしかった。
私のためにと貴方は言うけど私はそんなこと望んでいなかったのに。
許せないと、そう言って今日も貴方は命を奪う。
その行為は、好意は、たくさんの溢れんばかりの怨みと哀しみを生むの。
貴方のいう敵に囲まれて、今にも命を奪われようとしても、貴方はまだ私のためだと叫ぶのね。
私のためにと、思わなければ…
私を愛さなければ…
私と出会わなければ…
ああ、それでも私は貴方を愛さなければと思えない。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
愛しているわ、貴方がどれほど屍を築こうとも。
だからこそ、本当は優しい貴方に、これ以上手を値で染めて欲しくはないの。
だからお願い、これ以上…
稀代の魔術師とかつて期待され今や悪鬼と呼ばれる少年に愛された女は優しく微笑み、
側に居た騎士の二本目の剣を抜きさるやいなや躊躇う事なくその胸を貫いたのだった。
*****
「死なれちゃ困るんだよねェ。」
麗しき顔の国王は笑った。嘲笑った。
「あの子はさ、まだ必要なんだよ。壊れちゃ困るんだよねェ。」
私の左の義手と両方の義足は消え去り、深い傷さえ消え去り、元の姿へと戻って寝台に寝かされていた。
その縁に私を覗きこむように座る国王。
ガチャリと鎖の音が聞こえ顔を向ければ、鎖に繋がれ転がされた蒼白の顔をした愛しい人がいた。
「金の魔術師様…」
思わず漏れた声に私も彼も目を見張る。
両足を切られ片手をもがれ喉を潰されたはずなのに。
彼でさえ、治せないと泣いたのに。
泣いて、泣いて、泣いて、自分を責めて、世界を恨んだ。
それなのに、何故。
「金の魔術師、私は彼女を治せる。
むろん、お前もね。
彼女が死のうとしても甦らすョ。
惨く苦しめ、そして甦らす。そんなことも可能なんだよォ。」
国王は高らかに再び笑う。
彼が口を動かすが声は出ない。
その表情から国王に何か怒鳴っているのだろう。
「ハッハッハ、怖い顔だねェ、金の。
君が悪魔信仰を潰すなら可愛い小鳥は君にあげよう。」
彼がこちらを向く。
声の出ない口を動かす。そして微笑み、王に頷いてみせた。
《唄を聴かせて。》
声が出なくたって、何を言っているかなんて解る。
そして彼は連れ出される。
地獄に。
「たのむよ、小鳥ちゃん。あの子が正気でいられるように、あの子が死なないように、ちゃーんと囀ずってあげてね。」
国王は笑いながら出ていく。
私は高い塔に閉じ込められた。
鉄格子はない。
鍵もかかってはいないだろう。
けれど私は逃げられない。
彼も逃げられない。
私達は二人ともお互いを想うがゆえに、見えない枷をはめられた。
国王の掌で踊るしかないけれど、それでも貴方が望むなら、貴方が生きてくれるのならば…
城の外れの北の塔には歌姫が住まう。
朝晩とそして午後のお茶の時間に美しい歌が聴こえてくる。
悪魔に憑かれ正気を失った稀代の魔術師を救ったのは彼女の唄だという。
悪魔に憑かれた魔術師はその行いを悔い、悪魔信仰の犠牲にならんとしている人々を救う為戦っているという。
歌姫はその魔術師の為に唄っているという。
いつか再び共に過ごせる日を願い…
一年とたたぬうちに、そんな話が吟遊詩人達に吟われ始めた。
******
死んだように彼女の膝枕で眠る少年を撫でながら、彼女は呟く。
「貴方を愛したことが罪だというのならば…
貴方を止められなかったのが罪だというのならば…
私は生きて唄いましょう。」
少年の顔も身も血で赤黒く染まり、彼女も汚すが全く気にはしていなかった。
死者には心の中で詫びる。
詫びてどうにもならないのは知っているが、それでも、だ。
哀悼と、彼が生き長らえた事への相反する思いを抱きながら彼女は再び歌い出す。
それが罰だというのなら、私は逃げる事なく受け止め続けましょう…
出るのは狂気持ちの人ばかりでした…orz