特別におみやげ
そうは言ってみたものの・・・。
「ただいま」
「あら健、ご飯は?」
「いる なに今日?」
「焼き魚だけど健は魚嫌いだから、ショウガ焼きしよか?」
「おぅ」
魚は嫌いだ。生臭いし、でも一番の理由は骨がめんどくさいってことだと思う。
ごはんができる頃虎次郎も帰ってきた。
「虎次郎、お魚あるわよー」
ニャー
あいつはやっぱり猫だよな。魚好きだし・・・しかしあれは、晴香の食べたあとの魚、残飯だよな。信じられない、おいしそうに食べやがって。
まぁいい。あいつは俺になれるんだぜ。俺と姉貴しか知らない秘密。きっとこれから面白くなる。
「きもいー」
バタバタバタ
「虎次郎みてにやけてるー 健、きもすぎるー」
晴香が二階に逃げて行った。どうやら俺は考え事に夢中になっていたが、顔がにやけていたらしい。
ナー
虎次郎もしらけた目で見ると、スルッとソファーへ飛び乗って丸くなった。
なんだよ、さっきまでとえらい違いだな。
食後
俺の部屋には俺専用のテレビがある。だから、家族用のテレビを囲んだことなんてなかったが、虎次郎を自室に連れて行くためソファーに腰をおろし、適当にテレビをつけてまるまる虎次郎に話かけた。
「俺の部屋で話そうぜ」
耳がピクッと動いた。聞いてるくせに聞こえないふりをしているようだ。
脇腹をくすぐってみた。ビクッ ちょっと身体を持ち上げた。俺の話を聞いてくれるのかと思ったら、鼻から抜けるような声で
ムムゥー
と鳴き前足を伸ばすと、猫おきまりの のびー をして、ソファーからぴょんっと降りた。俺の部屋にむかうのかとちょっと期待したが、虎次郎はホームセンターで母親が買ってきた、猫タワーにのぼった。逃げられた。冷たい奴だなー。姉貴の家では乗り気で、俺に懐いたと思ったのに、姉貴がいないとだめなのか・・。
猫は気紛れっていうしな。
俺も今日は寝てしまおう。そして、作戦を練ろう。
つれない虎次郎にがっかりしたが、今までと違い明日がくるのも待ちどうしい思いだった。他の奴にはない
特別
ってやつを手にいれた気がした。
しかし、どーやって猫様の機嫌をとるかなー。
明日はバイトだ。バイト先の魚でも買って、食べ物でつってみるか。
バイト終わり、プルルルルル
「はい」
「あ、姉貴 まだ虎次郎いるかな」
「は? いるけど。 もう9時じゃない、バイトがえり?」
「魚たべるかなーって?」
「なに、餌付け?」
「なんだよそのいい方」
「虎ちゃん、健が魚食べたいかって」
「さかなたべるー」
釣れた。相変わらず能天気なやつだ。ま、俺に会いたくないわけではなさそうだな。俺は今から行くっと伝えると電話を切り、急いで姉貴の家にむかった。
俺の姿じゃなきゃ話にならない。今日は俺の前でも変身するようあいつにいってやる。あ、違う お願いするの間違いだ。下手に、そして下手に。