俺になれ
「ほんと 俺そっくりだよなぁ」
虎次郎に向かって話しかけてみた。チラッと見たがすぐにまたバニラアイスに夢中になった。
「健なんか変なたくらみしてない?」
鋭い。姉貴がむすっとしながら、
「このことは内緒よ、私たちだって普通じゃいられなくなるわよ、虎次郎を見せ物にしようなんて考えてないでしょうね」
と言った。正直、虎次郎が俺になれるからといって、何か悪だくみしようとしたがイマイチこう、なんていうか俺が得するような策が浮かんでこない。ただほんとにコレを利用しない手はないって思うだけで。
「わかってるよ、俺だって虎次郎のこと内緒にしておきたいんだから」
「そう」
姉貴はほっとしたようだった。
「たけるはほんとうはやさしいにゃ」
虎次郎わかってるじゃないか。てかほんとバカだよなー。
「そうだろ、なぁ俺に変身してなんかしてるのか?」
ん?みたいな・・・反応。首をかしげた。コイツ俺の質問の意味が解ってないのか・・・
「とらちゃんは頭いいのよねー 健になっておいしいもの食べて、遊園地もいったわよねー」
「ゆうえんちいったー またいくー」
くらっとした。幼稚園児くらいの頭なのかコイツは。まぁいい、とにかく俺に懐いてもらわないと。
「猫って実はみんな人間になれるとか?」
「虎次郎は特別なのよねー。猫のエリートなんだって。選ばれし猫なんだから」
そうは思えないが、姉貴の言葉にちょっと得意げにしている虎次郎が面白かった。
「じゃあ、俺の代わりに学校いくとかできる?」
バチッ
姉貴がすごい早さでどついてきた。
「まさかあんた虎次郎に学校に行かせて、自分は家で寝てようなんて考えてるんじゃないでしょうねぇ」
「あ、え、冗談だって。どう考えてもばれるっしょ」
ははは
ちょっとそんなことできたらいいなって思ってたんだけどな。
「がっこういったことあるよ」
「「え?」」
「たけるのあとついてったことあるよ」
「虎ちゃん学校にいったの?」
「うん」
「なにしてたんだよ」
「んと、げんかん?でたけるいなくなって、ねむたくなって、おはなのとこでねてて、んんっとー、みんなでてきたからへやにはいってみた」
「中に入ったのかよ」
「たけるのにおいのつくえまでいったにゃ」
自慢げに言ってきた。
「がっこうたのしいの?」
「え・・・」
虎次郎が俺に質問してきた。なんて答えようか一瞬悩んだが、
「楽しいに決まってるやんか」
ちょっとイントネーションがおかしかったかな・・・
「いいにゃ、べんきよしたいにゃ」
ぷ、べんきよ 吹き出しそうになったが必死にこらえた。でもこれはつかえるかもしれない。
「虎ちゃん、学校にいくのはできないわよ、健だって一応、小学校、中学校、高校って順番に勉強してきたんだからね、急に高校にいったらわからないこといっぱいよ」
「そっかぁ たけるいいにゃ」
「でもでも、俺の学校あたまよくないからさ、なんか楽ぅな授業の時、お前行ってみるか?」
「はぁ?」
姉貴が大きい声をだした。
「虎次郎に行けるわけないじゃない、何言ってんのよ」
「どうかな、とらじろう?」
自分でも驚くほど猫なで声で聞いてみた。
「いいの?」
虎次郎は乗り気だ。
「虎ちゃんやめなさい、家族以外の人間に話したこともないでしょ、酷い目にあうかもしれないのよ」
姉貴は乗り気じゃない。
「俺が 完璧な俺 になるよう特訓してやる」
「はぁ?」
また姉貴は、馬鹿なこと考えないでちょうだいなんて言ってきたが、虎次郎は俺に新しい何かを求めているようだった。
やだ虎ちゃんまで・・・信じらんない なんて言いながら虎次郎を説得していた姉貴だったが、
「俺のかわりなんだから、なんかあったら俺に降り掛かってくるだけじゃん。虎次郎も刺激がほしいよな、な」
「しらないわよ、ただ虎ちゃんにひどいことしたらすぐやめさすから」
ついにやった。姉貴も落ちた。
「よし、とらじろう 俺になる特訓だー」
ちょっと馬鹿っぽい会話だったが、虎次郎は俺に期待している。俺の言うことをきく、あの目は何も疑ってない。
ここからが勝負だ。まずは、俺に近づけないと。