つれない奴
木曜日
虎次郎のことが頭を占領して眠れなかった。
試験勉強の一夜漬け以来の徹夜。あ、試験勉強は諦めてねたんだったかな・・・。
朝からだるかった。
『昨日、返信はー?待ってたんですけどー』
変な絵文字と共にメールがきた。麻美からだ。すっかりかけ直すのを忘れてた。夜はほぼ携帯を見て過ごすのに、昨日は充電すら忘れた。
『Re:
なんか用事あった?』
『Re:Re:
なんそれ、健が暇してると思ってかけたのに。なにしてたん?』
『Re:Re:Re:
暇やなかってんなこれが』
『Re:Re:Re:Re:
ふーん、まぁいいや レオンいついくー?』
あーめんどくさい。今はそれどころじゃない。あれだけ彼女に嫌われたくないと思って頑張ってた自分が嘘のように、俺は
『Re:Re:Re:Re:Re:
当分かんべん 家でいろいろあってさ』
なんてメールをしていた。嘘をついた。
いろいろあったのはあったんだけど。麻美には悪いが、今はそれどころじゃない。
麻美からの返信はなかった。
放課後
授業の大半を昨日見たことの復習と、これから姉貴の家に行く予習で過ごした。
そしてそそくさと教室をあとにした。
ピンポーン
姉貴は17時に仕事が終わると言っていた。まだ17時前、誰もいない。
「虎次郎いますかー」
なんて一応声をかけてみた自分に笑えてきた。近くのコンビニでおつまみと牛乳、姉貴のビールも買った。いたい出費だ。
時間潰しに公園に寄った。考えるのは虎次郎のことばかり。俺に変身できるってことは、俺の代わりに学校に行かせるって手もあるな、夏に向けてバイトさせるとか。猫なんだから魚とミルクあげときゃいいし。でも、見たかんじかなり馬鹿っぽかったよなぁ・・・。
で、結局表向き仲良くならないといけない結論に達した。
姉貴には懐いてる。俺にも懐かせないと。
17時半、あたかも今着いたように向かった。
マンションの下で偶然虎次郎を見かけた。
チラッと俺をみたくせに、ひょいひょいっと先に行ってしまった。つれない。
だが、虎次郎を見たということは姉貴が帰って来てるのだろうと思った。
「どうぞ」
姉貴にむかえられ、また部屋の角に腰をおろした。
虎次郎は俺に姿をかえ、バニラアイスを食べていた。
再度俺は驚いた。変身できると知っていても、俺にそっくり過ぎる虎次郎に。