虎ちゃんトラちゃん
本当だった。虎次郎は人間、しかも俺になれるんだ。
「も もも、も一回変身して」
「ダーメ ねぇ虎次郎」
姉貴が虎次郎のまえ足をクロスさせ、ブッブー っと言った。
「まだ信じれてないんだよ」
っといってみたが、じゃー忘れたら なんて返されてしまった。
まじまじと虎次郎をみるが、猫としかいいようがない。姉貴にのどの下をくすぐられ気持ち良さそうにしている。
姉貴の後ろには、変身したときにいらなくなったのであろう赤いTシャツとチェックのハーパンがくしゃっとまるめられていた。
「マジかよ いつから? 変身て俺にだけ? 喋ってたよなぁ? 」
ゲハッケハッ・・
聞きたいことがありすぎて、必死になっていた、むせるほどのどがカラカラだった。
とにかく聞きたいことはいっぱいある。
「あ、なんか飲む?」
姉貴は冷静だ。冷蔵庫にむかい、「お茶かコーラか んー」
虎次郎と目があった そっぽをむかれた。いつもの反応だ。虎次郎は母親や妹には足下にすり寄ったりするが、俺には興味がない。猫って懐かないもんだと思っていたし、たまに虎次郎にあたったりしてたから、俺は怖がられているのだと・・・
「あ!」
ふと思い出したことがあった。姉貴は「返事ないから、お茶にしたわよー」っと冷たいお茶をさしだしてきた。一気に飲み干すと、
「こないだ虎次郎蹴ったのこいつにきいたのか!」
「そんな大きな声ださないでよ、ビックリしたよねぇー」
虎次郎に話しかけた。
「健が虎次郎蹴るから、あの日怖くて帰りたくなかったのよねー、猫にあたるなんてサイテーだよねぇー」
また虎次郎に話しかけた。
「虎次郎って俺以外にも変身できるの?」
「私は健以外みたことないなー 虎ちゃんできるの?」
ミャ 虎次郎は小さく返事した。
どっちなんだよ。
「まぁいいや、とりあえず俺になって話そうぜ、虎次郎」
虎次郎に向かっていってみた。人間になった方がわかりやすい。すごくおもしろいおもちゃを手に入れた気分だった。
一方虎次郎はその気が全くないのか、ラグの上で姉貴にお腹を見せてくつろいでいる。
「虎次郎、俺に変身しろよ」
全く俺の言葉を聞いていない。
ベシッ
頭をたたいてやった。これで従うだろう。っと、
バチン
姉貴がすごい勢いでたたいてきた。
「どうしてそんなひどいことするのよ、もう虎次郎怖がって二度と健の前で変身なんかしないわよ、ねー。しなくていいからねー」
「ちょ、ちょっと待ってよ。ごめん 悪かったって。」
虎次郎に謝った。猫に手をあわせるなんて滑稽だ。だが、ここで虎次郎の秘密を知っておきながら何もできなくなるのは避けたい。ご機嫌をとるべきだ。
「虎ちゃん トラちゃん とらさまー」
姉貴に「気持ち悪いわね」っといわれた。虎次郎はチラッと俺を見たが、ベットの上にのり、目覚まし時計をカリカリしはじめた。
もうすぐ九時だ。
「あ、お風呂ね、健悪いけど虎次郎お風呂にはいりたいって」
「え」
「いつももっと早くに一緒に入るんだけど」
「一緒に・・・」
「なーによ、健も一緒にはいるー?」
だれが入るかよ。結局、明日また虎次郎に頼んだら。と姉貴がいうのでそうすることにした。もやもやはあるが、虎次郎に嫌われては進まない気がした。
虎次郎に「明日、頼むからも一回変身してな」っと拝むと、俺は姉貴のマンションをあとにした。
ふと、姉貴と虎次郎がお風呂に入ってるのを想像してのぼせた。
猫ってお風呂嫌いだと思ってた・・・ん、もしかして人間の姿で入ってるとか・・・。
ありえる。
てことは、
てことは、
俺の裸、姉貴に見られてるじゃないか・・・。
帰り道は暗くて、すれちがう人も少ないが、はずかしさで赤面してるのが自分でもわかる。
俺はしばし公園で座ってから帰ることにした。